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リバプールFCは、サッカー好きでない私ですら渡英前より聞き覚えのあった、プレミア・リーグ(イングランド・プロサッカー・リーグ)に加盟するプロ・サッカークラブですが、もうひとつ「それなら聞いたことがある」というチーム名がありました。
それが、ロンドンから電車で2時間ほど、イングランドの北西部に位置する州、マンチェスターを本拠地とする「マンチェスターFC」。正確にいうとそんな名前のクラブはなく、同州には世界規模、全国区レベルのトラフォード区を拠点とする「マンチェスター・ユナイテッド」と、より地元型の、マンチェスター・シティ市がホームの「マンチェスター・シティ」というふたつのクラブ(FC)があります。今回サッカーの話は割愛しますが、かわりにマンチェスター・シティの町並みと美術館について紹介します。
統計から知るマンチェスター
マンチェスターはイギリス第2の都市とも呼ばれますが、2022年最新の人口統計によれば40万人弱と12番目ほどで、それも資料元によってデータがバラバラなのでよくわかりませんでした。
ほかに比較的信頼を置けそうな名前の情報機関を探すと、Population UKという団体の独自調査によると、今年2022年の7月までに、同州の人口は55万人近くに達し、イギリスでは5番目に大きな都市であると言っています。「第2」というのは、都市部のマンチェスター・シティ市だけのことを指すのかもしれません。
新旧が交錯する都会町
いずれにせよ、都会そうであるイメージははじめからあり、地理的にいっても近くのリバプールとさほど変わらない、「よくあるイギリスの地方都市」とたかをくくっていました。
すると、降り立った場所がよかったのか、マンチェスター・ピカデリー駅から市庁舎やサン・ピエトロ広場があるトラム(路面電車)のセント・ピーターズ・スクエア周辺は、真面目な場所柄迫力のある公共施設が多く、伝統を感じさせるクラシカルな雰囲気に圧倒されました。
その優雅なたたずまいに俄然テンションが上がり、夢中で周辺をグルグルと歩き回ると、あるわあるわ、厳かで気品のある高級ホテルやレストランばかり! よい意味で、マンチェスターに対するイメージがガラガラと崩れ落ちました。
そうして興奮気味に散策していると、町並みに変化があらわれ始めました。あ、ユニクロ……あ、なんかビルが工事中で無造作に覆われてる……あー、プライマーク(関連記事)……ある地点を境に一気に庶民化し、急に生のマンチェスター市民の生活風景がリアルに迫ってきました。
のちほど知りましたが、マンチェスターははじめに紹介したような歴史的な建物がある一方、「よくあるイギリスの地方都市」である都会としてのモダンさもあります。それゆえ、古さと新しさが混在する町としても知られているそうです。どうりで……ギャップがすごい!
ラファエル前派の作品が集う、マンチェスター市立美術館
そんなユニークな特徴を持つマンチェスターでは1823年、市民の創造性と想像力、健康と生産性を育む教育機関が必要と考えた芸術家たちによって、「マンチェスター市立美術館(Manchester Art Gallery)」が設立されました。
1827年から現代まで4万6000点を超えるコレクションは構成年代も多彩で6世紀にわたり、特に近代芸術に大きな影響を与えたイギリスの芸術家集団、ラファエル前派のコレクションで知られています。
この集団は1848年に王立アカデミーの学生3名(ミレイ、ハント、ロセッティ)が、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロとともに、盛期ルネサンスの3大巨匠といわれている、イタリアの画家で建築家のラファエロより前、つまり初期ルネサンスなどの作風を好んで結成した団体です。
"前ラファエロ兄弟団(Pre-Raphaelite Brotherhood)"と名乗ったこの集団は、母校の王立アカデミーに反発し、絵画のみならず芸術一般の改革を目論んだ前衛アート運動を繰り広げました。(参照:"PRE-RAPHAELITE" Tate)。
彼らはありきたりの流行を嫌い、現実をありのままに自然な様子で、よりリアルな質感を出した緻密画が得意でしたが、マンチェスター市立美術館は「イギリスでラファエル前派の作品を鑑賞するのに最適な施設」のリスト(参照:Nicholson, Tamsin Athalie. "Where To See The Best Pre-Raphaelite Art In The UK" Culture Trip October 2016)に堂々と入っており、実際このような作風の絵画が多く展示されていました。
利用客との対話型ギャラリー
同美術館は、歴史的価値があり貴重な資料でもある絵画作品を展示するだけでなく、訪れたすべての人に創造性のある刺激を与え、知的好奇心を満たす場を目指しています。
そのための工夫が随所に見られ、各展示室には作品などについて説明された、手書きの黒板が必ず置かれています。ときに、私たちの普段の生活においても関連づけるような問いかけもあり、けっこう難解です。また、人びととの対話をとりわけ重視し、訪れたひとが自由で活発な意見を交換できるよう学生、家族、成人、若者、ボランティア向けのツアーをそれぞれ別に用意しています(各種催行日時、内容などの詳細は記事の最後にあるウェブサイト参照)。
あるコーナーでは、市民の声を音声で流しながら文字でも壁に、映写機で「生きた声」を浮かび上がらせていました。そばには、インタビューの内容をメモした無数の紙束の展示も。
© Manchester Art Gallery 2022
ウェブサイトによりますと、このギャラリーは「マンチェスターの人びとのもの(for and of the people of Manchester)」だと言いますが、単に地元市民だけでなく館内に展示されている作品の作者、そこで働くスタッフやボランティア、そしてすべての利用客という意味でもありそうです。
工業都市として栄えたモダンな側面と、落ち着いた昔ながらの面影を残すエリア、新旧ふたつの顔をあわせ持つマンチェスター市で、同市立美術館所蔵のコレクションや展示、各種催事をとおして人生における創造性、思いやり、配慮についても考えをめぐらせてみませんか。ちょっと抽象的ではありますが、こういった施設にはめずらしい充実したキッズ・スペースもあるので、小さい子供も大満足すること請け合いです。
◼️マンチェスター市立美術館(Manchester Art Gallery)・住所: Mosley Street, Manchester M2 3JL・アクセス: 電車Manchester Piccadilly駅より徒歩約12分・開館時間: 水〜日10:00〜17:00・入館料: 無料・URL: https://manchesterartgallery.org/