原罪のクリプタ

更新日
2023年10月5日
公開日
2023年10月5日
AD

マテーラ市内から約15㎞、ブドウ畑を抜けると、緑深いピッチャーナ渓谷に到着だ。この険しい渓谷の隠れるような洞窟に「原罪のクリプタ」がある。南イタリアにおける最古の洞窟壁画で、ベネヴェントにロンゴバルト族が栄えた8世紀から9世紀に、かの地から逃れた僧たちにより描かれたといわれている。

渓谷に面した階段を下って内部に入ると、明るい外から来たためか、闇の世界が広がる。ガイドに導かれて洞窟内の地面に腰を下ろすと、厳かな聖歌が流れ、壁面が明かりに照らされる。このプレゼンテーションが見事なのか、誰からも驚きの声がもれる。壁面には赤いケシの花が散りばめられ、大きな目の聖人やその鮮やかな衣装、バンザイをするような姿など、おおらかな明るさに満ち、幸福感に包まれた壁画が広がる。

座った正面には、小さなアーチが3つ続いている。ひとつ目のアーチには、3人の聖人像が描かれ、中央、指で三位一体を示しているのがサン・ピエトロ、左にサンタンドレア、右手を挙げているのがサン・ジョヴァンニ。続いて、王女聖マリアとふたりの聖女La Vergine Regina Santa Maria tra due Santeで、中央の聖マリアは、幼子を抱き、ゆったりとした美しい衣装を身に着け、神々しく威厳ある姿。3つ目のアーチには大天使ガブリエル、ミカエル、ラフ
ァエルが描かれ、上部にはその名前が書かれている。

右の壁面は旧約聖書の創世記の「原罪」Il peccato delle originaleが描かれ、これがマテーラのシスティーナ礼拝堂といわれるゆえんだ。創世記とは、神が世界を最初に作ること。神は、まず光を作り、昼と夜ができ、空・大地・動物など、そして最後に人を創造し、アダムとエヴァが生まれた。ふたりが暮らしたエデンの園には命の木と善悪の木があり、神は善悪の木の実は食べてはならないと命令された。しかし、蛇がエヴァに善悪の木の実を食べることをそそのかし、食したふたりはエデンの園を追放され、人類は多くの苦しみを味わうことになる……。

左上から、バンザイする姿で描かれているのが、光でその横に闇、木に続いて男女の創造、蛇が巻き付いた木の横には3人の姿があり、右のエヴァは禁断の実に手を伸ばしている。禁断の実がリンゴではなく、イチジクなのはこの地はリンゴは実らないからといわれる。

写真

  • 左から、「サンタンドレア、サン・ピエトロ、サン・ジョヴァンニ」
  • 「王女マリアとふたりの聖女」。王女の美しい衣装に注目
  • 大天使3人。左から、ガブリエル、ミカエル、ラファエル
  • 「原罪」全体図。テーマとは異なり、明るい色調がおおらかな雰囲気
トップへ戻る

TOP