キーワードで検索
【フランス リヨン便り n°56】
こんにちは、マダムユキです。フランスのリヨンからお届けしています。
フランスでは、2020年11月から飲食店の営業がテイクアウトを除いて禁止されていましたが、2021年5月19日からテラス営業が解禁され、6月9日から店内での飲食も可能となりました。そんな折、日本語教師で仕事バリバリ派のマダムレイから「長らくのご無沙汰だけど、そろそろ女子ランチでもしない?」とお誘いのメールが飛び込んできて、喜び勇んで「大歓迎」と即答すると、「それでは、レストラン選びはお任せするわね」ということで、久しぶりにランチをオーガナイズすることになりました(わくわく~)。
「さて、どこにしようか」と自問自答を自演しましたが、実は、レストランが解禁したらまずは「ブション・リヨネ(Bouchon Lyonnais)」で郷土料理を楽しもうと決めていたのです。リヨン料理への愛着と忠誠心からくるものです!(と大げさに自己陶酔していますが、単に食べたかっただけなのですよ~)。問題は、どのブションにしようか……なのです。
ブションとは、パリでいうところの「ビストロ(Bistrot)」、日本でいうところの「大衆食堂」に匹敵する料理店で、庶民的な食事処になります。すでに当ブログで何軒か紹介しましたが、リヨンでは20世紀に入って、「リヨンの母たち(Mères Lyonnaises)」と総称される女性料理人たちが庶民の食堂「ブション」の発展に大きく貢献しました。絹織物産業で財を築いたブルジョワ家庭の食卓を任された女性料理人が自らの意思で独立して飲食店を構えて成功したのがはじまりです。「フィリウー母さん(Mère Fillioux)」と呼ばれたフランソワーズ・ファイヨル(François Fayolle)さんのレストラン「ラ・ベル・エポック(La Belle Epoque)」、ポール・ボキューズ(Paul Bocuse)さんが修業したウジェニー・ブラジエさんのレストラン「ラ・メール・ブラジエ(La Mère Brasier)」が代表格です。彼女らを師と仰ぎ、世界恐慌下で解雇された多くの女性たちが、経済不況にもめげず奮起してブションを次々とオープンさせ、リヨンを美食の都と世界に名を広めるにいたるほどの活躍ぶりは、リヨンの食文化の歴史に深く刻まれています。
その後、世代交代で「メール・リヨネーズ(リヨンの母)」は男性料理人によって引き継がれ、現在は女性が料理人のブションは数軒となってしまいました(泣)。
であれば、「メール・リヨネーズが厨房を賄う、正真正銘のブション・リヨネでレストラン解禁を祝おう」ということで、マダムユキおすすめのブションは「カフェ・デュ・ジュラ(Café du Jura)」です。
ブション・リヨネについては、こちらのブログもご閲覧いただければうれしいです。
カフェ・デュ・ジュラはリヨンを流れるソーヌ川とローヌ川に挟まれたプレスキルと呼ばれる中州の中心部コルドリエ地区(Cordorier)という絶好の立地条件にあります。コルドリエ地区はリヨン屈指のショッピングエリアでいつも多くの人でにぎわっています。なんといってもカフェ・デュ・ジュラのお隣は、マダムユキが愛食するチョコレート「フィリップ・ベル(Philippe BEL)」のリヨン店で、一石二鳥のポイント倍増です。
マダムレイとの待ち合わせ時間より少し早くブションに着きました。
マダムユキ:ベノワさん、お久しぶり。
ベノワ:あれ~、マダムユキじゃないか。珍客の再来だね~。
マダムユキ:珍客はないでしょう。ずっと閉店していたのはだれなの。それより、みてみて! フェイスブックで閉店中のカフェ・デュ・ジュラを紹介したのよ。
ベノワ:閉店を紹介することはないだろう。
マダムユキ:そうじゃないの。レストランが解禁されたら、まずはここに食べにくるって公言したの。
ベノワ:ありがとう! 冗談を許してくれ。本当にうれしいよ。
ベノワさんは、カフェ・デュ・ジュラのソムリエ&給仕です。といっても、シェフのブリジットさんの息子さんで~す。
マダムユキ:営業禁止はたいへんだったわね。お母さまは元気?
