映画『 ポルトガル、夏の終わり』で注目される世界遺産シントラの魅力

この夏、ポルトガルのシントラを舞台にした映画『ポルトガル、夏の終わり』が公開されます。イギリスの詩人バイロン(1788-1824)が「この世のエデン」と讃えたその場所で撮影が行われました。ポルトガルの世界遺産のひとつであるシントラの町は、首都リスボンの西約30に位置します。電車ならわずか40分で訪れることのできるロケーションでありながら、標高約500mの深い森と美しい海に恵まれた特別な場所です。今回は作品のロケ地を中心にシントラ魅力を紹介いたします。
シントラの自然が包み込む儚くも美しい人間讃歌

本作『ポルトガル、夏の終わり』は、アイラ・サックス監督の『人生は小説よりも奇なり』(2014)を観て感動した女優イザベル・ユペールからのラブコールを受け、監督がユペールのために書き下ろした作品です。共同脚本家のマウリシオ・ザカリーアスと一緒にシントラを訪れた監督は、1週間強のロケハンを行い、その旅を「まるで宝探しのようだった」と振り返っています。舞台そのものが、主人公同様の存在感を放つ作品がありますが、本作はまさにそんな映画です。

自身の余命が短いことを悟った女優フランキーは、 最後の夏を過ごす場所としてシントラを選び、そこに一族や親友を呼び寄せます。そこには、亡きあとのことを案じた彼女が、愛する者たちが幸せに暮らせるようにと描いたシナリオがありました。ただ、フランキーを取り巻く人たちは、それぞれに問題を抱えていて、彼女の思惑から大きく外れていきます。スクリーンに描かれるのは、ある夏の終わりの早朝から夕暮れまでの1日。シントラは、ときに温かく、ときに神秘的に登場人物すべてを包み込んで、観るものに強い印象を残しています。


訪れてみたい魅力あふれるロケ地と観光ポイント

見よ! シントラという名の壮麗なエデンの園は
山と渓谷の織りなす迷宮の中にある。
ああ、いかなる者が絵筆やペンを取り
この風景の半分だけでも描くことができようか。ロード・バイロン『チャイルド・ハロルドの巡礼』より
短い旅行期間のなかで、旅先を駆け足でめぐる多くの日本人観光客にとって、シントラは、ゆっくり滞在する場所ではないかもしれません。筆者もリスボンを起点に、シントラ、ロカ岬、カスカイスそしてリスボンに戻る日帰り旅ですませてしまいました。シントラには、王宮、ムーアの城跡、レガレイラ宮殿、ペーナ宮など、見どころも多いのでどうしても慌ただしい観光になってしまいます。とはいえ、一度訪れれば、リスボンの街の喧騒とは対照的なシントラの町は、深い森に覆われた幻想的な空間として強い印象を残しているに違いありません。本作を観て、次回訪れる際には、シントラの町にゆっくり滞在してみたいという思いを強くしました。

海からの湿った風によって発生する霧や雨によって現れる神秘的な表情など、シントラの自然はつねにドラマチックです。ロケハンで訪れた監督が、どんな映画になるかわからない段階であるにもかかわらず、「すでに映画の中にいるような感覚を覚えた」と語っていますが、シントラという土地で撮影を行うということがどれほど重要であったかを強く物語っています。
■ シントラの情報
・URL: https://cm-sintra.pt/
■ ポルトガル公式観光ウエブサイト
・URL: https://www.visitportugal.com/ja
王宮

王宮は歴代の国王の夏の避暑地として愛されてきた建物で、14世紀のジョアンン1世以来、増改築が行われ、多彩な建築様式が残されています。現在の姿になったのは、ポルトガルの最盛期となった16世紀のことです。ポルトガル王国の黄金期を築いた幸運王マヌエル1世(1469-1521)は、ヴァスコ・ダ・ガマ(1460頃-1524)のインド航路開拓の第一報をこの王宮で聞いたとされています。また、九州のキリシタン大名の命でローマに派遣された天正遣欧使節の4人の少年が、1584年の夏にリスボンに到着し、この王宮の「白鳥の間」に招かれています。

アーモンドを使ったトラヴィセイロもおすすめ。©iStock

■ Casa Piriquita
・住所: Rua das Padarias 1/18, 2710-603 Sintra
・TEL: (+351) 219 230 626
・URL: https://piriquita.pt/?lang=en
ペーナ宮&庭園

南ドイツのノイシュヴァンシュタイン城と比較されることも多い。©iStock
1885年に完成したペーナ宮は、ポルトガルの19世紀のロマン主義様式の建物で最も優れたものとされています。この宮殿は、マリア2世(1819-1853)と結婚したザクセン・コーブルク・ゴータ家のフェルナンド2世(1816-1885)の命により建てられました。この場所には、古い修道院がありましたが、修道院とその周辺の土地を購入し、ペーナ宮と庭園を築きました。さまざまな建築様式が混合されているカラフルなその佇まいは、フェルディナンド2世のイマジネーションの結晶と言えます。宮殿のテラスからはシントラの森林とはるか先に大西洋を望むことができます。


