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ロンドンの大英博物館にて「現代日本の女性作家、6つのストーリー展」開催中!

パーリーメイ

パーリーメイ

イギリス特派員

更新日
2023年2月9日
公開日
2022年1月12日
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ギリシャ神殿を彷彿とさせる博物館正面の入口

新型コロナの変異株、オミクロンの出現により世界的に警戒を強めている新年ですが、イギリスでは感染対策を万全にしたうえで、各種商業施設などは引き続き営業を続けています。ロンドンの大英博物館では2022年2月13日まで『現代日本の女性作家、6つのストーリー展(Contemporary Women Artists of Japan: Six Stories)』という、日本の現代女性作家の作品を取り上げた展覧会を開催しています。開催への経緯など、本プロジェクトを主導した同館アジア部学芸員、矢野氏からのお話を交じえその魅力に迫ります。

展覧会に込められた想いと概要

大英博物館「朝日新聞ディスプレー」内で開催中の展覧会

1759年に設立され、世界最古の国立博物館である大英博物館(The British Museum)といえば、エジプトのミイラや石碑のロゼッタ・ストーン、イースター島のモアイ像など、はるか昔に発見された展示物の数々を鑑賞できることで有名です。その一方でもともと同博物館には、すぐれた現代アート作品の所蔵もあり、それらの展示、紹介にも注力していることは、あまり知られていません。

2021年12月2日より2022年2月13日まで開催中の『現代日本の女性作家、6つのストーリー展』は、大英博物館所蔵の年代、メディアの異なる6人の日本人女性作家による6作品を展示するものです。展示場所は、正面ゲートを入ってすぐ右手にある小規模特集展示室・ルーム3(朝日新聞ディスプレー)で、各作家がそれぞれの作品に込めた強いメッセージに光を当てることが、目的のひとつとなっています。

また、単に作品を展示するのではなく、日本社会と女性、世界のジェンダー・ギャップ、イクオリティ(不平等)についても考えをめぐらす要素が盛り込まれています。とはいえ、これらのテーマを深く掘り下げることが目的ではなく、訪れた観客が、現在の社会において作品の持つ意義を考え、身の周りや日常生活と関連づけることができるきっかけとなる展覧会を目指しています。

厳選された日本の現代女性作家の作品、6点を展示

展覧会入口から真正面に見える6作家の大型パネル

今回の展示物を選ぶにあたり、矢野氏は同館所蔵の日本人女性作家の作品、すべてを見比べたそうです。以下は本展覧会のために厳選された、6人の作家の作品です。

山本茜氏の截金ガラス作品©YamamotoAkane

①山本 茜:一葉舟(2019年制作)

もともとは、金箔とプラチナ箔を細かく切ったものを仏像などに貼りつける、截金(きりかね)という装飾技法を独自にアレンジし、ガラスに埋め込んだ作品。

平安時代に強い興味を持ち、源氏物語を読むのが毎日の日課だという山本氏は、人間国宝の江里佐代子氏に師事し、2007年に大英博物館を訪れたときに常設展示されていたローマ時代の作品に着想を得て、いまの「截金ガラス」を生み出しました。京都の工房にて、太古と現代を、日本の伝統工芸技術で結びつける手腕は圧巻です。

大連生まれ、書道は父から習った篠田氏

②篠田 桃紅:Well(1970年頃)

2021年2月に107歳で亡くなった篠田氏は、紙に墨で抽象表現を得意とする書家です。ほぼ独学で名声を得た、書家界では異色の存在です。

エッセイストでもあり、1950年代には作品を手に単身渡米し、現地の画廊に持ち込み自ら交渉するなど、行動力も並大抵ではありませんでした。今展覧会では、墨1色のみで濃淡を出し、色合いや線の太さを変化させることにより、作品を生み出しています。

白い余白を大事にしていた篠田氏は、「余白=背景」という考え方はしておらず、過去には「余白は背景ではない。宇宙と繋がっている。墨を置くことによって私たちが存在するという、いわば目印のようなもの」と述べたといわれています。

通称“吉田ファミリー”の一員である吉田氏

③吉田 千鶴子:白い層A(1966)

芸術家、岡本太郎氏の勉強会に参加するなど、アート会に幅広い知己を得た吉田氏は版画家で、夫の穂高氏をはじめ義父、義兄、娘までも版画家という、アーティスト一家で制作をしてきました。

