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コッツウォルズ

観光客が多いにも関わらず端正な佇まいを保つバイブリー
観光客が多いにも関わらず端正な佇まいを保つバイブリー


取り残されて理想郷となった“コッツウォルズ”

ストラットフォード・アポン・エイボンから南に車で30分も下れば、英国人がリタイア後に住みたい憧れの地、コッツウォルズが広がっている。蜂蜜色のライムストーン(石灰岩)の家並みの村が点在し、それはそれは穏やかな光景を作り出している。因みにCotsコッツとは小屋とか動物を囲い入れている場所、Woldsウォルズは丘を意味している。

ここは、13〜14世紀に羊毛の集散地として大いに栄えたものの、産業革命によって機械化が進み、機械による機織りに適していた綿に羊毛は取って代わられてしまう。結果、羊毛産業は衰退し、コッツウォルズの村は取り残され、往時のままの佇まいを今に残すことになったのである。

ハニーカラーの色合いが分かる新旧のライムストーン。石塀はなんの接着剤も使わずに積み上げられている

ハニーカラーの色合いが分かる新旧のライムストーン。石塀はなんの接着剤も使わずに積み上げられている


時は過ぎ、19世紀の末に大量生産、大量消費を否定し、中世の手仕事の復権を唱えたウィリアム・モリスが、理想郷として選んだのがコッツウォルズのケルムスコット村。モリスの主張は「アーツ&クラフト運動」となって広まり、ほかのアーティストやクラフトマンたちも移住したこともあって、コッツウォルズは20世紀初頭に憧れの地となったのである。

コッツウォルズは南北に約160kmと長いので、拠点場所と移動手段の選択は重要だ。今回は西のゲートウェイ、チェルトナムに宿泊し、移動手段はショーファー付きの車を頼んでみた。

チェルトナムはコッツウォルズの中では異色の存在。もともとは羊毛産業で栄えたが、1715年に鉱泉が発見され、1788年にジョージ3世が訪れたことから温泉保養地として急速に発展した。病気のジョージ3世に代わって息子のジョージ4世が摂政となった時代(19世紀前半)に、リージェンシー様式という優雅な街並みが誕生した。テラスを飾る鉄のレース、円柱、漆喰、テラコッタを施した建物がゴージャス。産業革命が進み、絶対王政を背景に貴族たちが社交を楽しんだ時代である。かつての社交場ピットヴィル・パンプ・ルームでは今でも鉱泉が試飲できる。現在のチェルトナムは、競馬、音楽フェスティバルなどイベントも多く、ショッピング・アーケードも充実している華やかな街。但し、日曜はショップや博物館なども閉まっているので気をつけたい。老舗ホテル「ザ・クイーンズ」をはじめ、多くのホテルがあるので、ここをコッツウォルズ巡りの拠点にする人も多い。

インペリアル・ガーデンから見たザ・クイーンズ

インペリアル・ガーデンから見たザ・クイーンズ

今も鉱泉が飲めるパンプ・ルーム。絵ハガキには、腸に効くという鉱泉を飲んでトイレに駆け込む貴族たちが描かれている

今も鉱泉が飲めるパンプ・ルーム。絵ハガキには、腸に効くという鉱泉を飲んでトイレに駆け込む貴族たちが描かれている


村めぐりは命の保養

チェルトナムからコッツウォルズの村へ入ると一気に500年もの時が遡る。ドライバー&ガイドのボブさんの最初のお勧めは、一番高い標高のマーケット・タウン、といっても240mのストウ・オン・ザ・ウォルド。すでに11〜12世紀に羊毛マーケットとして一番に賑わいをみせたというだけあって、美しい蜂蜜色の家々が広場を囲んでいる。その中に埋もれるようにイングランド最古、947年創業のホテル「ザ・ロイヤリスト」も存在する。また、アンティーク・ショップが40以上もあるアンティークで有名な町。訪れたときはタウンホールでアンティーク・フェアが開催され、大賑わい。例えばティーカップとか探し物を決めてから見ると、掘り出し物に出会える可能性も高い。

ストゥ・オン・ザ・ウォルドで行われていたアンティーク・フェア

ストゥ・オン・ザ・ウォルドで行われていたアンティーク・フェア


次に向ったのはロウワー・スローター村。澄みきった水がさらさらと流れる川が通っているだけの小さな村。川に遊ぶカモの群れ、蜂蜜色の建物と水車……こんな何気ない光景に心が癒される。1.3km離れたアッパー・スローター村までのウォーキングがお勧めだが、川沿いをぶらぶら歩くだけでも気持ちがいい。

南コッツウォルズの最後を飾るのはやはりバイブリー。ウィリアム・モリスが「イングランドで最も美しい村」と讃えた村だ。清澄な水が流れるコルン川を中心に、蔦の絡まるスワン・ホテルが佇み、川の向うに蜂蜜色も渋い色合いを見せる家並みアーリントン・ロウ。この家並みは14世紀には羊小屋や倉庫だったが、後に機織り職人の住居になったときに屋根が付けられたのだという。アーリントン・ロウとその前に広がる草地はナショナル・トラストの管理下にあるので、夕暮れ時に真横から差し込む夕日を浴びて、蜃気楼のような黄金色に輝くアーリントン・ロウの光景は、未来永劫変わらないはず。

ただし、訪問者は増えているようで、スワン・ホテルのレストランは新しくなり、鱒の養殖場のショップには様々な土産物が並び、前に訪れたティールームは姿を消していた……それでもやっぱりバイブリーの佇まいを前にすると“来てよかった”……何かがまっすぐに心に落ちてくる。『訪れて良し、住んで良し』というのが本来の観光地というが、住人の村に対する想いが伝わってくるのかもしれない。ということで、旅行者は窓などを覗き込むのは厳禁なことはもちろん、写真以外は何もとらず、足跡以外何も残さず……がマナーだ。

午後も遅くなったので、スワン・ホテルの落ち着いたリーディングルームでアフタヌーン・ティーをいただく。外が静かになったと思ったら夕暮れ。車も人も三々五々散っていく。コッツウォルズでは、できれば村に何日か滞在して、朝や夕暮れの散歩を楽しんだり、何気ない心地よさを感じたり、暮らしている気分を味わいたい。

村の入口に佇む蔦の絡まるスワン・ホテル 何もないのが魅力のロウワー・スローター

何もないのが魅力のロウワー・スローター

バイブリー村の入口に佇む蔦の絡まるスワン・ホテル


アクセス

ロンドン・マリルボーン駅

ロンドン・マリルボーン駅

ロンドン(Marylebone駅)からストラットフォード・アポン・エイボンまでは鉄道で2時間20分。ストラットフォード・アポン・エイボンでは、乗り降り自由で郊外の見どころまでカバーするシティ・サイトシーイングのバスが便利。
ストラットフォード・アポン・エイボンからチェルトナムまでは約56km、車で約1時間半。コッツウォルズ内はバスも運行しているがあまり便利ではないので、レンタカーかショーファー付き(ドライバー付き)の車が便利。
協力:Diamond Tours


2008年7月


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地球の歩き方ガイドブック 編集部