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溶けかかったおじさんは”パスクィーノさん”

阿部 美寿穂

阿部 美寿穂

イタリア特派員

更新日
2013年9月16日
公開日
2013年9月16日
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最近、真向かいに住んでいるオペラ歌手の声がますます激しくなってきました。

イタリアにいると、近所にオペラ歌手が住んでいるということは珍しくないと思うのですが、舞台が近いのかコンクールが近いのか良くわかりませんが、ア~とかアッハァ~とかソプラノの美声(声の持ち主は女性)でよく練習をしています。昨日の昼辺りから、男性の声も一緒に聞こえはじめました。こちらの窓を少し開けておくだけでも聞こえてくるので、すごい声量で全く羨ましい限りです!

さて、前置きが長くなってしまいましたが、今日はローマの街中で見かける変なものの一つをご紹介したいと思います。ローマのど真ん中にある、観光地で有名なナヴォーナ広場のすぐ近くに、溶けかかったおじさんの彫像があります。

「壊れかかっているようにみえるのに何故撤去しないの?」とか、「何かすごい由来のある像なので飾られているのですか?」という質問が時々あります。

「これはですねぇ~、紀元前のものすごぉ~く貴重な由緒ある像で、内部には金塊が隠されていると云われているのですぅ。」と言いたいのですが、そうではなく、別の意味でローマの文化を代表してくれる貴重な"遺産"なのです。

溶けかかったおじさんの説明は普通のガイドブックにはまず載っていないことなんですが、まずは写真でこの像(半分体がなくなっている気も・・・)をご覧下さい。綺麗なヨーロッパの路地の中にポッツリ。これは目立ちますな。

この像にはちゃんと人間の男性の名前がついていて、パスクィーノ(Pasquino)さんといいます。 パスクィーノさんは別名"もの申す像"とも呼ばれているんです。

理由はというと、昔、体中に時の権力者への"悪口"やら"野次"を書いた紙がベタベタと貼られていたからです。重要なメッセージなどは、首からボードをぶらさげられていました。まるでパスクィーノさんが喋っているかのように。

要するに政治家などに"辞任しろ!"とか"ふざけるな!国民の血税を無駄にするな!"、"〇〇は賄賂を受けとっている、さっさと辞めろ!"等々、みんな心の中で思っているけれど言えないことってありますよね、それを夜の間にこっそり来て、貼り付けたりしてたんです。風刺風にして貼り付けたりして。そうすると朝になって、町行く人が読んで意見に賛同したり、もっと強烈な皮肉を付け足していったりして、16~19世紀にかけてとても流行りました。

批判される政治家などの側近は世評に敏感になって"悪い噂を立てられては困る!"とピリピリしていましたので、午前中の間に張り紙をはがしに来ていたそうですが、大抵、もう皆が読んでしまった後・・・。

ローマにはパスクィーノさんのほかにも5人、ものを申す像さんがいらっしゃいます!

もちろん今でも現役で存在しているので街中で見れます。何と"もの申すマダム(女性)"もいます。

今の時代に張り紙などを貼ってしまうと怒られますので(錠前屋の広告などを貼っている人がいますが、あれはいけません)、今まで頑張って働いてきた"もの申す像"さん達を近くで鑑賞するだけにとどめておいて下さいね!

顔は市民の腹いせ(権力者への)や、とばっちりを受けることもあったらしく、潰れてかわいそうな状態ですが、像自体は紀元前3世紀に作られたギリシア神話の英雄でスパルタ王のメネラーオス(有名なトロイア戦争で、現トルコの北西部トロイの木馬の中に隠れた人)をおそらく象ったものをローマ時代に大理石で真似して作ったコピーです。

後世に残してあげたい大事な像さんです。1500年頃に、この近くの地面を掘ったら、出てきたんですよ。ローマはまだごろごろと地中に遺跡が眠ってますので。

ナヴォーナ広場のすぐ近くにありますから、ローマ観光された方は見たことがあるかもしれません。

これからいらっしゃる方も是非、見てみて下さいね。

誰も知らないような観光スポット(?)、パスクィーノおじさんのお話でした。それではまた!

↑パスクィーノさん近影。副大将なので軍服を着ています。

パスクィーノさんはナヴォーナ広場の南西側の出口からすぐです!

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