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蒼い空にエメラルドグリーンの海、そして光り輝く真っ白な崖──。天気に恵まれれば、これら3色のコントラストを思う存分堪能できるイギリスの「セブン・シスターズ(the Seven Sisters)」は、ロンドンから日帰りできる旅先として大人気の観光スポットです。
新型コロナウイルスによるストレス、日々の雑務や生活に追われて参ってしまうことがあるのは、日本でもイギリスでも共通のこと。特に都会の喧騒から離れて、気分をリフレッシュさせたいロンドンっ子が多く目指すという「セブン・シスターズ(the Seven Sisters)」に、筆者もパワーをもらいに行ってきました。2020年8月に旅したレポートをお届けします。
【はじめに】2020年9月15日現在、観光目的の海外渡航は難しい状況です。『地球の歩き方ニュース&レポート』では、昨今の世界情勢をふまえ観光地情報の発信を抑制してきました。しかし、2020年5月31日で「期間限定の電子書籍読み放題サービス」が終了したこともあり「近い将来に旅したい場所」として、世界の現地観光記事の発信を2020年6月以降、再開することにいたしました。
世界各地のまだ行ったことのない、あるいは再び訪れたい旅先の詳しい情報を入手して準備をととのえ、新型コロナウイルス禍収束後は、ぜひ旅にお出かけください。安心して旅に出られる日が一日も早く来ることを、心より願っています。
セブン・シスターズは、イングランド南部のイースト・サセックス州にあるイギリス海峡に面した白い崖の連なりです。シーフォード(Seaford)とイーストボーン(Eastbourne)という町の間に位置しており、一帯はサウス・ダウンズ(South Downs)国立公園内にあります。
岩壁の白さは数100万年もの大昔に水没した際、柔らかな石灰岩が海水で押し流され、側面に付着したためといわれています。石灰岩とはチョーク(chalk)のことで、黒板に使われるチョークの語源でもあります。
別のイングランド南部地方のサリー州では、ブドウ栽培が盛んでワイナリーも点在しますが、これはブドウ作りのカギを握るチョークの地層が多いためです。このことからも、イングランド南部は沿岸部からかなり内陸の方までチョーク層が広がっていそうです。
ちょっぴり皮肉屋で、なんでも独自のあだ名をつけるのに長けているイギリス人は、建物やお菓子など、聞いただけではその呼称になった理由が推しはかれない名前をつけるのが好きです。
セブン・シスターズという名前の由来は諸説ありますが、一般的に浸透しているのは、海水に侵食されて7つの丘になった崖が「歳の違う巨大な姉妹に見えたから」というもので、意外にシンプルです。
それぞれの丘にはきちんと個別の名前がつけられているのですが、単に「短い丘(Short Brow)」「平らな丘(Flat Hill)」など、姉妹にしては色気のかけらもないネーミングのものもあります。「昔の人って想像力がないわね」なんて言っている現代のイギリス人ライターもいて、やはりそこは皮肉屋のイギリス人、健在です。
はじめに述べたとおり、セブン・シスターズの崖はシーフォードとイーストボーンの間にあるので、どちらの方面から攻めてもかまわないのですが、象徴的な7姉妹(セブン・シスターズ)の全貌を表側から拝むのであれば、シーフォード側から向かう必要があります。
シーフォード寄りに「セブン・シスターズ・カントリー・パーク(Seven Sisters Country Park)」というビジター・センターがあります。ここから各方面のトレッキング道路が整備されているということもあり、ロンドンから最寄りの駅まで電車でたどり着いたあとはバスでこちらに向かい、ここを拠点に崖を目指す人も多いようです。
ただし、コースにもよりますが、道がぬかるんでいたり途中で川に阻まれたり、海岸沿いを突っ切って進むつもりが時間によっては満潮で目の前に崖は見えているのに大きく迂回しなければならない、といった状況も想定されます。そのため足元の装備や服装を十分に備える必要があります。実際、観光客のなかには登山靴にリュックサック、トレッキングポールを携帯したグループをいくつも見かけました。
シーフォード寄り、イーストボーン寄りのどちらにしても、崖までの距離は徒歩のみだとかなりのもの。急な坂道はどこにもないとはいえ、人によっては崖にたどり着く前に力尽きてしまう可能性もあります。
そんなときは、市バスや観光バスで崖の近くまで移動することをおすすめします。夏季限定ですが、イーストボーンから出ている「Hop on Hop Off Tour」は、終日乗り放題で2階が屋根なしのオープンバスなので、風に揺られてとても気持ちよさそうでした。これならビーチサンダルにワンピースのリゾートルックでも、ラクラク散歩を楽しめます。