ベノワ:元気だよ。水を得た魚のように厨房で泳いでいるよ。
マダムユキ:ああ、よかった。あとで写真を撮らせもらってもいい? ブログで紹介させて。
べノワ:大歓迎だよ。あとで呼ぶよ。いまは料理に集中しているからね。
マダムユキ:ありがとう。
そんな会話をしていたら、マダムレイが登場。
外のテラス席にするか店内にするかというベノワさんの質問に、私たちは口を揃えて「店内でお願いします!」 そして、ふたり顔を見合わせて笑ってしまいました。
フランス人はテラス席が大好きですが、私たち日本人はどちらかといえば、通行人が横を通り過ぎ、風がビュンビュンと走り抜ける外のテーブルよりも、落ち着いた店内での食事を好みます。
店内はアクリルパーテーションでテーブルとテーブルの間が仕切られていました。
ブションは小さな店内で客同士が袖をすり合わせるように隣り合わせで座り、見知らぬ者同士がおいしい食事に心許して言葉を交わし合う、そんなアットホームな雰囲気が魅力でしたが、コロナ禍ではそれができません。テーブルとテーブルとの間隔を保ち、さらにマスクを外して、安心して食事ができるようにパーテーションが設置され、お隣さんとの物理的、心理的距離が置かれたことに、一抹の淋しさを感じましたが、ウイルス終息までの辛抱と、自分に言い聞かせた次第です。
マダムユキ:久しぶりね。
マダムレイ:元気そうじゃない。旅行業開店休業中で瘦せこけたかと思ったわよ。
マダムユキ:私もそうなると思ったんだけど、エネルギーの消費量が少ないらしくて、痩せこけるどころか体重増よ。
マダムレイ:食べる前に体重の話はやめましょう。ところで、おすすめは?
マダムユキ:もちろん、臓物!
リヨンの伝統料理は、豚・牛の頭や足、心臓、舌など精肉でない部位や贓物を使った料理が特徴です。例えば、牛の胃袋にパン粉をまぶして焼き上げた「タブリエ・ド・サプール(Tablier de sapeur)」、豚の血と脂身を腸詰した「ブーダン・ノワール(Boudin noir)」、豚の内臓入りソーセージ「アンドゥイエット(Andouillette)」など。最初は心理的に抵抗がありますが、食べ慣れてくると、その独特な味わいが癖になり、最後には病みつきとなるのです。こうしてリヨン人へと帰化されるのです。
私が選んだのは「アンドゥイエット・ア・ラ・ボジョレーズ(ボジョレ風アンドゥイエット)」。豚のモツを腸詰めしたアンドゥイエットと呼ばれるソーセージがボジョレワインで煮込んであります。アンドゥイエットはリヨン以外の地方でも食され、マスタードソースが一般的ですが、リヨンではコクのある赤ワインソースが人気です。赤ワインがモツの臭みを和らげてくれますので、とても食べやすいです。
マダムレイは「ガトー・ド・フォワ」を選びました。鶏レバーをムース状に仕立て、ラヴィオリ入りのクリームソースにシブレット(英語とチャイプと呼ばれるハーブ)が香味として添えられていました。小さなラヴィオリはリヨンの南に位置するドフィネ地方の特産品です。
デザートはプラリネルージュタルト。ブションの定番デザートです。プラリネは焙煎したナッツに砂糖を焦がしたカラメルで合えたものです。リヨンは赤く色づけするのが特徴で、プラリネルージュと呼ばれますが、それをクリーム状にしてタルトに流し込んで焼き上げます。デザートは種類豊富にいろいろと用意されていますが、ブションでは条件反射的にプラリネタルトを注文してしまいます。膨らんだ胃袋のわずかな隙間に収まってくれるデザートで、お口直しにも最適です。
マダムレイ:意外と食べやすくて驚きよ。
マダムユキ:それが名店と言われるゆえんかな。贓物がこんなにおいしく食べられるってすごいことよね。
マダムレイ:リヨンに乾杯!
ブリジットシェフが厨房から出てきました。常連客に挨拶してから、私たちののテーブルへ。
カフェ・デュ・ジュラがなぜおいしいかって?
この写真をご覧ください。
リヨンの伝統料理を継承するブリジットさんとベノワさん親子。
お母さんが愛情込めて作った料理を、息子さんが心を込めて給仕してくれるんです。
おふたりの絆が私たちの口、胃、そして心を満たしてくれます。
今日もありがとう。また来ますね。
それでは、引き続き、お身体をご自愛くださいね。
マダムユキより
【お店情報】
■CAFE DU JURA(カフェ・デュ・ジュラ)
・住所: 25 rue Tupin – 69002 Lyon France
・電話: +33 4 78 42 20 57
・営業時間: 火曜日~金曜日 12:00~13:45、19:45~21:30、土曜日 09:00~13:45、19:45~21:30
・休業日: 日曜日、月曜日