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冬の間は閉まっていることが多いナショナル・トラスト内の邸宅ですが、大学都市ケンブリッジからバスで数十分の場所にある、114エーカー(約14万坪)もの広大な庭園を持つ「アングルシー修道院(Anglesey Abbey, Gardens and Lode Mill)」では、図書室とあわせて2022年3月から7月いっぱいまで一般開放されています。
年間パスがお得なナショナル・トラストの施設
こちらのブログでもたびたび取り上げてきたこのナショナル・トラスト(National Trust )は、歴史的建築物や自然の保護を目的に設立されたイギリスの団体機関です。
アングルシー修道院(Abbey)は、当初1135年に病院として設立されましたが、13世紀になる頃にはカトリック教のオーガスティニアン(Augustinian アウグスチノ会)小修道院として、その役目が変わっていました。
1536年になると、新たにイギリス国教会を設立したヘンリー8世により宗教弾圧を受け、同修道院も解散させられました。その後複数の手を介して、最後の所有者となった初代フェアヘイブン男爵が1966年に亡くなった際、ナショナル・トラストに遺贈されました(出典:"The story of Anglesey Abbey" National Trust 2022)。
このナショナル・トラスト管理運営の施設には、広い庭園と"カントリーハウス"や"マナー"と呼ばれるお屋敷がセットになったものが多いのですが、邸宅に入る場合は別料金なことがほとんどです。
そんななか、アングルシー修道院はあらかじめチケット代に組み込まれていたので関係ありませんでしたが、年会費を払いナショナル・トラストのメンバーになれば、イングランド各地にあるほかの施設も、こういった別料金の有無を気にせず何度でも利用できます。
駐車場料金もかからないなど特典が多く、こちらに住んでいると周りからよくすすめられるので、わが家も遅ればせながら昨年来より入会しています。会員になることで、運営施設の保護、維持活動の支援にもなります。
男爵ご自慢のアンティークコレクション
"カントリーハウス(home)"に分類される同修道院の邸宅は、ジェームズ1世の治世(1603~25)に発展した、ジャコビアン様式です。ジェームズ1世のラテン名「ヤコブ(Jacobus)」に由来したこの様式は、ルネサンスの影響を受けた前世のエリザベス期の様式を多く受け継いでいます。
一方でエリザベス様式に比べ、ジャコビアン様式では華美さよりも実用性が重視され、左右対称なシンメトリー形式の建物には頑丈なレンガを使用し、重厚感のある家具にはオーク材が多用されました。広がるドレスの裾で肘かけのついた椅子には座れなかった女性のために、ベンチタイプの椅子を考案、大勢が座れるよう長テーブルが生み出されたのもこの時期です(参照: "Jacobean Furniture" Elizabethan Era 2022.)。
アングルシー修道院の邸宅では、フェアヘイブン男爵が1926年より死去するまでの間に、装飾品や彫刻、タペストリー(織物の壁掛け)に絵画と、アンティークのコレクションでいっぱいになりました。
男爵はアメリカ育ちだったことも影響しているのか、蒐集した美術品はチューダー朝(15世紀末から17世紀初頭まで)初期のものからと、時代に幅があるだけでなく、国もさまざまな折衷型でした。
特にその傾向が顕著なのが、入ってすぐの居間。仏塔型の黄金(Pagoda clock)の時計があり、ギンギラしてどちらかといえば南国風な感じもしますが、たいへん価値のあるもののようで、スタッフが盛んに"Chinese taste"と熱弁をふるっていました。
たしかにソファや椅子、ランプも竜がついていたりと、中国風です。さっそくお目にかかった大きなタペストリーは、ヤシの木が派手に描かれた南国風。
夕方5時になると、アフタヌーンティーがこの部屋に運ばれたそうで、男爵はきっと、客人にご自慢のコレクションについて熱く語っていたことでしょう。
ホテル並みに揃う館内施設
2階はまるでホテルのように、トイレや浴槽などのバスルームから各部屋内装の異なる客室が並び、いまにも宿泊客がのっそりと現れそうです。
明るい日差しが入り込み、驚くほど高さのあるドーム型の天井を持つ図書室は、男爵が幼少期からのお気に入りや、各地の渡航先から持ち帰った本などで構成されていますが、ナショナル・トラスト管理のなかでも群を抜く、貴重なコレクションのひとつだとか。
年代ものの書籍ばかりゆえ、修復作業は順繰りに常時行われており、表紙カバーのはがれている部分を継ぎ足したり、とじ糸が緩んでいるものを直したりとやることは限りなくありそうです。説明するスタッフの横には見慣れない布団乾燥機のような?!機械があったり、ずいぶんと高さのある脚立が置かれていたりと、作業の様子が伝わってきました。
当時の図書室は夜になると、客人とともに食前酒をたしなむ場となり、男爵は大好物のソルティードッグのグラスを傾けました。そのあとは地下階にあるダイニングルームでの晩餐となりますが、こちらはとりわけ修道院の面影を強く残した部屋で、アーチ型の天井と床のタイルが硬質な感じで、厳かな気分になります。
ナショナル・トラストの施設で、こういった邸宅などの案内を担当するスタッフは皆ボランティアで活動しているのですが、このダイニングルームにいたスタッフは「まだまだ未熟者なので」と言うので尋ねたところ、ボランティア歴20年でした!
週末を利用して、可能な限り来るようにしているそうですが、なかには40年以上携わっている人もいて、それも毎日のように来るのでもはやスペシャリスト、とても敵わないと言っていました。
分刻みの舞台裏
そのまま厨房へとつながる炊事場エリアは、男爵が過ごした生活がどのようなものだったか、後世へ伝えたいというご本人たっての希望で、執事の食品庫や台所、食器洗い場、磨き部屋、使用人の休憩室を当時の様子そのまま、忠実に再現されました。
食品庫の棚にはタイプされたスケジュール表が貼られていましたが、朝5時半から夜の21時15分まで分刻み! 5分間隔どころか、3分間隔のものもあり、夜な夜な繰り広げられる社交界の舞台裏が、いかに緊迫したものであり、縁の下の力によって成り立っていたかがよくわかります。
庭園散策と休憩カフェテリア
邸宅見学後は、若葉が生い茂り始めた広大な庭園を散策しました。出てすぐのところには、梅や桃のような木と灯籠のような置物があり、なんだか日本風。施設名にもあるとおり粉挽き場(Lode Mill)があるようでしたが、この日は改修中であいにく閉まっていました。
木製の遊具があるワイルドライフ・ディスカバリーには子供があふれており、わが子もタップリ遊んだあとカフェレストランで休憩しました。
併設したショップには、施設名の入った雑貨や食品のほかにガーデンセンターもあり、かわいいディスプレイに惹かれてこちらの壁飾りをお買い上げ。
よく歩き、またひとつ新たな英国インテリア建築の様式、ジャコビアン・スタイルを学ぶことができました。
◼️アングルシー修道院(Anglesey Abbey, Gardens and Lode Mill)・住所: Quy Road, Lode, Cambridge, Cambridgeshire, CB25 9EJ・アクセス: 電車Cambridge駅からThe 11番のバスにてLode停留所下車・開場時間(日ごとに要確認): 庭園(毎日)9:30〜17:30、邸宅 11:00〜14:00、レストラン9:30〜17:30・入場料: (毎日14時以降、1月、8月、11月の終日は閑散期割引あり)大人£15、子供£7.5、家族割£37.5・URL: https://www.nationaltrust.org.uk/anglesey-abbey-gardens-and-lode-mill