ガイドブック編集部 > 特集 > ブルガリア歴史さんぽ > カザンラク

カザンラク

「バラの谷」として有名なこの地域は、2004年、歴史的な発見によって一躍世界からの注目を浴びた。見つかったのは672gもの重さの「トラキア王の黄金のマスク」。「王家の谷」の異名も「伊達」じゃない。


バルカン山脈とスレドナ・ゴラ山脈に挟まれた地域は、バラの産地として世界的に有名である。今では、ローズオイル用のバラの70%をここで生産し、このエリアは「バラの谷」と呼ばれるようになった。中心地のカザンラクでは毎年5月下旬〜6月上旬に「バラ祭り」が行われ、世界から観光客が訪れるようになった。カザンラクの歴史は古く、新石器時代には人が住み、紀元前4〜紀元前3世紀にはトラキア人支配の中心地となっていた。1944年に「トラキア人の墳墓」(世界遺産)が発見されると、以後続々と歴史上重要な遺跡、遺物が発見されるようになり「バラの谷」は、歴史好きにとってもぜひ訪れたい場所になった。

カザンラク市の中央部にあるイスクラ歴史博物館は、1901年の開館。カザンラク地方で発見された出土品のすべてを保存している。なかでもトラキア人の「王家の谷」から見つかった金細工の圧巻のコレクションは必見

イスクラ歴史博物館の内部。展示は、新石器時代から近代までにわたる。1944年4月19日に発見されたカザンラクのトラキア墳墓、トラキア都市セウトポリス、カザンラク付近で見つかった墳墓からの出土品は見逃せない

赤像式の古代ギリシアの陶器も発掘されている。またアンフォラ呼ばれる壺も発掘され、それに彫られていた銘から、エーゲ海からオリーブオイルを運んできたことが分かった。すでにエーゲ海の国と交易を行っていたのである

銅の兜とトラキア人の女神があしらわれたすね当て。皮の胸当て、鉄の剣などと一緒に、トラキア王セウテス3世(紀元前4世紀)の墓に埋められていた

紀元前4世紀頃のトラキア王の王冠。デザインといい、繊細な細工といい、ホントにそんな昔のもの? というくらい、驚かされた。金の展延性を活用したトラキア人の発想に、ただただ感心

この博物館の目玉といったら、この「トラキア王の黄金のマスク」。2004年に発見され、当時は「世紀の発見」と話題になった。それまでにも金箔を使った軽量、薄手なマスクは見つかっていたのだが、厚い金の板を打ち伸ばして作ったものはこれが初めて

カザンラクの北東にあるトュルベト公園。この丘で、第二次世界大戦中の1944年、防空壕を掘っていた兵士が偶然発したのが「トラキア人の墳墓」。公園へはこの階段を上って

「黄金のマスク」を横から見ると、意外に厚みがある。このマスクがワインを飲むためのフィアラ杯として使用されたからである。ちなみにこのマスクのサイズは、高さ20cm、幅23cm、奥行き4.1cmで、重さは672g

ユネスコ世界遺産に登録されている「トラキア人の墳墓」(右)。この中にオリジナルの墳墓が保存されている。隣のれんがでつくられた小さな廟は、ブルガリアでの最も初期のイスラム建築のひとつで14世紀半ばの建造といわれる

トラキア人の墳墓の複製公開部の入り口。ここで見られるのはレプリカである。とはいえ墳墓のつくり、壁画が忠実に実物大で再現されており、複製には見えない

墓室へ連なる通路の天井に描かれた画。対決する軍隊の様子が、筆致も鮮やかに生き生きと描かれている。騎馬の動きや兵士の動きの描き方は、とても紀元前4〜紀元前3世紀のものとは思えない

墓室の天井画。写真下部の椅子に座った男女がこの墓の主、ロイゴスとその妻である。その他、音楽家、贈り物、贈り物としての馬などが描かれている。ちなみに、ロイゴスの妻は、今では「バラの女王」としてカザンラクのシンボルになっている

墳墓複製公開部に入ると、出土品の一部とこの墳墓の発見から1979年の世界遺産登録までの歩みがパネルで展示されている。盗掘されてしまったようで、副葬品は少なかったという

ブルガリアで最初のバラ精油工場は、エニオ・ボンチェフによって1909年につくられた。しかし第2次世界大戦後、ブルガリアが共産主義国家となったことで工場は没収されてしまう。精油工場を創業者一族が取り戻し、事業を再開したのは1992年のことだった

エニオ・ボンチェフ社の私設博物館。12畳ほどだろうか、小さな部屋には創業者であるエニオ・ボンチェフの書簡や写真、使っていた鞄などがところ狭しと展示されている。ガラスケースに納められているわけではないので、時空を超えてエニオを身近に感じることができる

エニオ・ボンチェフ社の蒸留所は、カザンラクの中心から北西に20kmほどの、人里離れた場所にある。バラ畑に近く、蒸気を冷やす清涼な水が得られる場所というのが、蒸留所の必要条件であるからだ。蒸留所の外には昔の蒸留釜が置かれていた

銅製の蒸留釜が並ぶ蒸留所。年にわずか3 〜4週間しか咲かないバラの花を、夜明け前の5時から10時ごろまでの間、一輪一輪手摘みし、その日のうちに蒸留する。3tのバラからわずか1kgの精油しかとれない。ローズオイルが高価なのは当然

私設博物館の一角は、ショップになっている。ローズオイル、ローズウォーターなど、ここで手に入れるのもよいだろう。ここで教えてもらった豆知識をひとつ。ローズオイルは17℃で固まるそうだ

エニオ・ボンチェフ社の横にあるバラ畑。初冬だけに、幹だけになってしまった木はバラと言われなければ、そうとは分からない。バラ摘みの時期には、工場のスタッフのほか季節労働者も加わり、この畑もたいへんなにぎわいをみせる



ページ上部に戻る
地球の歩き方ガイドブック 編集部