ガイドブック編集部 > 特集 > 映画・ドラマ舞台の歩き方 >  映画『スラムドッグ$ミリオネア』監督&原作者Wインタビュー > 原作者ヴィカス・スワラップ氏インタビュー

「地球の歩き方」30周年記念企画

原作者ヴィカス・スワラップ氏インタビュー



Vikas Swarup  ヴィカス・スワラップ氏

『ぼくと1ルピーの神様』原作者
原作者ヴィカス・スワラップ氏インタビュー

ダニー・ボイル監督は来日記者会見で「もし“クイズ・ミリオネア”の解答者になったら、電話での相談相手を誰にしますか」と聞かれ、「インドのことなら原作者のヴィカス・スワラップさんに電話するよ(笑)」と即答されていました。原作者から見た映画の感想を教えてください。

小説と映画は違うメディアです。その違いを楽しみました。脚本家のサイモンは最初に「あなたの小説は大好きだけど、映画にその全てを写し取ることはできない。でも物語のソウルは忠実に描きます」といってくれた。その約束は守られたと感じました。それにクイズ番組に沿って物語が進むという枠組みは小説のとおり。サイモンが私の小説に映画的な解釈を加えてくれました。同じ物書きとして、彼のクリエビリティに感謝します。だって映画と小説が同じではないからこそ、その両方を楽しめるわけだから。

映画は少年ジャマールが抱く少女への一途な思いが物語の原動力。小説はタイトルにもある1ルピーコインが愛をもたらしてくれるようですね(笑)。

実際のところは僕の小説には人間の犯してしまう“悪”もたくさん登場します。でもそれと同時に愛の持つ贖罪の力を描きました。“希望”が僕の小説のメッセージなんです。

ダニー・ボイル監督はインドの持つエネルギー、清濁を飲み込んだスラムの存在に強く惹かれ、それを中心に据えたと語っていました。

それが小説と映画の一番の違いだと思っています。私の物語の主人公ラム・ムハマンド・トーマスはデリー、ムンバイー、アーグラーなど様々なところで暮らし、いろんな人に出会います。イギリス人神父の教会、ギャングや女優の家、オーストラリア大使公邸。タージ・マハルでは日本人観光客相手にガイドもしますよ(笑)。彼の目を通してインドの様々な側面が露わになっていく。ムンバイーのスラム、ダラヴィはその一部なんです。

脚本家のサイモンがしばらくムンバイーに住んでいた経験が、映画に反映されているのかもしれませんね。だからこそ彼はスラムにこだわったのでしょう。ボリウッド映画はスタジオ撮影か海外ロケが多いですからね。

そうですね。この映画がこんなに受け入れられたのは、インドの監督さえ撮ったことのないムンバイーを捉えているからかもしれません。サイモンがダラヴィを歩き、そこの人と話し、実地で経験したことで生まれたストーリーだからこそ磁力を持つことができたのだと思います。映画からはムンバイーという街、そしてインドという国へのリスペクトを感じますね。

知る力、闘う知恵、感じる心。生きるためのパワーが生まれる場所

小説ではさらに広い視野でインドが語られます。政治腐敗、経済格差、児童虐待、売春、宗教対立など、現代のインドが抱える問題、暗部がよりリアルに浮き彫りにされていますね。

ヴィカス・スワラップ氏

はい、リサーチはかなりしました。13問のクイズの答えは、主人公の少年ラム・ムハマンド・トーマスの人生そのものにあるわけですから。孤児院のこと、スラムのこと、クリケットのこと、賭博のこと、ブードゥ教から山岳地帯の民族の売春の慣習まで。でもね、リサーチはあるところまでしか連れて行ってくれない。ストリート・チルドレンの心、考えていることは、自分が彼に共感して感情移入しないと書けないことなんですね。

外交官というポジションにいるスワラップさんが、対極のストリート・チルドレンの心になるというにはかなりむずかしい作業なのではないでしょうか。

だって人間である限りみな感情というものを持っているでしょう。人を求める心、夢に向かっていく野心、自分が経験した心の動きを思い出し、そこに「もし屋根がない家だったら」「食べるものがなかったらどうしようか」と想像力を膨らませて状況を重ねていきました。リサーチが与えてくれるのはリアリティのある背景だけですからね。

今はインターネットの発達でそのリサーチだけで、何かを知った気になってしまうという傾向があります。スワラップさんの想像力の源になったのはご自身が経験した喜怒哀楽の感情があったから。異なる立場、違う文化の相手を理解する上の大切なキーワードのような気がします。

究極の教科書は人生そのものだよね。だからインドを知りたかったら、アームチェアー・トラベラーではなく実体験で感じて欲しいですね。私の本はそのための格好のガイドブックになっていると思います(笑)。

トーマスにしても、決して純粋なだけではない。たくましさ、したたかさを備え、また復讐という負の感情も併せ持つ人間的な少年です。だからこそ、スラムの出身でありながら、クイズの勝利者になることができたのでしょう。

インドには10億の人間がいるから、政治的、社会的状況は様々です。でもみな人生をよりよく生きるための向上心を持って生きています。現状にうちのめされてうつうつと過ごしているひまなんかはない。暴力や貧困のサイクルを壊してよりよい人生、国にしようと立ち向かっている。それがインドの何よりの推進力となっていると信じています。

ヴィカス・スワラップ氏

Vikas Swarup
ヴィカス・スワラップ氏プロフィール

1963年インド北部、アッラーハーバード生まれ。弁護士の家庭に育ち、アッラーハーバード大学で歴史、心理学、哲学を学んだ後、インド外務省に入省。外交官としてトルコ、アメリカ、エチオピア、イギリスに赴任。高等弁務官代理として南ア、プレトリア勤務を経て、今夏より在大阪インド領事館総領事として日本へ赴任する。処女作「ぼくと1ルピーの神様」はイギリス滞在中に執筆。41ヵ国語に翻訳、出版された。2作目は小説「Six Suspects」。アーティストの妻と2人の息子がいる。



ぼくと1ルピーの神様

『ぼくと1ルピーの神様』
『スラムドッグ$ミリオネア』は、
この物語から生まれた!

映画チームが感じたインドの魅力をスクリーンから受け取ったなら、きっともっとインドのことが知りたくなるはず。ラム(ヒンドゥー教)・ムハンマド(イスラム教)・トーマス(キリスト教)という、3つの宗教の名前を持つ少年をガイド役に、ディープなインドの魔力に触れてみよう!


ランダムハウス講談社
¥840(税込)ISBN:978-4-270-10277-0


  • トップページへ
  • ダニー・ボイル監督インタビュー
  • インド旅のススメ


2009年05月


ページ上部に戻る
地球の歩き方ガイドブック 編集部