レガレイラ宮殿

本編では登場しないが、ポールとの会話のなかで、シルヴィアがこれから訪れると語った場所です。17世紀に建てられた王族の別荘を、20世紀の初めにアントニオ・モンテイロが購入し、イタリアの建築家ルイジ・マニーニが改装を手掛けています。ロマネスク様式、ゴシック様式、ルネサンス様式、そしてポルトガル独自のマヌエル様式などさまざまなデザイン様式が混在した空間です。らせん階段のある深い井戸や洞窟、湖、不思議な建物などがあり、ところどころに錬金術やテンプル騎士団のシンボルが施され、独特のオーラを放っています。

マサス海岸(リンゴの浜)

母親と喧嘩したマヤがひとり訪れるのがこのビーチ。シントラの町からは路面電車に乗って約45分で、終点のマサス海岸へアクセスできます。コラレス川の流れに乗って運ばれたリンゴの実が、この浜に打ち上げられたことから「Praia das Maçãs(リンゴの浜)」と呼ばれるようになったという言い伝えが残っています。

ユーラシア大陸最西端のロカ岬

ロカ岬は、北緯38.47度、西経9.30度に位置し、ユーラシア大陸の最西端ということで有名な場所です。かわいい灯台やカモンイス(1524-1580)の叙事詩『ウズ・ルジアダス』の「ここに地果て、海始まる(Onde a terra acaba e o mar começa)」という一節が刻まれた石碑があり、観光客の撮影ポイントになっています。インフォメーションでは「最西端到達証明書」(€11)を発行してもらえます。カモンイスはヴァスコ・ダ・ガマの航跡をだどり、1553年にマカオを訪れています。同叙事詩の中には日本に関する記述もあります。

ちなみに最西南端は、ポルトガルのサグレスのサン・ヴィセンテ岬です。サグレスは、15世紀にエンリケ航海王子(1394-1460)が航海学校を設立した場所。そして、ここは沢木耕太郎氏が『深夜特急』の旅を終えることを決意した場所でもあり、ファンにとってはひとつの聖地となっています。
ペニーニャの聖域

長い夏の一日の終わり。沈みゆく夕陽に照らされ、赤く染まる大地と大西洋の海。主演のイザベル・ユペールは、シントラの撮影で最も印象に残っているものとしてラストシーンを撮影したペニーニャの聖域をあげ、「あの日の日没は、奇跡かと思われる素晴らしさだった。空は海からの並外れた反射を受けてほぼ真っ赤に燃えていたのよ」と語っています。

映画に登場する実在のホテル

オープニングでフランキーが泳ぐシーンを撮影したプールやフランキーがグランドピアノを弾く図書室などが登場する。
■ Quinta de São Thiago
・住所: Estrada Monserrate Rua Do Regueirinho, Sintra
・URL: http://quintadesaothiago.com/english/

■ Quinta da Boiça
・住所: Caminho da Fonte dos Amores 2710, Sintra,
・URL: http://www.quintadaboica.pt/index_en.html
STORY
ポルトガルの世界遺産シントラ。イギリスの詩人バイロンが“この世のエデン”と謳った特別なこの場所を舞台に、監督アイラ・サックス、主演イザベル・ユペールが贈るヒューマンドラマが幕を開ける。自身の余命が短いことを悟ったフランスの大女優フランキーは、 最後となる夏の休暇、シントラに一族や親友を呼び寄せる。そこには、一族の中心として彼らを見守って来た彼女の秘めた企てがあった。緑が深く神秘的なシントラという町に包み込まれ、時を過ごすそれぞれの登場人物たちは、フランキーが思い描いたシナリオとは異なる展開を見せていく。

■ 『ポルトガル、夏の終わり』
・原題: FRANKIE/2019/フランス・ポルトガル
・監督・脚本: アイラ・サックス『人生は小説よりも奇なり』
・出演: イザベル・ユペール『エル ELLE』
ブレンダン・グリーソン『ロンドン、人生はじめます』
マリサ・トメイ『人生は小説よりも奇なり』
ジェレミー・レニエ『2重螺旋の恋人』
■配給: ギャガ
■公式サイト: https://gaga.ne.jp/portugal/
※8月14日(金)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
(C)2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA (C)2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions

筆者
地球の歩き方書籍編集部
1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』の書籍編集チームです。ガイドブック制作の過程で得た旅の最新情報・お役立ち情報をお届けします。
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