親父の河と呼ばれるミシシッピは、河口から500km以上さかのぼった中流域でたびたび氾濫し、泥の大地、ミシシッピ・デルタを作った。 ブルースとコットンの故郷として知られるこの地に1994年、カジノタウンが誕生。わずか8年でラスベガス、アトランティック・シティに次いで全米第3位に急成長したブームタウンを、このたび取材してきた。
●カジノにも"南部流のおもてなし"
場所はテネシー州メンフィス空港からバスで30分のチュニカTunica(注1)。24時間眠らない10軒のカジノに連日4〜5万人が訪れる。 ラスベガスのカジノのように巨大でも奇抜でもないが、ゲーム構成、最低賭け金、ルールなどはラスベガスとほぼ同じ(注2)。どのカジノにも食べ放題のバフェがあり、ウィリー・ネルソンなどビッグネームのショーやボクシングなどのイベントも行われている。
ラスベガスとの大きな違いは、通りをぶらつく観光客がいないこと。映画グッズを展示した『ハリウッドHollywood』、ブルースの殿堂博物館を併設した『ホースシューHorseshoe』などもあるが、アトラクション目当ての客は少ない。 そのぶんゲーミングは魅力的でなくてはならない。チュニカではなんといってもディーラーの人懐こさが印象的。プレイ中も客とのおしゃべりが絶えず、クラップスはもちろん、ポーカーのテーブルからも笑い声が響く。 ブルースを聴きにメンフィスを訪れたついでに、ぶらりと寄って1日遊ぶにはおすすめの場所だ。
ところで、取材中、気になるうわさを聞いた。チュニカのカジノは、すべて水に浮いているのだという。ええっ? 早速、調べてみると、ミシシッピ州法は「カジノは地域ごとに定められた水域に浮かぶ船vessel(注3)でのみ営業できる」と定めていることがわかった。したがって、すべてのカジノは沿岸警備隊の規則に従わなければならない! やはり、うわさは本当なのだろうか?
●罪深きものを許すとき
アメリカは(その行動はともかく)キリスト教徒が多数を占める国。とくにミシシッピ州は住民の4割近くがアフリカ系で、日曜ごとに教会へ通う敬虔な信徒が多い。そんな場所でギャンブルをするには、なにか言い訳が必要だ。 「日常から離れた特別な場所に限って、ハメを外しても大目に見てやろうじゃないか。そして利益の一部は福祉に使おう」――それがカジノボートだ。 1980年代のカジノボートは、ミシシッピ湾の公海上で営業していた。ネバダ州を除いてギャンブルを禁じていた連邦法がおよばないからだ。やがて、ラスベガスの成功によってカジノ産業が脚光を浴びると、出航と同時に営業できるようになり、川でもOKとなり、ついに、港に停泊中も営業できるよう州法が改正された。全米で最も所得水準の低いミシシッピ州が村おこしとして選んだ道だった。そのもくろみは見事に成功。今では税収の半分近くをカジノ産業から得ている。
●水に触れていれば"船"なのだっ!
ギャンブルを解禁した州の中には毎日出航することを求めている州もあるが、ミシシッピの場合、船は永遠に「停泊」していてもかまわないし、係留場所もミシシッピ河または「航行可能な水域」にあれば良しとされる。 「航行可能な水域」には小川や浅瀬、沼も含まれる。だから、河からはるかに離れた場所に建つチュニカ最大のカジノ『グランドGrand』だって、ちゃんと小川に面している、いや、停泊している。
チュニカのカジノは、普通の人間が見れば陸に建つ普通のビルにしか見えないし、エンジンがあるとも思えない。しかしそれでもカジノは水に浮いていることになっている。あの10軒の建物はコットン畑の真白い波に漂う船なのだ!
注1:カジノが集まっているのはチュニカ郡のなかでもロビンソンビルRobinsonvilleという町だけなのだが、どういうわけかカジノタウン=チュニカという呼び方が定着している。 注2:一部を除いてキノとスポーツブッキングはなく、宝くじは慈善目的を除いて禁じられている。 注3:vesselには「船」のほかに「容器」の意味もある。どうもここがミソらしい。
■歩いてハシゴできるカジノは少ないのでシャトルバスを利用しよう。運行:日〜木10:00〜23:00、金・土〜深夜3:00。料金:$1 ■ゲーミングは21歳から。スロットマシンもダメ。 ■ネバダを除く各州でもしも水辺以外にカジノを見つけたら、そこは先住民居留地だ。居留地は州に匹敵するほどの権限を持つ「独立国」で、カジノの認可も独自に行うことができる。 ■チュニカについての詳しい情報は http://www.tunicamiss.org
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・チュニカ/ミシシッピ州
・地球の歩き方編集スタッフ ふじもと たかね

写真(上)たびたび洪水を引き起こしたミシシッピ河。今では高さ約12m、長さ約157kmにおよぶ堤防に囲まれている 写真(中)31階建ての"船"『ゴールド・ストライクGold Strike』は州でもっとも高い建物。ラスベガスのルクソールと同系列だ 写真(下)ビロクシやナッチェスにもある『アイル・オブ・カプリIsle of Capri』はトロピカルがテーマ
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