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第二部:仕事

香港から中国を旅してみようと思って2ヵ月かけて北京へたどり着いた。
        この旅で中国という国にすごく興味を持ったんだ
香港から中国を旅してみようと思って2ヵ月かけて北京へたどり着いた。
        この旅で中国という国にすごく興味を持ったんだ

――『黒竜江から来た警部』は、なぜ主人公の出身地を黒竜江にしたのですか。

黒竜江省は、僕が中国取材で最初に入った地域だった。僕自身が中国語もろくに話せず黒竜江で大混乱に陥り、何もかもままならなかったという体験があったので、小説を書くときにそういう経験を投影したんだ。もうひとつの理由は、この地域出身の人物が活躍する小説を見たことがなかったこと。だから粗野な田舎出身の文革経験者である警部を主役にしたんだ。それに加えて中国人の友人の多くがこのエリアの出身者だったことも影響している。この地域の人は独特のキャラクターがあるんだ。たとえば、スコットランド人とイングランド人の違いみたいな感じ。英国人から見る中国は、一番身近なのが香港なんだ。中国の映画といっても香港映画だし、それが中国のイメージだった。それを逆手にとって主人公を一番シベリアに近い北部出身という設定にしたんだ。

――なるほど、英語を話せない主人公の警部が英国で大混乱をするというのは、ルイスさんの中国での体験を置き換えているんですね。

そうなんだ。僕も中国でバスの切符を買うという本当にシンプルなことでさえできない、そんな自分に腹を立てたんだ。主人公は警部だし単なる旅人ではなく、解決しなくてはいけない事件を追っている……。そんな彼を異文化の中に置いてみたら相当苦労をするだろうし、それは書き手としてはおもしろいことだったんだ。

――リヴァプールとリーズという英国の町が小説に登場しますが、ふたつの町に何か思い入れがあるのでしょうか。

特に僕に思い入れがあるわけではなく、物語がそれを必要としたんだ。主人公の出身地が中国の東北部であったように、英国もロンドンではない北部にしたかった。 2004年にランカシャー郡のモーカムベイというところで、中国人不法滞在者が高波に呑まれて23人亡くなるという事件があったんだ。彼らはギャング団に使われていて貝を採集する作業をしていた。その事件が起こったのがリヴァプールとリーズのちょうど間くらいに位置する場所なんだ。

――トラベルライターとして仕事をしていたルイスさんが小説を書こうと思ったのはなぜなのでしょう。

「ラフガイド」の中国編初版を取材・執筆した経験はいろいろなことを僕に教えてくれた。取材して1日にとにかく2000ワード書くということが非常に良いトレーニングになった。ガイドブックを書くことで学べることは形容詞の使い方。そして少ない言葉で的確に表現するということ。これは小説を書くときもとても重要なんだ。それから僕が取材中に体験し感じたカルチャーショック、文化の衝突といったことを小説に書きたかった。

「物書きとして重要なのはその時代を映すこと。
今はかつてないほど、いろいろな文化が
ミックスされたり衝突したりしている時代だと思う。」

――英国でも中国からの不法滞在者が問題になっているのでしょうか。

その通り。ただ、不法滞在者を連れてくるのは秘密の組織だから市民はあまり知らない。中国のギャング団が不法滞在者を働かせて賃金を搾取している。僕は、この隠されたストーリーを届けなくてはと思ったんだ。モーカムベイで貝を採っていた中国人たちは、1日1ポンド(約135円)という驚くべき低賃金で働かされていて奴隷のような状態だった。彼らは夢のような甘い言葉に誘われ、大金を借金して外国へやって来るけど、いくら働いてもお金は稼げないような仕組みになっているんだ。僕は、物書きとして重要なのはその時代を映すことだと考えている。そういった意味で今はかつてないほど、いろいろな文化がミックスされたり衝突したりしている時代だと思う。

――最後に今後の活動予定などについてお聞かせください。

まず、現在、チベットについての映画の脚本を書いているんだ。それから小説を1本執筆中でどちらも年末アップをめざしている。それと並行して北京と上海のガイドブックを書かなくてはならないんだ。実は、明日北京に向かい、1ヵ月取材旅行をすることになっている。中国は変化が激しくて取材が大変。今後も小説とトラベルライティング、両方をやっていきたいと思っている。僕にとってふたつの仕事のバランスがとても心地いいんだ。


黒竜江から来た警部

黒竜江から来た警部

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英国留学中のひとり娘から突然かかってきた「助けて」という電話。ジエン警部は英語がまったくできないことも忘れて英国に単身飛ぶ。言葉の壁やカルチャーギャップにもめげず、ジエンは中国系移民社会の人々を巻き込みながら、娘の行方を追う。その結末は……? 元紅衛兵の警部ジエンが犯罪組織に挑むミステリ小説。

2010年07月



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地球の歩き方ガイドブック 編集部