モンゴルで親しまれるスーパーフード、チャチャルガンとは?

公開日 : 2024年08月27日
最終更新 :

執筆者:島田 俊子
イギリスの大学院で社会開発を学んだあと、青年海外協力隊を経て、1999年からアイ・シー・ネットに勤務。入社以来、社会開発やガバナンス分野の調査、技術協力のほか、ODAの事業評価案件に多数従事。

海外旅行中や海外出張中、外食続きだとどうしても栄養が偏ったり、野菜不足が気になったりしませんか? 今回は、美容に詳しいモンゴル人のスタッフから教えてもらったスーパーフード、チャチャルガンをご紹介します。これを摂れば栄養が身体にしみ渡り、野菜不足も解消してくれますよ。

モンゴルで出合ったスーパーフード、チャチャルガン

たわわに実るチャチャルガンの木
たわわに実るチャチャルガンの木

「草原の国」といわれるモンゴルの人々の食生活は、伝統的に肉と乳製品が中心です。野菜の摂取量は少なく、世界保健機構(WHO)が推奨する量の6分の1程度だそうです。初めてモンゴルで仕事をした今から15年前は、地方に行くと毎日羊、羊、羊料理で、どちらかというと羊肉が苦手の筆者は、心の底から早く野菜が食べたいと思ったものです。

コロナ禍以降、仕事で久しぶりにモンゴルを訪れたところ、都市部には高級スーパーやコンビニができており、食の選択肢は増え、これらのお店では野菜サラダが売られるようになっていました。都市部では中間層や若者を中心に栄養バランスのとれた食生活への関心が高まり、ジャガイモやニンジンだけでなく、短い夏の間にレタスやホウレンソウなどの葉物やトマトやキュウリなどの果菜類が徐々に生産されるようになってきました。

世界一寒い首都といわれるウランバートルの冬は、寒いだけでなくとても乾燥します。夏にはたくさん種類があった野菜サラダも種類がぐっと減り、スーパーで買える野菜は輸入品で新鮮とは言い難く、再び野菜不足に悩まされる毎日でした。

濃縮タイプのチャチャルガンジュース。お湯割りでいただきます
濃縮タイプのチャチャルガンジュース。お湯割りでいただきます

粉雪が舞うある日、プロジェクトスタッフから「モンゴルは乾燥しているし、食事も野菜不足になりがちですよね。チャチャルガンのジュースは飲んだことあります? オレンジ色の。英語名はシーベリー、シーバクソンですよ。」と声をかけられた筆者。「???海のないモンゴルでシーベリー?」と、どんなベリーだかまったく想像ができませんでした。「ちょっと癖がありますけど、どうぞ!」と、個装された液体をスタッフからもらいました。

オレンジジュースよりは明らかに濃いオレンジ色で、お湯割りで早速試飲したところ、これがとてもおいしく好みの味でした。少し独特のにおいがして、酸っぱいといえば酸っぱいのですが、酸味が好きな筆者にとってはまったく問題なく、むしろ癖になる味でした。乾燥気味の肌全体に、そして野菜不足の身体全体にじわじわ効いてくる感じがしました。即刻、その日の帰りに箱で購入しました。

モンゴル人に愛される「チャチャルガン」とはどんな植物?

モンゴル語のチャチャルガン(シーベリー、英名Seaberry, Seabuckthorn)はグミ科の植物です。寒さにも乾燥にも強い植物で、モンゴルのほかロシアや中国、中央アジア、ヨーロッパ北部などで自生しているそうで、国によって呼び名が違います。日本国内には自生しておらず、主に北海道で試験的に栽培されている程度だそうです。日本では「サジー」という名で商品が売られていることが多く、健康や美容に関心のある方は聞いたことがあるかもしれません。

歴史は古く、なんと2億年前にさかのぼり、実は最古の植物だそうです(※1)。寒さと乾燥に強いとはいえ、2億年前からある植物とは驚きです。チャチャルガンはビタミンやミネラル、アミノ酸、若さの脂肪酸として注目されているオメガ7など不飽和脂肪酸など実に200種類以上の栄養素があり、健康や美容によいスーパーフードとしても世界的に有名な食材だそうです。すっかり気に入り、ここ数年モンゴルに出張に行く度に必ず購入し、別の国の出張にも栄養ドリンク代わりに持っていくようになりました。

チャチャルガンが親しまれているのはなぜ?

さて皆さん「チンギス・ハン」をご存知ですよね。そうです、13世紀初頭にユーラシア大陸を支配したモンゴル帝国の初代皇帝です。英雄チンギス・ハンも、このチャチャルガンを食べていたそうです。激しい戦いの末に足を痛め部隊から退いた馬たちが、チャチャルガンの木が生い茂る林でその実を食べて冬を越したところ、毛並みはきらきらと輝き足のケガも治りたくましい姿に回復したとか。これを喜んだチンギス・ハンもチャチャルガンを食べるようになり、馬だけでなく遠征部隊の兵士の必需品となったという話が言い伝えられているそうです。チャチャルガンの学術名、ヒッポファエ・ラムノイデスの「ヒッポファエ」は輝く馬という意味だそうです(※2)。

首都スフバートル広場に鎮座する圧倒的な存在感のチンギス・ハン像(画像中央)
©iStock 首都スフバートル広場に鎮座する圧倒的な存在感のチンギス・ハン像(画像中央)