■Hop on Hop Off Tour
https://www.seafordanddistrict.co.uk/bus-times-fares/eastbourne-sightseeing/
そして「バーリンギャップ(Birling Gap)」で下車すると、そこにはもう目的地であるセブン・シスターズの崖が! ゆるやかに伸びる丘をひとつ、お好みでその先ふたつや3つと、自分のペースで歩みを進めることができます。
バーリンギャップには、トイレやカフェ、おみやげショップも併設されているので、ここまで本格トレッキングをしてきた人にとってもちょうどいい休憩地点。いわばサービスエリアのような場所です。
丘は勾配がきつくないので、家族に連れられた赤ちゃんから自分で歩ける幼児、ご高齢の方まで老若男女問わず登れます。途中草っ原の地べたに座って和んでいる人たちをたくさん見かけまた。
バーリンギャップでは、ほんの少し坂を上るだけで別の白い崖を目にすることができます。海、空との対比もすばらしく、すぐに大興奮してさっそく写真をパシャパシャと撮ってしまうのですが、もし崖を背景に自撮りや記念写真を撮りたい場合、慌てないでください。
茶色い石塀があるところはすでに圧巻の景色ですが、その高さだと石塀が写り込んでしまい、臨場感が出ません。もう少し我慢して登ったところにベンチがあるので、そこに腰かけて撮るとまるで絵画のように白い崖が背景となり、とっておきの1枚が撮影できます。
周辺にはカモメが飛び交いこの日は見かけませんでしたが、野生のポニーもいるそう。確かに丘の草地には小さくコロコロで、ウサギのフンのようなものがたくさん落ちていました。
すばらしい景色は海だけではありません。丘の内陸側にはトゲトゲした葉っぱの茂みが広がり(ハーブが自生するそうなので、ひょっとしてローズマリーやタイムといったハーブの低木だったのかもしれません)、さらにその先の道路側は、見渡す限り放牧に埋め尽くされています。
丘の上にいると上空をさえぎるものが何もなく、空をぐっと近くに感じます。青い空を見上げて、あまりの気持ちよさに目を閉じて深呼吸したり、光り輝くエメラルドグリーンの海を眺めてウットリしたりとおおいにリラックスできます。
きれいな景色に夢見心地になっても、足元にだけは十分気をつけください! セブン・シスターズの崖は、柔らかいチョークが積み重なってできたものです。元来もろい性質なので、突然崖の一部がはがれ落ちたりします。端っこはとりわけ危険です。
柵もなにもないことがダイナミックな光景を楽しめるゆえんですが、そのぶん危機管理は徹底しましょう。特に小さい子供連れの方は、絶対に目を離さないようにしてください。
引き続きビーチーヘッド(Beachy Head)の丘を登っていくと、少し先にひとつめの灯台、「The Belle Tout Lighthouse」が見えます。「すべての美しいもの」という名前のこの灯台は、1832年からセブン・シスターズ一帯を見守り続けた歴史ある建物です。
1902年に灯台としての役割を終えたあとは、第二次世界大戦でほぼ全壊。しかし時代とともに住居や喫茶店として生まれ変わり、50年代に入ってから大幅に改築されました。その当時は公共放送局のBBCが所有していたため、数々の撮影がこの灯台で行われ、イギリスのランドマークとして一躍有名になりました。
2008年からは別の個人に所有権が移り、2年間かけてさらなる改装を施された結果、現在はゲストハウスとして利用されています。それぞれテーマごとに名づけられた6部屋のゲストハウスはとてもかわいらしく、ラウンジから360度ぐるっと見渡すイギリス海峡やセブン・シスターズなどの眺望は圧巻です。
敷地内には飲み物やアイスクリームといった食品を出す売店があり、宿泊利用以外でも利用できます。歩き疲れた観光客が喉の渇きを癒やしていました。
■The Belle Tout Lighthouse
・住所: Beachy Head Eastbourne East Sussex BN20 0AE
・URL: https://www.belletout.co.uk/
ゲストハウスの灯台を越えるとゆるやかな下り坂になり、次の丘の前にもうひとつの灯台が見えます。こちらは地名そのままの「the Beachy Head Lighthouse」という、赤と白の縞模様が愛らしい灯台です。「まるで絵本から抜け出たよう」と形容され、イギリス人は子供の頃に読んだ絵本を思い出し、ノスタルジーに浸ってしまうようです。
セブン・シスターズの魅力は、なんといってもあの崖の白さ。イギリスには石灰層の崖がほかにもいくつかあり、特にケント州のドーバー(Dover)海峡に面している白い崖は見た目も似ているのでセブン・シスターズと混同されることがよくあります。
