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張りつめた空気があたりを包む。霊峰アグンが闇を切り裂くように姿を現し、差し込んだ日差しが黒々とした玄武岩の聖門チャンディ・ブンタルを浮かび上がらせる。荘厳なバリの夜明けだ。
ブサキ寺院は、アグン山中腹、標高およそ900mの所に建立されている。大小30余りの寺院によって構成される複合寺院で、バリの人々からは「母なる寺院」やバリ・ヒンドゥーの総本山としてあがめられる。10世紀頃、仏教僧の瞑想の場として使われていたといわれるブサキは、16世紀、ゲルゲル王朝時代に王家の葬儀に使われる寺院として、その名を知られるようになる。以後、ヒンドゥー3大神シヴァ、ブラフマ、ヴィシュヌを祀る3寺院を中心に、各州の寺院などを包括するようになった。
ブサキを訪れるなら早朝がいい。それも日が昇った直後だ。アグン山は薄紫色の全容を現し、東のかなたから差し込む光の筋は、あたかも神が降臨する道のようだ。聖地ブサキは、この一瞬だけ、異教徒の私たちにも神の姿を見せてくれる。
中央に鎮座するプナタラン・アグン寺院へ
プナタラン・アグン寺院Pura Penataran Agungは、シヴァ神を祀る中心寺院。チャンディ・ブンタルへ通じる石段の両側はテラス状になっており、両側にヒンドゥー神の彫刻が施されている。チャンディ・ブンタルから先の境内には、バリ式の正装をしていないと入れない。ここから境内をのぞくと11層のチャンディ・クルン(大門)、9層や11層のメル(塔)などが目を引く。なおプナタラン・アグン寺院の境内は、大きく6つに分かれており、第2境内の奥にあるサンガー・アグンSangger Agungが特に重要とされている。シヴァ、ブラフマ、ヴィシュヌのための蓮座(パドマサナ・ティガPadmasana Tiga)が置かれている祠だ。
見晴らし台から雄大な景観を満喫
プナタラン・アグン寺院の周りには石畳の道がつけられ、ぐるりと1周して見て回ることができる。特に北東部脇にはワルンと見晴らし台が造られているので、ひと休みしながらあたりの景色を楽しむといい。ブサキのはるか向こうに、田園、ヤシ林、そして空の色を映す海が霞んで見えるだろう。
プナタラン・アグン寺院を中心として、南東にブラフマ神を祀るキドゥリン・クレテッ寺院Pura Kiduling Kreteg、北西にヴィシュヌ神を祀るバトゥ・マデッ寺院Pura Batu Madegがある。この両寺院はそれほど大きくはないが、プナタラン・アグン寺院とともにヒンドゥー教の3大神をあがめる重要な寺院。旅行者はほとんど訪れないが、美しいメルが敷地の奥に建っている。
ツアーやチャーター車で訪れるのが一般的。南部リゾートエリアから2〜2.5時間、ウブドから1.5時間。ブサキ寺院に立ち寄る島内ツアーもある。
ブサキには30もの寺院が集まっており、各寺院はそれぞれ独自にオダランを行う。ウク暦(210日で1年)の1年の間、実に55回もの祭礼が行われるから、祭りに出会える機会は非常に多い。一般的なオダラン以外にも、ブサキでは10年に1回のパンチャ・ワリクラマPanca Walikrama、そして100年に1回のエカ・ブアナEka Bhuwana(1996年3〜4月に行われた)、エカ・ダサ・ルードラEka Dasa Rudra(地下の悪霊にささげる儀式で、島全体を清める)といった大祭がある。ただし、きっちりと10年、100年に1回行われるわけではなく、高僧によってその時期が決められる。