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手桶シャワー室から出ると、さっきまでの薄曇りの夕日空から太陽は消え、ただの薄暗いグレーな空と化していた。もうすぐ完全な真っ暗闇となるだろう。遠くで犬の鳴き声と発電機の音が聞こえてくる。デザート屋台がちらほらあるのみの30メートル繁華街でビールと飲み水をそれぞれ6本ずつ買い込む。あいにく冷たいものはなかったが、1000リエル(30円)で20cmキューブの小売りアイスを購入。持ち帰って包丁で割り、直接グラスに入れて冷たいビールを楽しむのである。日本人の感覚からするとなんでビールに氷を入れるのだという気もするが、カンボジア、いや東南アジア全体がそうなのだから仕方ない。たぶん各家庭に冷蔵庫があることが一般的である先進国とちがい、電気も通っていない国々では生鮮食材などの保管、また飲み物等も外部から冷たくするのではなく毎朝買ってくる氷により直接冷蔵することが一般的であるからだろう。
ピーロムが慣れた手つきで氷を割り、三人のグラスにかちわり氷を入れていく。そして、ねもとが皆のグラスにまだ生ぬるいビールを注いでいく。ぬるい泡が溢れ出したグラスで乾杯し、まだ冷え切ってないビールをぐぃっとのどに流し込む。生ぬるいがまーこんなもんであろう。本々僕はビール、いやアルコールが好きな訳ではない、ただ宵越しの金は持たないという飲兵衛大国土佐藩で生まれたこともあり、いやいやながらも返杯修行を行っていたために、飲みたくなくても夕方以降はビールでなければならないのではないかという半分訳の分からない地元密着型お付き合いすけべ根性があるのである。
7時半になると、事前に注文しておいた夕食が半オープンエアの小宴会場に登場した。気になるメニューはインスタントヌードル、目玉焼き、白ご飯がそれぞれ三人前、それにお茶付きで総額5$也。だらだらと今日の反省会と、明日の予定などを話する。今日の朝会ったばかりのピーロムとねもとはお互いの素性を明かしあっている。ビールを2杯飲んだピーロムはすでに真っ赤になっており、ぐにゃぐにゃ、ぐでんぐでんの生蛸のように木製のフロアにとろけ沈んでいった。
9時頃になると予測通りライトが消えた、うっすら明るい外からの明かりを受けながら、宴は続く。途中トイレに抜けたねもとがトイレの足もとにサソリがいたと言う。うむ、マーそうなこともあるので気をつけようということになる。ここに住んでいるとサソリといえども当たり前の生物である気がするから不思議である。30分ほどするとライトが復活した。たぶんオーナーの心遣いで近くのバッテリー屋さんから借りてきてくれたのだろう。涼しい風が流れだしたので、宴を終わり床につくことにした。