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11月だというのに今年2022年は、先月に引き続いてまだまだ生暖かいこちらイギリス。12日も日中の気温は11度、朝から天高く秋晴れでスポーツ観戦日和です。
ロンドン郊外にある「トゥイッケナム・スタジアム(Twickenham Stadium)」ではこの日、イングランド対ラグビー日本代表との試合(the Autumn Nation Series)が行われました。その当日の様子をレポートします。
イギリス発祥のスポーツは数多くありますが、ラグビーもそのうちのひとつ。その名もラグビー市という町がイングランド中部のウォーリックシャーにあり、ラグビーとはそこの学校名にちなんでいると言われていますが、“ラグビー聖地”と呼ばれているのはイングランド代表のホームスタジアムがあるトゥイッケナムの方です。
1909年に初試合が開かれた同スタジアムの収容人数は82000人。大学ラグビーの試合で知られている、東京の秩父宮ラグビー場のそれは27188人なので、かなり大きな規模であることがわかります。日英(イングランド)戦のこの日も来場者数は81087人で、観客席の空きはほとんどありません。
最寄駅であるトゥイッケナム駅に降り立つと警察官が立ち並び、町の通りは封鎖され歩行者天国になっていました。スタジアムまでは住宅街を通り抜けて15分ほどですが、すぐにおいしそうな匂いに包まれ、世界各国の屋台料理がズラリと出迎えてくれます。
イングランドと日本の両方の旗やマフラー、応援グッズやシャツなどが売られている出店もあり、日の丸があちこちではためく様は不思議な光景でした。
人の流れは日本の夏祭りや花火大会の様子と似ており、フェイスペイントをし旗をマントがわりに羽織った人、時期柄戦没者追悼シンボルのポピー(関連記事)のかぶり物をしている人、14時半からすでにビール片手に大声で歌い盛り上がっている団体などさまざまな人たちがひとつの方向へ進んでいきます。
スタジアムすぐ横のマリオット・ホテル、ラグビー博物館などを抜けていよいよ入場ゲートに到着です。ここでチケットを提示するのですが、頭上の「A4サイズ以上の手荷物は持ち込み不可」と、リュックサックの絵にもバツ印がついた看板を見て内心焦りました。
どうりで周りにはほぼ手ぶらで身軽な人が多いわけだ、皆手慣れているな、とますます冷や汗をかくことに。その一方で、明らかに規定サイズ以上の鞄を持ち、チェック後そのまま通してもらっている人も目にし、かすかな希望を持って荷物検査の列に並びました。すると案の定、普通サイズのものであればリュックタイプの荷物でも問題ありませんでした。
トイレはどこも長蛇の列。いったん席についてしまうと行くのは困難なことが目に見えているので先に済ませると、場外同様ひしめく屋台と観客で芋洗い状態だったのが嘘かのように、閑散としていました。
それもそのはず、イギリスの国家が聞こえたと思いきや、ときはすでにちょうど試合開始時刻の15:15でした。君が代はないの?と思いましたが、あったとしてもほかの日本人歌手による歌や選手入場、黙とう時間などもろもろの催事はことごとく見逃してしまったようです。
入場は3時間ほど前から可能とのことなので、試合前の余興もタップリ楽しみたい方は早めの到着がよいでしょう。
今回の観覧席は最上階で、たどり着くまでビル10階分ほどの階段をノンストップで登ったかのようなハードさで、太ももがピクピク、息はゼイゼイと想定外のキツさでした。
ラグビーはゴルフと並んで“紳士のスポーツ”と称されますが、それを実感するほどサポーターの秩序ある態度、対戦相手サイドへの優しさを間の当たりにしました。
小さいながらも日の丸国旗などを持って、それも遅れて入ってきたわれわれにもあちこちで道を開けてくれたり(試合後もわざわざ!)微笑んでくれたりと、温かさを終始感じました。
あいにく開始早々点を取られ、その後も取られ続けてしまった日本代表ですが、そのときもこちらに向かって盛んに親指を立てて「楽しんでるか〜い?イイだろ?」のような、嫌味でない心配りをしてくれます。
しかも、着席早々隣の観客がわざわざ家族全員の写真を自ら撮ると申し出てくれ、想定外に貴重な1枚をゲットしました。いわく、「僕はスコットランド人だから(試合中に関することなど)なにも気にしないから」などと言ってくれました。
そんなありがたい申し出や気遣いを周りの観客からいただき、気持ちよく観ることができたのですが、と同時に「アウェイで観戦することの難しさ」にも気づきました。
まずは、会場に歓声が渦巻くとき=日本が劣勢のときであり、逆のときにこちらが拳を挙げたり声を出すと、誰も実際は気にしていませんがやはりその真逆の行動パターンに違和感を覚えます。
