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【フランス リヨン便り n°38】
皆さま、こんにちは。リヨン在住のマダムユキです。
しばらくご無沙汰をしておりました。
旅行業が休業状態ですので、この機会に旅の素材を求めて視察に出かけ、フランスの田舎の美しさを再発見して戻ってきました。私が自分の目で確かめてきたことをこれから紹介させていただきますね。お楽しみに!
さて、日本でも報道されてご存知の方が多いと思われますが、フランスの新型コロナウイルス感染者数が急激な増加傾向にあります。それを受けて、9月23日にオリヴィエ・ヴェラン保健大臣が記者会見を開き、新型コロナウイルス対策の強化について発表しました。その内容を簡単に説明いたします。
まず、政府は、フランス国内を5段階の警戒レベルに分類しました。つまり、グリーンゾーン(Verte)、警戒ゾーン(Zone d'alerte)、警戒強化ゾーン(Zone d'alerte renforcée)、警戒最大化ゾーン(Zone d'alerte maximale)、緊急衛生事態(Etat d'urgence sanitaire)です。分類されたマップは以下のとおりです。
フランス国内には101の県(デパルトマン)がありますが、そのうち、69県が警戒ゾーンに指定され、さらに指定された警戒ゾーンのうち、14ヵ所(11のメトロポールと3県)が警戒強化ゾーンに、そして、2ヵ所(グアドループおよびエクス・アン・プロヴァンス=マルセイユ)が警戒最大化ゾーンに指定されました。こうして、警戒レベルに応じて、制限措置が講じられます。
在フランス日本国大使館がまとめてくださった内容を以下に転記します。
【警戒ゾーン】
●指定対象:69県
●指定理由:1週間当たりの新規感染者発生数が10万あたり50人以上
●制限措置:
1. 9月28日以降,祝祭、結婚等の各種イベントによる集まりを最大30名未満に制限する
2. その他,各県官選知事が適切な措置を決定するもの
【警戒強化ゾーン】
●指定対象:11のメトロポール(ボルドー、リヨン、ニース、リール、トゥールーズ、サン・テティエンヌ、レンヌ,ルーアン,グルノーブル、モンペリエ、パリ),パリ近郊3県(セーヌ・サン・ドニ、オー・ド・セーヌ、ヴァル・ド・マルヌ)
●指定理由: 1週間当たりの新規感染者発生数が10万にあたり150人以上、高齢者においては10万にあたり50人以上
●制限措置:
1. 9月26日以降、大規模な集会は1000人までに制限する
2. 大規模な地域的イベント、フェスティバル、学生のパーティー等の開催は禁止する
3. 公共の場所(ビーチ、公園等)において10人以上の集会は禁止する
4. 9月28日以降、バーは官選知事が定める時刻(遅くとも22時)に閉店する
5. 9月28日以降、ジム等のスポーツ施設と体育館を閉鎖する
6. 9月28日以降、全ての祝祭場や多目的ホールを閉鎖する
7. 可能な限りテレワークの実施を推奨する
【警戒最大化ゾーン】
●指定対象:グアドループ、エクス・アン・プロヴァンス=マルセイユ
●指定理由:1週間当たりの新規感染者発生数が10万人あたり250人以上、,高齢者においては10万人あたり100人以上、重篤者用病床の占有率30%以上
●制限措置:
1. 9月26日以降、全てのバーとレストランの営業停止とする
2. 厳格な衛生対策を整えている場所(つまり、劇場、美術館、映画館は規制対象外)を除く施設を閉鎖する
保健当局のサイトによれば、9月24日に新規感染者が1万6096人に達し、累積感染者数は49万7237人となりました。私からすれば、新型コロナウイルス感染の第二波がフランスを襲い、このような措置が講じられるのはいたしかたがないという印象を受けたのですが、どうやら今回の政府の措置は物議を醸しているようです。