しかし、ほかの地域の白い崖と比べてもセブン・シスターズの崖の白さは際立っています。ほかの崖はさまざまな侵食から守るため過剰に保護されてしまっており、形状は保たれているものの雑多な草などが表面を覆ってしまって白さが損なわれてきているそうです。
一方でセブン・シスターズは、自然の摂理に任せるがままに侵食させているので、年間数十cmは波に削られています。そのため常にフレッシュな白さが保たれるので、あの幻想的な美しさを求めて映画の撮影にやってくるロケーション隊が多いそうです。
実際にこれまで、『ロビンフッド』や英国アカデミー賞などで数々の受賞を果たした『つぐない』(原題:Atonement)、『ハリー・ポッター』などといった映画作品のなかでセブン・シスターズが舞台になるシーンが登場してきました。
丘はまだまだ続き、坂もきつくないのでそのままいくらでも歩けてしまいそうです。この日はひとつの丘でのんびりゆるやかに散策したかったので、キリのよいところで引き返し、今度は崖を下から仰ぎ見るためにバーリンギャップの浜辺に降り立ちました。
セブン・シスターズの海岸は、イギリスのビーチに多い岩浜。岩といっても荒いゴツゴツしたものではなく、河原の小石のように丸くスベスベしています。砂浜と違って足も汚れず、履き物も傷つけないので個人的には好きなタイプです。
裸足で歩けばツボが刺激されて気持ちイイ〜。石は石灰岩なので灰色や真っ白なものがほとんどで珍しいです。見たことのないハート型の石も見つけ、水際で遊ぶよりも先におもしろい石探しをすることに夢中になってしまいました。
はじめは石に足と気が取られ下ばかり向いていましたが、ふと顔を上げてみれば、そこにはいましがた歩いてきた丘の崖がドーン!と、とてつもない迫力でそびえ立っていました。
イギリスの自然といえば、険しい山などなく、平原の多い牧歌的な風景ばかりだと思っていましたが、セブン・シスターズの崖はそれまでのイメージを覆すほどのたくましい雄姿でした。
あまりのギャップになんだかイギリスではない気がしてきて、実際に訪れたことがないので想像だけですが、アメリカのグランドキャニオンやどこか砂漠に突如現れる崖などを思い浮かべてしまいました。
この真っ白な「壁」をバックに撮影すれば写真映え間違いなしですが、なかにはあたかもロック・クライミングをしているかのような構図で、岩によじ登っている姿を写真に収めている男性陣もいました。見ていておもしろかったのですが、チョークの岩はもろいことをお忘れなく。突然上から崖が崩れ落ちてくることもあるそうなので、撮影時もあまり崖に近寄りすぎないよう気をつけてください。
今回はバーリンギャップを拠点に、セブン・シスターズの崖から眺める絶景と、現地の様子を紹介しました。ほかに、セブン・シスターズの全景を写真に収めたい場合は、シーフォード・ヘッド〜カックミア・ヘブン(Chuckmere Haven)のルートがおすすめです。
シーフォード、イーストボーン間もすべて徒歩で移動することが可能なので、体力と時間を考慮して挑戦してみるのもよいかと思います。その際は6〜7時間はかかるので、歩きやすい靴と服装で無理をせず休憩を挟みながら行ってみてください。
■セブン・シスターズ(The Seven Sisters)
・住所: South Downs National Park S Downs Way Eastbourne BN20 イギリス
・アクセス一例: ロンドン・ビクトリア駅(London Victoria)発ブライトン駅(Brighton)下車→12、12Aなどのバスでビジター・センター(Seven Sisters Country Park)へ。12Xが早くておすすめ
・URL: https://sevensisters.org.uk/habitats-and-landscape/the-seven-sisters/
2020年は新型コロナウイルス感染拡大防止対策の影響で、日本から訪れることは難しいかと思いますが、「一生のうちに見ておきたい絶景リスト」に、イギリスのセブン・シスターズをぜひ入れてみてください。
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※当記事の観光情報は、2020年9月15日現在のものです。
〈地球の歩き方編集室よりお願い〉
2020年9月15日現在、外務省はイギリスについて「不要不急の渡航は止めてください(レベル2)」の勧告を出しています。渡航についての最新情報、情報の詳細は下記などを参考に必ず各自でご確認ください。
◎外務省海外安全ホームページ
・URL: https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html
◎厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について
・URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html