はじめは大きな日の丸国旗が壁に貼られている観客席を目印に、「あ、あそこに仲間が!」と励みにしていたのですが、なんと、前半が終わらぬうちに彼らは早々にその国旗を下ろしてしまい、帰ってしまったのでしょうか?!ショックでした。
自然発生的に、どこからともなく湧き起きるイングランド代表の応援歌『スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット(Swing Low, Sweet Chariot)』の渦には飲み込まれるような圧力があり、選手たちのプレッシャーはいかほどのものなのか、とつい心配してしまいます。
1986年のワールドカップ、メキシコ大会から始まったといわれる“メキシカン・ウェーブ”は、日本のそのほかの競技でも見られる観客が順に立ち上がって波を立てる動作ですが、波の真ん中にいた日本人は当然立ち上がらず、居心地が悪そうでした。
波のあとにはブーイングとセットになっており、対戦相手や観客のためかスタジアムで売られていた公式パンフレットには、トゥイッケナム・スタジアムではこのメキシカン・ウェーブを控えてほしい旨、記載されていました(出典:Gillingham, N. (2022) Autumn Nations Series England V Japan (12 November 2022): Respect and Sportsmanship at Twickenham. Liverpool: The PPL Group, p.7.)。
また、得点が入ると両チームともに音楽が流れるのですが、日本が入ったときはどうしても?申し訳程度ですぐに音が消されてしまう気がして、なかなか余韻に浸れないどころか、得点したことすらすぐには気づかないありさま。
ひるがえってイングランド側は得点が入ると踊り出す人が多いので、そのうちイングランドが入ったときでも密かに楽しむようになりました。
2022年11月現在、男子ラグビーの世界ランキングでイングランドは5位、日本は10位(出典:World Rugby “WORLD RANKINGS: ALL BLACKS CLIMB ABOVE BOKS AND PUMAS RISE”Rugby365, Nov, 2022.)についているように、もともとイングランドは日本にとって高嶺の花ともいえる強敵でした。
1971年の大阪で初めて対戦して以来今日まで7回(ほかの参照ウェブサイトでは9回とありました)、ただの1度も勝ったことがありません(出典:Griffiths, J. (2022) Autumn Nations Series England V Japan (12 November 2022): Wins since first match in 1971. Liverpool: The PPL Group, p. 63.)。今回も残念ながら太刀打ちできませんでしたが、周知のとおり近年日本ラグビーのレベルは目覚ましいほど上がってきています。
記憶に新しいところでは、2015年のワールドカップで南アフリカ代表を破る快挙、自国開催での2019年は当時世界ランク2位のアイルランドを破るという、史上最大級の番狂わせを演じました。
このような頑張りを讃えるため、もともと桜のロゴにちなんで“チェリー・ブロッサムズ”と海外のメディアには呼ばれていたものが、2003年のワールドカップの対スコットランド戦で魅せた善戦以来“ブレイブ・ブロッサムズ(The Brave Blossoms)”、勇敢な花という新たな呼称が生まれました(参照: “HOW CHERRY BLOSSOMS BECAME BRAVE BLOSSOMS – AGAINST SCOTLAND”Rugby World Cup, Oct, 2019.)、(出典:Bech,D. (2022) Autumn Nations Series England V Japan (12 November 2022): Eddie on the Brave Blossoms. Liverpool: The PPL Group, pp. 17-19.)。
周囲から聞いた話ですが、スポーツ好きな人が多いイギリス人はこういう話や展開が大好きなようで、このような熱き戦いがあったあとは、日本でもイギリスでも「日本人か?よくやった、すばらしい!」と声をかけてきたり、パブで1杯振る舞ったりする人もいたようです。
今回イギリス人サポーターが終始おしなべて優しかったのは、日本が残念な結果に終わってしまったからではなく、純粋にスポーツマンシップに則ったものだったのだと心から思えました。
なお、帰りは想定していたとおり、駅にたどり着くまできっかり1時間かかりましたので、今後ほかの試合を観に行かれる際は気をつけてください。今週末19日に行われるイングランド対ニュージーランド戦は、オフィシャルサイトからの販売は現在すべて売り切れとなっています。