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アリゾナ州フェニックス・東50kmの場所にネイティブアメリカン・アパッチ族が恐れていた山があります。その名はスーパースティション山(Superstition Mountain)。ロスト・ダッチマン州立公園と名づけられたこの山を含む一帯は、家族連れがハイキングやキャンプ・乗馬などのアウトドアを楽しめる場所となっています。開拓時代に金鉱伝説に魅了された人々が一攫千金を夢見てこの地に移り住んだゴーストタウンもあり、再開発されたことから、観光地としても人気です。そんな明るいイメージの観光地ロスト・ダッチマン州立公園ですが、実はこの場所には数々の迷信や言い伝えが残っており、いまなお恐れられているミステリーな場所なのです。
ゴツゴツした荒々しい岩肌と荒野に切り立った絶壁。人を寄せ付けない威厳すら感じるスーパースティション山。この辺りに住んでいたアパッチ族は決してこの山へ足を踏み入れませんでした。アパッチ族には古くから伝えられている掟、この山に関しての言い伝えがあったからです。「スーパースティション山には地下世界へのポータルがあり、地底には恐ろしい魔物が住んでいる。その魔物が住む地底では金がたくさん保管されており、山に近づき彼らを怒らせると災いが起きる」という言い伝えです。
時は流れ……アメリカ西部開拓時代。いまから182年前、ゴールドラッシュが吹き荒れるアメリカ1839年。ドイツから一攫千金を夢見てニューオリンズにやってきたジェィコブ・ワルツという男がいました。ドイツ出身でしたが、なぜかダッチマン(オランダ人)というニックネームで呼ばれていたジェイコブ。1861年にアメリカ国籍を取得し、1868年頃からアリゾナ・スーパースティション山で金鉱を探し当てる仕事をしていました。彼は1891年に亡くなるのですが、病に倒れた彼の看病をしていたジュリア・トーマスという女性に秘密の金鉱場所を告白します。彼女はその情報をもとに金鉱探しのため、雇った一行を引き連れスーパースティションへ向かいます。
ジュリアは、莫大な費用をかけて金鉱探しをしたのですが、残念ながら金を探し当てることはできませんでした。損失を穴埋めするために彼女はジェィコブから聞いた場所を地図にして販売を始めます。1895年、彼女の噂を聞いたライターのP・C・ビックネルは彼女をインタビューし、ワルツの残した言葉をつけ加え世間に発表します。謎の金鉱地図の話はセンセーションを呼び、多くの人々の関心を集めます。一攫千金のチャンスがスーパースティション山にあるのではとないかと、人々は心躍らせたのです。
「金鉱掘りに金鉱は見つけられない」「金鉱を見つけるには、牛舎の前を通らなければならない」「金鉱の入口は、夕陽が差し込む場所」ワルツがジュリアに残した謎の言葉は何を意味するのか……現在でも謎のままです。
P・C・ビックネルによって世間に知られるようになったスーパースティション山。一攫千金を狙って多くの人々がこの地を訪れ金鉱探しを始めます。しかし、金鉱を探しあてることなく多くの人が命を落とします。厳しい気象条件や「この山には地底とつながる通路があり、恐ろしい地底人が住んでいるので近づいてはならない」という掟を信じていたアパッチ族がいたからです。
アドルフ・ルースという人物も一攫千金を夢見て、金鉱探しのためにこの山に魅了されたひとりです。しかし、1931年に行方不明になり、5年後に発見された彼の頭蓋骨には2発の銃弾で打ち抜かれた痕がありました。誰が彼を銃撃したのかは不明ですが、金鉱発掘のためにスーパースティション山へ入ったために起こった出来事なのは確かです。
アパッチ族に伝わる伝説と金鉱に魅せられた人々が朽ち果てていく悲しい歴史。金鉱に呪いがかけられていると人々は噂するようになり、いまもミステリーとして語り継がれています。信じるか信じないかはあなた次第ですが、コロナ禍が落ち着いたら、スーパースティション山でミステリーの謎解きを楽しむ旅というのもおもしろいと思います。