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毎年秋になると、イギリスではポピーのバッジを身につけた人であふれ、通りの飾りつけも行き交う車にもつけられ、町なかが赤く染まります。これは戦没者を追悼するための記念行事で、1918年11月11日の第一次世界大戦が終結した日に合わせ、当日ロンドンでは式典が執り行われます。
エリザベス女王をはじめとする王室のメンバー、首相、各政党党首、外相、英連邦や軍の代表者などが出席するこの儀式は「リメンバランス・サンデー(Remembrance Sunday)」と呼ばれ、毎年11月第2週の日曜日あるいは11日に近い日曜日に開かれます。
今年2021年は11月14日で、臨席者が花輪を慰霊碑前に置く模様は、テレビで生中継されます。昨年はコロナ禍で開催されませんでしたが、わが家では例年、子供がボーイ・スカウトでこの行事(関連記事)に参列します。
この第一次世界大戦のほかに、イギリスでは1940年6月から10月にかけて、歴史上もっとも有名な航空戦と言われる「バトル・オブ・ブリテン(Battle of Britain)」も、第二次世界大戦における重要な出来事として人々の記憶に刻まれています。
昨年はちょうどその戦いの80周年記念にあたる年で、ロンドン郊外の王立空軍博物館「RAF(The Royal Air Force) Museum」では、記念グッズの販売とともに、戦争にまつわる展示がされていました。その後はたび重なるロックダウンで、休館を余儀なくされることもありましたが、今年2021年の5月17日より、コロナ対策を万全に整え再オープンしています。
リメンバランス・サンデーの1週間前である先週末には、戦争の詩に関するワークショップがあり、もうひとつの拠点であるCosford館では、当日の14日に式典行事がありました。
戦争を風化させないよう、さまざまなアクティビティやゲーム、屋外遊戯施設などを設け、子供にも興味を持ってもらえるよう、工夫が凝らされています。今月はイギリスの戦争史について学ぶよい機会なので、わが家が訪れたときの様子を、以下に紹介します。
格納庫型展示
王立空軍博物館はロンドン北部の町ヘンドンで、もともとは小型飛行場として使われていた跡地を利用して作られました。
この跡地は航空便や落下傘飛行、防空などイギリスの航空産業の礎となった、同国にとって思い入れのある重要な場所です。郊外ならではの広大な敷地にはH1館からH6館まで、まるで格納庫(Hangar)のようにこれまで活躍してきた巨大な航空機や軍用車、船舶などが陳列展示されています。
一民間企業として航空関連ビジネスを発展させた「航空産業の始祖」グラハム・ホワイト(Claude Graham-White)氏のオフィスを再現したH2館や、もっとも規模が大きく、戦時中の資料を集約したH3~5館、カマボコ型ドームの外観が特徴的な1980年代以降に焦点を当てたH6館と、見どころ満載です。
ところが、充実し過ぎてスタートのH1館だけだと勘違いしてしまったので、今回はH1館だけの案内となります。現在でもまだまだ事前予約が必要な同館、午後遅めの時間帯スタートですと、とても全部は見切れませんでした。
飽きさせない展示方法
英空軍(RAF)は2018年に発足100周年を迎えましたが、H1館はこの1918年から2018年の歴史を振り返るエリアとなっています。制帽や飛行用、現場見回り用のヘルメットなど、各種のかぶり物が壁一面に並べられた入口を抜けると、まず正面に黄色い救護用のヘリコプターが目に飛び込んできました。
館内は「職員に会おう」「攻撃」「爆撃」など、テーマごとに看板が置かれ分類されています。各種説明ボードには据え置きの音声ガイドが置かれ、受話器のように耳にあてて聴くことができます。
漫画と画像を組み合わせた「爆撃の威力」と銘打った動画スクリーンでは、地面に並んだ焼死体も映し出し、正義だけでは済まされない実態も生々しく伝えていたのが印象的でした。
このほかにも、「さわって(Touch)」と書かれたものには実際に手を触れることができたり、「嗅いで(Smell)」なんて珍しいものまであったりと、展示物をただ眺めるだけでなく、よりリアルに感じられるよう、趣向を凝らした仕掛けがたくさん見られました。
子供もよろこぶ体験ブース
博物館といえば子供の社会見学や遠足の定番で、さまざまな事柄を実際に目で確かめて学べる格好の施設ですが、ときに単調で退屈してしまう子供もいます。わが子もご多分にもれずこのクチで、どちらかといえば嫌がるのですが、この日は違っていました。
まずは、要所要所に青空を背景にした子供用の飛行機が置かれており、自由に登れるようになっています。多くの親はそこで子供の記念撮影をするのに夢中、子供は飛行機に乗り込んで大喜びと、大人気でした。
次に、まるで実際に操縦しているかのような臨場感がある、フライトシミュレーションのブースがあり、パイロット気分を味わえます。
「近代」を感じさせる宇宙ステーションのような設定エリアでは、電光板型のテーブルに質問が流れてきて触ると答えが現れます。
最後にはコンピューター画面で好きな飛行機を選択し、「発進」させスピードを測るゲームコーナーがあり、博物館嫌いのわが子もすっかり虜に。「楽しかった」という感想を、博物館でははじめてもらえました。
おしゃれなみやげショップ
イギリスの博物館では基本的に入場が無料なところが多く、旅行客だけでなく在英者の間でも好評ですが、併設のみやげショップが充実していることもよく知られています。
ここ空軍博物館でも模型を始めキーホルダーやマグカップ、文具にTシャツといった衣類など、飛行機をモチーフにしたセンスのよいグッズが並びます。
コースターやタンブラー、マグネットなどに自分の名前などを入れる、オーダーメイド品も機械で手軽に作ることができます。
燃料補給と称した「Refuel」と名づけられたミネラルウォーターや、発足100周年を記念して100ヵ国から100種類のレシピを紹介した『The RAF 100 Cookbook』という料理本があったのがユニークでした。
飛行機柄というとボーイッシュなイメージも強いですが、冒頭でも紹介した戦没者追悼シンボルであるポピーをあしらったスカーフやアクセサリーなど、女性向けの商品もありました。このコーナーのディスプレイが、まるで羽を広げた浴衣を着た女性のようで、意外なところで郷愁を覚えました。
簡単にできる募金活動
戦没者といえば、空軍には遺族や元従軍兵士などを支える済生基金(RAF Benevolent Fund)があります。アフガニスタンで任務にあたっていたロビンソンさんは、車両が簡易爆発装置に衝突してしまい両脚を失う大怪我をしましたが、この基金による特別仕様三輪車を寄与され、回復への大きな支えとなったそうです。
この基金とは関係ありませんが、イギリスの博物館では入場料がかからないかわりに、設備維持費などのためにどこも出入口付近で寄付を募っています。クレジットカードをかざすだけのコンタクトレス(非接触)カードと、募金箱に現金を入れる昔ながらの方式の両方が置かれています。
英空軍は王立(Royal)と名のつくだけあって王室とのかかわりは深く、開館式はエリザベス(2世)現女王によって1972年に取り仕切られ、その王配(夫)で今年4月9日に99歳でこの世を去ったフィリップ殿下は、同館の後援者を務めていました。
わが家が訪れたときは、コロナ禍の影響で一部閉鎖していたエリアもあったので、次回は予約時間を早めて、再探訪したいと思います。
◼️RAF Museum London・住所: Grahame Park Way, London, NW9 5LL・最寄り駅: 地下鉄Colindale駅・開館時間: 毎日10:00~17:00(最終入館時間16:30)・URL: https://www.rafmuseum.org.uk/london/