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日本だけでなく世界中で、おもに新年を迎える曲として親しまれている「蛍の光」。原曲はスコットランドの民謡で「オールド・ラング・サイン (Auld Lang Syne) 」、古き昔、といった意味のタイトルです。これを作詞したのがスコットランドの詩人、ロバート・バーンズ (Robert Burns) です。
イギリスでは彼の誕生日である1月25日前後に、「バーンズ・ナイト」と称して晩餐会を開く習慣があります。毎年この時期になると、雑誌やパブの看板などでも案内を見かけるようになるのでずっと気にはなっていたのですが、祝い方がわかりませんでした。ところが今年は、イギリスにいるとさまざまなお祭りや子供向けイベントなどで、何かと身近な近くの教会(関連記事)で、このバーンズ・ナイトがあると聞きつけ、参加してきました。
晩餐会「バーンズ・サッパー」
イベントでは、「バーンズ・サッパー (supper)」と呼ばれるディナーがありました。女性はタータン柄の赤いワンピースやシャツ、男性ではスコットランドの民族衣装、キルトを身にまとった本格的な人もいました。
18:30受付、参加者が揃った19時頃、バグパイプの演奏と共に本日の司会進行役が入場してきました。この晩餐会に欠かせないもののひとつは、スコットランドの伝統料理である「ハギス (haggis)」。羊肉やオートミール、スパイスなどを羊の腸に詰めて蒸したもので、この時期はスーパーでも見かけましたが、「食べたことがない」「随分前に一度だけ」「ちょっと苦手」といった人も多かったです。
スコットランドではソウルフードともいえるごく一般的な郷土料理で、バーンズはこのハギスに関する詩まで作っています。司会者は実際のハギスが置かれた台の前で、その「ハギスに捧げる詩 (Address to a Haggis)」を朗読し、ハギスに入刀しました。中からは遠目でもはっきり分かるほどの湯気が立ち昇り、アツアツできたてのようでした。と同時に、スコッチが全員に配られ、皆で乾杯します。
気になるハギスの見かけと味
ホストである主催者が短い挨拶をし、セルカーク(Selkirk Grace)の食前の感謝の祈りを全員が起立して捧げた後、お待ちかねの食事に入ります。はてさて、肝心のハギスとは一体どんな物やら、と興味津々で列に並んでいると、なにやらグシャグシャになった黒い小山が・・。
元々は腸に詰められていたので楕円型をしていたはずですが、皆に切り分けなければならないのでこのような(無残な?)状態になってしまうようです。けれど、副菜のマッシュポテトやスウェードといったカブのような野菜、グリーン・ピースにイギリス人お得意のグレイビー・ソースをかけてひと皿に盛り付けてもらうと、なかなかの見栄え。
味も、これまたあまり人気のないイギリスの定番朝食、豚の血が入ったブラック・プディングのような生臭い感じかと思いきや、ラム肉の味は香辛料などでうまく緩和され、大麦のプチプチした歯応えが良く、失礼ながら「意外にも結構おいしい」ものでした。それでもやはり、「ラムの味がして苦手」といいながら残している人もいました。
全員で民族ダンス
食後は生バンドをバッグに、何組かの参加者が中央に出て、ペアでスコットランドのケイリー・ダンス(Ceilidh dance) を指導つきで踊ります。休憩を挟みつつ合計で3回ものダンスタイムがあり、初回は免れましたが、2回目以降は私も引っ張りだされ参加しました。
イギリス人女性にも相手をしてもらいましたが、やはり西洋人というものは根っから社交ダンスのようなものに慣れているようで、お年を召されていましたがとても上手でした。私はといえば、映画などで観る、「下手過ぎて相手の足を踏む」「ステップを踏んで他のペアとぶつかる」などのベタな失敗ばかりでしたが、巧みなリードでしばらくすると私でも少しはマシに踊れるまでになりました。
それにしても、ステップやらワルツやら生まれて初めてこんな踊りをし、普段から既に異国に暮らしているにも関わらず、なにやらとても異国情緒な雰囲気を堪能できました。わかっていたことではありますが、こういうものはステージに上がって巻き込まれた方が10倍楽しめます。
お茶と閉会の挨拶
デザートはクラナカン (Cranachan) というスコットランドのものが出されることが多いようですが、今回はイングランド式に紅茶かコーヒーに、ショートブレッドが出されました。
最後のダンスをして、締めの挨拶をして21:30に終了です。最後は、冒頭で触れた日本では「蛍の光」こと「オールド・ラング・サイン (Auld Lang Syne) 」を皆で歌うこともあるそうですが、今回はありませんでした。
また、会の流れも順番や演目に細かな縛りはなく、全員でバーンズの詩とバグパイプ演奏に触れ、ハギスをメインとしたディナーを楽しむことが1番の目的です。会場となる場所も、このような教会やパブ、より内輪に自宅で友人などを呼ぶものまで、さまざまです。
以下は当日の服装や各種料理の説明、バーンズの生い立ちなどバーンズ・ナイトについて分かりやすく書かれている手引書です。日本ではあまりなじみのない行事だとは思いますが、とても楽しくスコットランドの文化に触れる良い機会でした。