竹のガムラン「ジェゴグ」とスウェントラ氏

ジュンブラナ県はバリ島の最西端エリア。その県都であるヌガラは、巨大な竹を使った打楽器「ジェゴグJegog」発祥の地として知られている。ズシンズシンと体の奥まで響く重低音、引いては押し寄せる大きな波のうねりのような音の嵐。太古の記憶を呼び起こすような音色で世界中の人々を魅了し、多くの海外公演を行ってきた。
古来よりバリ島に伝わる竹の伝統楽器ティンクリックをベースに発明されたとされるジェゴグ。しかし巨大な竹を使うジェゴグは武器になるという理由でオランダ統治時代には禁止されてしまう。歴史から消えた幻の音楽に再び命の炎をともしたのは、ヌガラ郊外サンカルアグン村のスウェントラ氏。1948年にこの地で生まれたスウェントラ氏は、芸術大学を卒業してオランダへ演奏旅行に行った際、デン・ハーグの博物館の展示で初めてジェゴグを知り「生まれ故郷の楽器を奏でてみたい」という思いを抱く。帰国後にジェゴグの音を再現すべく、地元の老人から情報を集め、竹を選び、全14台の大小異なる楽器をひと揃い作る。そして村人たちに声をかけて楽団員を集め、スアール・アグンSuar Agung歌舞団を1979年に結成。1980年代から活動を本格化させ、復興を遂げたジェゴグはジュンブラナ県の若者たち、そして徐々に他県にまで広がっていく。現在では伝統音楽の盛んなウブドにまでジェゴグの歌舞団が存在するほどだ。
ジェゴグの魅力はその重低音。最も大きな楽器は直径30cm、長さ3mもの竹筒を使用している。その音は聴覚ではほとんど聞き取れないほど低く、振動として体へと伝わってくる。最重低音から最高音域までは実に5オクターブにもなり、それらの楽器が繰り出すアンサンブルは人間の感覚器すべてを揺さぶるかのようなうねりを生み出す。
ジェゴグ最大の醍醐味はムバルンMebarungと呼ばれる異なるチーム同士での掛け合い。片方のチームの演奏を打ち壊すかのように、もうひとつのチームがまったく異なるリズムとメロディをぶつけてくる。そうやって音の合戦を繰り広げていくのだが、不思議なことに互いの演奏は共鳴し合い、空気を震わせて独特の混沌を作り出す。あまりのすさまじさに、演奏者も観客もトランス状態に陥ってしまう。一度でも本場のムバルンを聴くと、その摩訶不思議な体験を一生忘れられないほどだ。各国の有名ミュージシャンから絶賛され、リピーターも続出し90年代にはバリ中心部からヌガラへ向かう演奏体験ツアーが毎週のように催行されていた。
しかしジェゴグ復興の祖であるスウェントラ氏が2018年に逝去し、現在ヌガラではジェゴグの定期公演が行われていない(スアール・アグン歌舞団はチャーター公演のみ不定期に開催)。スウェントラ氏の情熱でよみがえったジェゴグ。そのともし火がこれからも絶えることなく燃え続けてほしいと心から願う。

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