デルフトの眺望

『デルフトの眺望』はデルフトの町並みを描いた都市景観画であり、多くの文人たちも魅了されてきた。そのひとりがマルセル・プルーストである。彼の著作『失われた時を求めて』の第5巻「囚われの女」では、登場人物の一人である作家ベルゴットが『デルフトの眺望』を観るために、オランダ美術展に足を運ぶシーンがある。彼はその絵の中にある黄色い壁面(正確には、日に照らされた屋根)に視線を奪われ、そのマチエールに圧倒される。そして、「廂のある黄色い小さな壁面、黄色い小さな壁面」と心の中で繰り返しているうちに発作に見舞われ、息絶えるのだ。
マルセル・プルーストは、1902年にマウリッツハイスで、1921年にはパリのオランダ絵画の展覧会で実際の『デルフトの眺望』を観て、友人に宛てた手紙の中で<この世で最も美しい絵>と評している。
「牛乳を注ぐ女」や「真珠の耳飾りの少女」でフェルメールを知った私にとっては、室内の人々を描いた作品がフェルメールの全てだった。だから市街風景を描いた「デルフトの眺望」は新鮮であり、いつか実物を見たいと願っていた。今回はその念願が叶い、絵を見て、そしてその絵が描かれた場所に立つことができた。スヒー川の対岸から眺めた様子は、建物の構成などかなり異なっている上に、実際の『デルフトの眺望』は、もう少し高い位置からの構図なので印象は異なっているものの、川越しに見る新教会の塔が見えたときには、感慨深いものがあった。

(c)Mauritshuis
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