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監督にとって旅に出る一番の動機はなんでしょうか。

新しい場所を目にしたい、「行きたい、知りたい」という好奇心がまずあってこそ、実際行った時に驚きや感動が結果として得られるのだと思います。だから僕にとって旅への思いを突き動かすのは好奇心でしょうね。

10日間で撮影技術を身につけ南極へ同行したという学生時代の経験は監督に影響を与えましたか。

それはもう、あんな厳しい自然条件で15カ月も生きるわけですから戻ってきた時に同じ人間であるはずがありません(笑)。いかに普通の生活が自由かということを実感しました。そして南極での経験を通して、自分たちが生きている世界に対して少し客観的な視点というものを得られたと思います。

前作『皇帝ペンギン』が日常から遠く離れた場所、アウェイで撮られた作品だとしたら、新作『きつねと私の12か月』は監督がよく知っている世界、ホームで撮られた作品ですよね。撮影旅行で長く家を離れていたことも関係していますか。

エキサイティングな旅をする、アドヴェンチャーを生きるというのは距離の問題ではないと思っているんです。好奇心とか冒険をしてみたいという人間の持っている欲望さえあれば、それが遠くであろうが近くであろうが、距離には関係ない。自分の家の門を出たすぐそばでも冒険を体験できるということも、この映画を通していいたかったことのひとつです。それにすごく旅が好きな人でも、常に一度家に戻ってこないと旅はできないという人もいますよね(笑)。

『きつねと私の12か月』の主人公の少女、リラのような子どもにとっては10キロがはるか遠くの場所にも感じられますよね。

その通りです。たとえばこの映画で提示している風景はリアリティを追及した描写ではないんです。子供の目から見たらどう見えるかという子供の視点を通した風景なんですね。大人にとってはちょっとしたことでも子供にはすごく素晴らしい感動する風景に見えていたりする。平凡なものをアドヴェンチャーに変える力を子供は持っている。 だから子供の解釈による風景ともいえるんです。

『皇帝ペンギン』でも『きつねと私の12か月』でも、自然を舞台とし動物を主人公に据えながらも、ストーリーの下敷きにあるのは人間の物語のようにも思えます。

僕のこの作品で描きたかったのは、きつねと女の子が自然の中で出会った時、お互いが何を考えているんだろう、どんなところで生活しているんだろうと、そういう気持ちが芽生え交差していくところなんですね。

ご自身の経験でもあるのですか。

誰でも野生動物に初めて会った時に、そういう疑問は生まれるのではないでしょうか。その時に答えを導きだしてくれるのは科学の力ではない。それは自分たちの本能や経験から推測するしかないんです。どう言葉で説明しようとしても説明できないものがある。自然の中ではそんな交流が起こっているんだということをこの映画で語りかったのです。

自然と遠ざかっていると、いつの間にか自然から何かを受け取る能力が落ちてくるのかもしれませんね。

太古の昔から自然というのは人間にとっての“家”なわけです。それがこの2、3世代ぐらいからでしょうか、人間が都会に集中して生きるようになってから、だんだんと遠い存在になり、自然は楽しみのために行く非日常の場所になってしまっている。今まで自然の中に暮らしていた農民であるとか地方の人たちの中でも、自然と触れ合う伝統が失われつつあるのはとても危険なことだと思っています。未来永劫人間は自然とともに生きていかなければいけないのに、その絆が失われてしまうのは人間にとって憂慮しなければならないことです。それをもう一度再認識して欲しいですね。

今、日本では海外旅行へ出る若い人の数が減少しているという傾向があります。一枚の張り紙がきっかけで未知の世界へ飛び込み、動物学者から映画監督へ転身した監督から未来の旅人へのメッセージをお願いします。

たとえばこの映画のロケ地は山地としても中くらいですし、すごく例外的に素晴らしいものがあるわけではないです。でももう少し何かを知りたいという気持ちがあれば、リラのように、行くつもりのなかった場所に行きついたり、見るつもりのなかったものが見られたり、最初に思っていた目的とは違うものがあなたの周りに現れて、それが大きな喜びになるかもしれません。ありきたりの目で見るのではなく、「もう少しもう少し」という好奇心と冒険心を持って旅に出てみてください。そうすればきっと予想し得なかった何かに出会えるはずです。

 

Luc Jacquet
リュック・ジャケ監督プロフィール

1967年フランス生まれ。91年リヨン第一大学で動物生物学の修士号を取得。93年グルノーブル大学の山地における自然環境マネジネント専門研究課程に進む。24歳の時にフランス国立科学研究センターから鳥類の生態研究のため南極に派遣され、この時に動物ドキュメンタリーの制作にカメラマンとして関わる。その後、大学を休学して映像の世界でのキャリアをスタートさせ数々のTVドキュメンタリーを制作。2005年初の長編ドキュメンタリー映画『皇帝ペンギン』を完成、世界的ヒットで注目される。本作は長編第二作。初のフィクションに挑戦した。

2008年12月


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地球の歩き方ガイドブック 編集部