チンギス・ハンも愛用したチャチャルガンは、実をつぶして砂糖やはちみつと一緒にジュースとして摂取するほか、最近は果汁の粉末や液体のものが簡単に手に入り、モンゴルで日常の健康食として親しまれています。チャチャルガンを教えてくれたスタッフによれば、昔から特に寒い時期や風邪の引き始めなどにお湯割りにしてよく飲むとのことです。チャチャルガンの実には含まれるオイルが、のどの痛みや胃のトラブルに効くそうです。モンゴルの夏は暑いところでは40度近く、冬はマイナス40度となり、人間にも植物にも厳しい環境です。チャチャルガンはそうした厳しい自然環境でも育つ生命力のきわめて強い植物で、多様な栄養を含んでいることから、モンゴルの人々に昔から親しまれてきたのかもしれません。

実際に栽培されているエリアを訪れてみた

収穫したばかりの生のチャチャルガン
収穫したばかりの生のチャチャルガン

2013年時点で、世界のシーベリーの総植生面積は約300万ha、このうち中国が約250万ha(うち野生種100万ha、栽培種150万ha)、モンゴルが約2万haだそうで、インド(約1.2万ha)やパキスタン(約3000ha)が続きます(※3)。モンゴル国内でチャチャルガンは、セレンゲ県ほか、ボルガン県、サブハン県、ゴビアルタイ県、ホブド県、オブス県など主に北西部で多く自生・栽培されています。国内生産量は年によって変動がありますが、2019年で1512トン、果実総収穫量の85%がこのチャチャルガンです。地域別でみると2011年~2019年の国内生産量の65%を北西部地域が占め、そのうち53%がオブス県でした(※4)。

※3:Ruan, Cheng-Jiang; Rumpunen, Kimmo; Nybom, Hilde (2013-06). “Advances in improvement of quality and resistance in a multipurpose crop: sea buckthorn”
※4:Ganzorig Gonchigsumlaa, Stephan von Cramon-Taubadel, Nergui Soninkishig and Andreas Buerkert, Journal of Agriculture and Rural Development in the Tropics and Subtropics Vol. 121 No. 1 (2020) 77–88 | “Competitiveness of sea buckthorn farming in Mongolia: A policy analysis matrix”

昨年ウランバートルから330kmの北西に位置するボルガン県を訪れた際に、チャチャルガンを実際に見る機会を得ました。低木と思いきや、2、3mほどのチャチャルガンが庭全体に何本もあって、たわわに実る濃いオレンジ色がとても鮮やかでした。ちょうど収穫時だったようで、枝には無数のトゲがありますが、訪問先の奥さんをはじめ、皆さん手袋もせず慣れた手つきで実をどんどん収穫していました。

容器一杯のチャチャルガンを、「肌にも身体にもよいので、どうぞ食べてください。」とすすめてくれました。小豆のような形をした実は、ジュース以上に酸味が少々きついですが、なんとも栄養がギュッと凝縮されて後を引く濃い味でした。トゲトゲの枝から手作業で摘み取られたチャチャルガンは、栄養満点でまさに「奇跡の果実」だと痛感しました。

チャチャルガンの収穫や生産能力をあげるべく、モンゴル政府は国連食糧農業機関(FAO)からの協力を得て、収穫時の時間短縮や省力化に取り組み小規模な生産者組合を支援しているそうです。2024年10月31日、11月1日には、政府後援で「アジア地域における園芸とシーバックソーン(チャチャルガン)の市場開発」をテーマに国際会議が開かれるそうです。まだ世界の市場には十分進出できていないモンゴル産チャチャルガンが、今後どう展開していくのか注目したいです。

チャチャルガン商品をお土産にしよう

ゴールデンゴビのチョコレートは種類豊富でチャチャルガン味もあります
ゴールデンゴビのチョコレートは種類豊富でチャチャルガン味もあります

チャチャルガンは、スーパーフードとしてはジュースが一番有名で、濃縮タイプのほか無糖、果糖タイプのドリンクは、現地のスーパーやコンビニで手軽に買えます。実はつい最近、別のアジアの国で、チャチャルガンの濃縮ジュースを飲んだのですが、えぐみと渋みが口に残り飲み干せませんでした。いかにモンゴルで一般に売られているチャチャルガンジュースが飲みやすくておいしいか、再認識しました。

チャチャルガン好きを公言しているうちに、色々なお土産をいただきました。プレーンヨーグルトなどにかけるのにぴったりな、ジュレタイプのソースもおいしかったです。またモンゴルのチョコレートブランド、「ゴールデンゴビ」のチョコレートにも、このチャチャルガン味があります。珍しい味なので、お土産用におすすめです。

パッケージもかわいいチャチャルガン入りのハンドクリーム(左)と石鹸(右)
パッケージもかわいいチャチャルガン入りのハンドクリーム(左)と石鹸(右)

食べ物以外では、石鹸やハンドクリームなど高級品もありますが、同時に手ごろな商品も売っていますので、お土産にも重宝します。

今回は、モンゴルで愛されているスーパーフード、チャチャルガンをご紹介しました。モンゴルに行かれることがありましたら、ぜひチャチャルガンジュースやこれらの商品を試してみてはいかがですか。

トップ画像:iStock

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