保健大臣の記者会見後、警戒最大化ゾーンに指定されたマルセイユでは、制限措置の執行にあたり10日間の猶予期間を政府に申請したそうですが却下されました。そこで、マルセイユ市長(代理)が緊急記者会見を開き、「すべてのバーとレストランの営業を停止する」という政府の措置に対して不服を述べました。パリ市長も、ジャーナリストのインタビューで「学校の衛生基準の緩和しておきながら、飲食店に対して制限措置を強化するとは、政府の施策にはまったく一貫性がない」と批判的な見解を表明しました。もちろん、学校と飲食店の衛生基準を同じ軸でみることはできませんが、政治評論家いわく、制限措置の強化に不服というよりも、中央政府が地方政府に諮問することなく、トップダウンで措置を講じたことに地方議員は不服を表明しているとのこと。パリとマルセイユは政治的にも歴史的にも確執があり、それが深まった感があります。マルセイユ市長(代理)は「われわれはフランス第二の都市である」といって会見をしめくくり、パリに従順ではいられないという印象を与えていました。ちなみに、マルセイユ市長は医者であり、医学的観点から当措置を全面的に否定できないのではと、マルセイユ市の不服に対して医療関係者は驚いています。
仏メディアは、このように物議を醸す政府の措置を大々的に取り上げ、専門家たちの討論会がテレビ画面をにぎわせています。テレビ局をザッピングしながら私も視聴しましたが、医療従事者は口をそろえて、これから冬に向い、新型コロナウイルスに加えて、インフルエンザウイルスといった冬の感染症が流行ってくるので、医療従事者・病床数・医療資機材などの不足が懸念され、早期に新型コロナウイルスの感染拡大を制御することがきわめて重要であると訴え、賢明な措置であることを強調していました。
一方、国民側からみれば、特に感染率が比較的低いとされる若者からすれば、「もういい加減にしてよ」「1日中マスクを着けているだけでもたいへんなんだから」といわんばかりに、「22時にバーが閉まったら、そのまま友達のアパルトマンに移動するだけだから、バーよりももっと閉鎖された場所に集まることになるから、この措置はまったく意味がない」というコメント。確かに一理あり。フランス政府は個人宅に集まる人数までは強制的に制限できなかったようです。
当然、今回の措置に対して大反対を表明したのはレストランやバーといった飲食店です。それでなくても、ロックダウンで強制的に閉店したあと、衛生マニュアルに従って店内を整備して、やっと営業を再開したところで、再度の営業制限とあっては、倒産への道を進んでいくようなものだと、将来の不安をあからさまにしていました。また、政府の衛生マニュアルでは、テーブルとテーブルを最低1mの間隔を空けることが指示されていますが、衛生基準をしっかり守っているところと、店内やテラスの面積からルールを守れないところもあり、ルールを守っていた飲食店は、一部の違反者のために全員が罰を受けるのは遺憾であると嘆いていました。
レストランやバーは、ソーシャルディスタンスの確保が難しいこと、マスクをどうしても外さなければならず、会話が弾めば弾むほど飛沫感染を増加させること(WHOでは5分間の会話で1回の咳と同量の飛沫が飛ぶそうです)など、感染予防が緩んでしまう場所であることは確かです。
ウイルスは特に口から体内に侵入することを思えば、飲食店が感染リスクが高い場所のひとつであることは否定できません。一方、飲食店で働く人たちの生活に影響する話になりますので、議論はつきません。
フランスは議論だけで話は終わりません。革命を起こして民主主義を確立した国だけあって、その反骨精神はすごいです。さっそくマルセイユの飲食店は反対表明のデモ行進を行うことを発表しました。リヨンでは、若者たちがSNSで「22時05分、ローヌ川の河岸に集合しよう」と呼びかけています。
3月のロックダウンとは異なり、今回は地域によって措置に温度差があるため、国民全員の合意を得ることは難しそうです。
ウイルスという見えない敵と戦うのは容易なことではないのですが、一人ひとりが「ソーシャルディスタンスの確保」「マスク着用」「手指の消毒」に努め、「人に感染させない」、「人から感染しない」という意識のもとで行動するしかないのですが、お国柄でしょうか、これも全員一致というわけにはいかないようです。
秋分の日を迎えて、日本も秋めいてきたのではないでしょうか。
リヨンは朝晩の冷え込みが増してきました。
リヨンは「警戒強化ゾーン」に指定され、10月に予定されていた物産展などのイベントの中止が決定されました。12月にはリヨン最大のイベント「光の祭典」が予定されています。まだ、中止の決定は下されていませんが、今後の展開を見守っていくしかなさそうです。
皆さまも、引き続き、お身体をご自愛くださいませ。