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アッペンツェル地方とは、スイス東部、オーストリアとの国境沿いにあるアッペンツェル・インナーローデン準州とアッペンツェル・アウサーローデン準州をあわせた地方のことを指します。アッペンツェルを説明するのによく使われる表現は「古きよき時代のスイスが残る場所」、「牧歌的」、「保守的」など。人口は約6万人で農家が目立ちます。インナーローデンに住む人々にとって「アッペンツェル=インナーローデン」。今回ご紹介するイベントは、インナーローデンを愛してやまない地元民たちによって催される春のお祭りです。
Funkensonntag(フンケンゾンターク)を日本語に訳すと「閃光の日曜日」になるのでしょうか。
イースター(復活祭)の3週間前の日曜日に行われる、冬を追い払い、待ち望んだ春の到来を祝う、地元民にとって大切なお祭り。
木の柱で組まれた高い塔のてっぺんに、爆竹が仕掛けられた人形を乗せ、それを燃やすというものです。
子供や若者向けの伝統的なお祭りと聞いていたのですが、実際は大人も子供も楽しめる穏やかなお祭りでした。
スイス国鉄SBBのアッペンツェル駅から徒歩15分ほどの小高い丘にフロイデンベルクホテル(Freudenberg Hotel und Panorama Restaurant)があります。
フンケンゾンタークはこのホテルの横にある草地で行われるのですが、なんとここは1874年まで絞首台があったところなのだとか。 もともとは貧しいここリート(Ried)には1483年から存在する建築物や財団などがあり、お散歩するのに興味深い場所でした。
点火は暗くなってからとのことなので、私は19時半頃にアッペンツェル駅に到着しました。
駅から3分くらい歩いたら、丘の上にたたずむ白い人形が!
「フンケバーベ (Funkebaabe) 閃光を放つ人形」という名の、数時間後には燃やされる可哀想な子・・・。
ホテル(というよりゲストハウス)に着くと、数種類のソーセージを焼く屋台前にはすでに行列ができていました。
ビールとソーセージを片手に、おしゃべりを楽しむ老若男女・・・家に篭りがちな冬が終わりを告げているサインです。
奥の方に踊れるスペースがあるようで、若い男の子と女の子はひっきりなしに出たり入ったり。
直径30 mくらいの草地にある、25 mくらいの高さに組まれた木の塔は、柱のような6本ほどの長い木で支えられていました。
塔の内側に未加工の木や枝を入れ、てっぺんには数ヶ月前に使ったクリスマスツリーを入れ、モミの蔓、さらにフンケバーベ(Funkebaabe)を乗せています。
この人形は冬の象徴だそうです。アッペンツェルの人々にとって冬は過酷で、人の命を左右する、ある意味では憎むべき存在。
そういう冬を追い払うために、人形を冬に見立て、火を付け、爆発させ、閃光で吹き飛ばし、訪れる春を迎え祝うのです。
みんなで準備し、みんなで祝い、みんなで春を迎えることが、地元の人々の結束をさらに強くするのでしょう。
この塔を見張り役の青年3人が制服を着て守っていました。フンケンゾンターク前に変な輩が勝手に点火したり悪戯したりしないようするためだそうです。
塔から10 mほど離れたところにロープが張られており、500人くらいの見物人はそのロープ前で点火を待ちます。
私は傾度30度くらいの丘を30 mほど登ったところまで移動。まわりには誰もいなくて、塔やゲストハウスだけではなく遠くのアッペンツェルの教会やなだらかな山々を見渡せる絶好の場所でした。
あたりが暗くなり始めた20時半前、数100人の子供や大人が、手作りの松明を手に続々と行進してきました。
松明をかかげながら「リート・レーベデ・ホッホ、ドライモル・ホッホ!(Ried lebede hoch, dreimal hoch) リート万歳、万歳三唱」を定期的に繰り返しながら、全員が塔のまわりに円を組み終わったのは約20時40分。
銃の合図で松明を一斉に塔に投げ込み、火を起こしたようです。
塔にくべられた薪が燃えるのを待って、花火が激しい音とともに打ち上げられました。
色とりどりの花火の鮮やかなこと、塔から上がる火の美しいこと・・・地元の人たちが、いかに厳しい冬を生き抜き、感謝とともに春を迎え、心の底から喜んでいるのかが伝わってきた気がします。
唯一、残念だったのは、10歳にも満たない子供たちが「クロムミ(e Chrommi) 曲がった葉巻」を吸う姿が見られなかったこと。もちろん法律では未成年の喫煙は禁じられているのに、このお祭りのときなどは例外だそうで・・・。
火が人形に届くと、人形は大きな音を立てて爆発するそうです。でも、それは地元民の幸運を約束する証拠。
一方、人形が爆発する前に火花が消えたり落ちたりするのは悪い予兆だと考えられています。そういう不吉な人形は、次の日曜日に儀式を行い、埋葬されるとのこと・・・。
2025年は、前日まで雨だったこともあり、人形は23時まで火が移りませんでした。
塔は下半分の木は燃えたものの、上の方は湿っていたので蒸気を出すだけで人形に火は届かず。
人形が燃え落ちたとしても火は翌日まで残るそうですが、人形に火も移っていなかった今回は、23時には残っていた見物人はたった数人だけ・・・ドローンが飛んでいたので、帰った人々はニュースで確認したのでしょうか。
日本のどんと焼きしかり、火柱を起こし、厄を祓い、幸せを迎え入れるという感覚は世界共通なのかもしれません。
観光客がいないスイスのお祭り、もしタイミングがあえば訪れてみてはいかがでしょうか。
フンケンゾンタークFunkensonntag
日時;イースター3週間前の日曜日
ホテル フロイデんベルクHotel Freudenberg 周辺
住所;Riedstrasse 57, 9050 Appenzell, Switzerland
URL : https://hotel-freudenberg.ch