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シンガポールには移民たちによって持ち込まれた文化が混在するだけで、独自の文化はほとんどないと考える人が多い。しかしそんな偏見をくつがえすのが、この地域で生まれた混血コミュニティのプラナカン文化。若者から年配の世代までも魅了する華麗なプラナカンの世界を紹介しよう。
15世紀頃から国際貿易の拠点だったマラッカにやってきた中国人が、マレー人などの現地妻を娶るようになったのが始まりといわれ、彼らの子孫たちを指すとされる。男性をババ、女性をニョニャという。しかし具体的な年代などはいまだ不明で、マラッカに限らず古くからインドネシアやミャンマーなどに居住していた中国系グループにルーツをもつ者もいる。
中国とマレーの文化をベースにアジアやヨーロッパのさまざまな文化を折衷させて独自の文化を創り上げた。英国植民地時代にはマラッカ、ペナン、シンガポールで大変な繁栄を築き、貧しい新移民たちを尻目に政府や白人社交界に出入りできるほどの地位にあった。しかし第2次世界大戦でこれらの地が日本軍支配下になると、経済が落ち込み、多くのプラナカンも財産を失った。戦後、マラヤが植民地から独立すると、イギリス寄りだったプラナカンの状況はさらに悪化する。しかし慈善事業に力を注いだ有名実業家や政治家も多く、最近は彼らの卓越した文化が見直され、復興活動が行われている。
ショップハウスはおもに中国の南部に見られる建築様式だ。1階の玄関付近が店舗で、奥と2階より上が住居となっていて、間口は狭いが奥行きが深い。純粋に住居用のものはテラスハウスとも呼ばれる。
プラナカンたちは中国伝統の建築にはない西洋式の窓、レリーフや円柱、マレー風の軒下飾りなどを取り入れ、独自の折衷様式を確立させた。ファサードはヨーロッパのカラフルなタイルで飾られることが多い。玄関を入ってすぐの間が客間(応接室)で、その家の財力を示すためにシャンデリアや豪華な中国家具が配置された。奥には祖先を祀る部屋、リビング、採光用の中庭、キッチンなどが続く。一戸単独で建てられることは少なく、数戸が連なってひとつの通りを形成している。
プラナカンはその華やかな文化で知られている。まず目を見張るのは、精密なビーズ刺繍だろう。針仕事の能力は女性に欠かせない資質のひとつとされた。ヨーロッパ産の極小ビーズを用い、中国やヨーロッパのモチーフをあしらったビーズ刺繍は実に鮮やかだ。
同じく細かい刺繍を生かしたニョニャ・ケバヤも有名だ。ケバヤはインドネシアから伝わったブラウスの一種だが、豪華な刺繍を施してスタイリッシュに仕上げたのがニョニャ式。まさに「着る宝石」といえるだろう。
プラナカンのために独自に製造されたのがニョニャ・ウエアと呼ばれる陶器だ。窯元はあの景徳鎮だが、日本の有田で焼かせたものもある。おめでたい席に使うもので、「鳳凰と牡丹」というのがプラナカンのシンボル的モチーフだ。中国陶器と違い、人物画や山水画を施すものは少なく、粉彩によるパステルカラーの鮮やかな色が特徴だ。
最も重視されたのが料理。中国料理とマレー料理の融合であるだけでなく、細かい作業によって料理としての完成度を高めたのがニョニャ料理である。マレー人は使わない中華食材にハーブやスパイスを用いるニョニャ料理は、食のいいとこ取りで、インドやタイ、さらにポルトガルやオランダなどの影響も受けた実にユニークな料理を確立した。
街にはプラナカンのコミュニティがあったとして知られるエリアがいくつかあり、プラナカンのショップハウスの建築を今でも見ることができる。中心部ではオーチャード・ロードにあるエメラルド・ヒル。この通りには3階建てや庭付きなど豪勢なタイプが並ぶ。一方、チャイナタウンの外れ、ブレア・ロード周辺はもっと範囲が大きくなる。ベランダ付きなどちょっとひと味違うデザインのものが目立つのもここだ。
郊外ではノスタルジックなイメージのあるカトン・エリア。特にジョー・チアット・ロード周辺(有名なのはクーン・セン・ロード)には、数多くのショップハウスが見られる。このあたりはビーチにも近いため、特に富裕でハイカラなプラナカンたちは海沿いにヴィラと呼ばれる瀟酒な邸宅を建てたという。その多くは取り壊されているが、マリン・パレード・ロードのパークウェイ・パレード(ショッピングセンター)周辺にその面影を残すヴィラが今も残る。
(以上、シンガポール・プラナカン協会会員 丹保美紀)
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