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第一部:旅

香港から中国を旅してみようと思って2ヵ月かけて北京へたどり着いた。
        この旅で中国という国にすごく興味を持ったんだ

――ルイスさんの中国との出合いはどんなふうだったのでしょうか。

大学を卒業した後、6ヵ月ほどインドを旅したんだけど、お金を使い果たしてしまって英国に帰ろうにも戻れなくなってしまった。当時、まだ香港は英国領だったから、香港へは安く行けたし、行くのもカンタンだった。それでカルカッタから香港へ渡り、香港で英語を教えたりしながら資金を貯めたんだ。いざ、お金が貯まって帰国しようとしたとき、このまま英国へ飛んで帰るより、地続きの中国を旅してみようと思って2ヵ月かけて北京へたどり着いた。この旅で中国という国と文化に対してすごく興味を持った。香港で仕事をしたことと併せて、自分が中国にとても惹かれていることに気づいたんだよ。

――英国へ戻られてから今度はトラベルライターとして再び中国へ渡るわけですね?

帰国してから中国語を学び始めたんだ。僕は、それまで延べ2年間ほど海外で見聞きしたことを常に書いていて、旅行ガイドを作っている出版社に「仕事をいただけませんか」と送り続けていた。当時、中国語を話せるライターはほとんどいなかったので、ラフガイドから仕事の依頼があった。それでラフガイドの中国編初版を2年間かけて作ったんだ。

――トラベルライターとして中国取材に出かけることになったときどんな準備をしました?

実は、まったく準備はしなかった。ただ、少しでも中国語を身につけようという努力はしたよ。中国語を話す人とふれあうようにしたり、不法滞在中国人の家のペンキ塗りを手伝うなど生活の手助けをして、その代わり中国語を教えてもらったりして。 当時、取材で行ったのは上海や北京といった都会だけでなく、地方の都市を含まれていて満州、四川省やチベット自治区など広範囲にわたっていた。でも、現地の情報収集とか事前準備はまったくしていかなかったんだ。

――では、実際の取材はどんなふうに?

ただただ、何ヵ月もかけてひとりで街を回るという取材だった。最初に行ったのは、東北地方の満州。ローカルバスを使ってめぐったんだけど、1998年頃、この地方には外国人がまったくいなくて、地元の人たちは僕をロシア人だろうと勝手に思いこみ、奇妙な体験をしたよ。3〜4ヵ月間も英語を話すことがほとんどなかったんだ。当時、僕の中国語は初級レベルだったけど、英語を少し話せる若い人たちとコミュニケーションをとろうとするうちに、少しずつ中国語も話せるようになってきた。すごくおもしろい経験だったよ。

――「ラフガイド」には取材ルールなどはあったのでしょうか?

初版だったから何のたたき台もなかったんだ。本当に自由で取材ルールもなかった。「これがあなたの担当地区なので現地に行って取材して作ってください。このエリアへまず行って80ページ、こちらは50ページ」という本当にアバウトな感じで。どうぞ、行って行ってという感じだった。

――「ラフガイド 中国編」には読者からどんな声が届きましたか?

反響はとても好意的だった。ライバルと誌としては、「ロンリープラネット」があるけど、「ロンリープラネット」の中国編は、ライターに年長者が多かったためか、お寺や公園の紹介などがメインで内容が少し古くさかった。ラフガイドが初めてバーやナイトクラブなどの中国の最新情報を盛り込んだんだ。新しい視点のガイドブックは、読者の支持を得ることができたよ。

「海外をバックパックで旅するというのは、 英国では若い人にとって文化的ムーブメントなんだ。」

――「ラフガイド」はバックパッカーを対象とした旅行ガイドブックということですが、英国は今もバックパッカーは多いのですか?

今もバックパックの旅はとても人気がある。英国の教育システムは、17歳のときにAレベルというのを受けるんだ。それから大学へ行くまでの間と、大学を卒業してから仕事をするまでの間、「ギャップイヤー」といって半年から1年間、自分の好きなことをできる時間があるんだ。“世界を知っている”ということを大学も評価してくれることもあって、Aレベルを終えるとあまりお金を持たずに、海外をバックパックで旅するというのはみんながやること。若い人には文化的ムーブメントなんだ。

――英国の若い人にとって中国とはどんな国なのでしょう。

あまり良く知らないというのが現状だと思う。万里の長城だとか、歴史のある国というありきたりのイメージは持っていると思うけど。同時に今のスーパーパワーを意識しているところもあって、みんなもっと中国を知るべきだと思っているはず。でも実はよく知らない。

――ルイスさんが今までしてきた旅の中でとくに印象深い旅先はどこですか?

インドだね。最初の小説『Go』を書くためのアドバンス(前金)をもらったが英国で暮らすには少し厳しい金額だったので、インドヒマラヤ山脈近くの小さな村へ滞在して執筆したんだ。森の中にある山を望む小さな家で、朝起きるとしぼりたての水牛のミルクをたき火にかけ、ライスプディングを作るのが日課だった。インドには何度か行っているけど、あの毎朝の光景は今も心に残っている。

――ルイスさんにとってアジアとはどんな場所ですか?

自分の知っているヨーロッパ的な世界とまったく異なり、好奇心が刺激されるところ。そして、食べ物がおいしくて、安心できる安全な場所かな。

――日本の若い人に英国のおすすめの旅先を教えてください。

日本人は、よくキングスクロス駅あたりでハリーポッター探しをしているけど、あのエリアはきれいじゃないし、あまり治安もよくないからおすすめしない。僕のおすすめは、イングランド南西部に位置するコンウォール半島。あそこには美しい自然があり、伝統的な英国がある。それから僕の故郷のウェールズもとてもよいところだよ。南ウェールズは山や川がきれいだし、北ウェールズは深い山があり、ローマ時代の砦や古城が残っていて歴史的にもとても興味深い。ぜひウェールズを旅してみてほしい。

――旅はルイスさんの人生に大きな影響を与えていますね。ルイスさんにとって旅とは何ですか?

僕にとっては大学で学んだことより、旅で学んだことのほうが大きい。旅をすることは、世界大学で学ぶようなこと。独立心も確立されるし、異文化について学べる。異文化について学ぶということは、翻れば自分の文化を知るということなんだ。


2010年07月



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地球の歩き方ガイドブック 編集部