大英博物館は今回の作品以外にも吉田氏の作品を複数所蔵していますが、世界中を旅行して刺激を受けることも多かったという吉田氏の作風はさまざまで、それぞれ動きを感じとり、遊びごころあふれる作品に仕上がっています。

現在展示中の『白い層A』や、そのほかこの時期のエンボスを主体とした作品は、皿洗い中に目にした洗剤の泡からアイデアを得たものだそうで、妻、 母、アーティストとして何役もこなす吉田氏ならではのユニークな視点が、エンボス加工された木版画に現れています。

都会をテーマにすることの多い小林氏

④小林 清子:赤坂見附(1990)

もともと女性を扱った作品が多かった小林氏は、油絵から版画へ、テーマも“人間をもっと大きく捉えたい”と、都会をモチーフにした作品へ方向転換しました。

なかでも東京への思い入れは強く、本展覧会では版画集『東京百景 TOKYO 21世紀へのメッセージ』のなかから、赤坂見附の幹線道路を石版画(リトグラフ)で 描いたものが、展示されています。

被写体のありのままの姿を映し出す写真家の川内氏

⑤川内 倫子:花子(2001)

日本を代表する写真家、木村伊兵衛の名が付く木村伊兵衛写真賞を受賞した経験もある川内氏の作品に、京都に暮らす「花子」さんと、その家族の日常を淡々と撮り下ろした写真集があります。

同名のドキュメンタリー映画を記念して撮られたのが、今展覧会で披露されている作品です。ページごとに風景と人物を見開きセットで並べる独自のスタイルになっています。川内氏は撮影時、特に光と空気の織り成す雰囲気にこだわり、客観性の維持と全体的に明るく仕上がるよう、気をつけているそうです。

英語版で撮影を担当した写真家、細江英公氏による古田氏の写真

⑥古田 幸:おかあさんのばか(1965)

小学5年生のときに母を亡くした古田氏は、以降日常生活の愚痴などを母に報告するという形で、詩を書きつづり始めます。その詩が1964年、新聞に掲載されると大きな反響を呼び、写真詩集が出版されました。

あまり表情が見られない写真とは対照的に、詩からは素直な気持ちがあふれ出ており、今展覧会では英語版が紹介されています。

日本における“わきまえる”文化に着目

“wakimaeru”と日本語をそのまま使用した展示パネル

今回、日本人女性の作家に特化した展覧会が催されることになったきっかけのひとつが、2021年に有力政治家が発した女性蔑視と取れる発言からでした。

その際に使用された“わきまえる”という言葉は日本国内はもとより、海外メディアからも多くの批判を受けました。

SNSなどのネット上では「わきまえない女」という言葉が登場するなど話題となり、大英博物館においてもこの言葉が注目されました。わきまえるという言葉は、もちろん女性のみに対して用いられる言葉ではありませんが、長い歴史のなかで女性が制約されることが多かった日本で、女性作家が世間に認められるにはどのような苦難があったのか。

普段はなかなか注目されないような事象に目を向けることにより、ひとびとの視野を広げ、女性の社会的地位の向上を目指そうと、今展覧会では“わきまえるの拘束力”という点にも注目しています。日本社会におけるわきまえるという概念が、女性に与える影響について来場者に認知され、これらの作品を通して社会と自分の道を選び取って歩むことにも想いを馳せてもらうことが、展覧会開催の趣旨のひとつだそうです。

甲冑の展示が大人気の三菱商事日本ギャラリー

大英博物館では2021年末の時点でおよそ4500名の日本の男性作家による作品が所蔵されていますが、日本の女性作家は、たったの140名です。そのため同館では、今後も意識的に女性作家の作品を集めたい方針なのだそう。本展覧会は少しでも女性作家による作品に光をあて、世間の関心を引きつける良いきっかけとなるでしょう。

そのほかの女性作家の作品は、最上階(Upper floor, Level5)にある三菱商事日本ギャラリー(Mitsubishi Corporation Japanese Galleries, Rooms 92-94)にも常設展示されていますので、『現代日本の女性作家、6つのストーリー』展(Ground floor The Asahi Shimbun Displays Room3)を見たあと、あるいはコロナ収束後にイギリスを旅行される際には、ぜひ鑑賞してみてください。

※山本茜:一葉舟(2019年制作)を除く当記事中の写真は、すべて筆者による撮影で、大英博物館より掲載許可を得ています。

◼️The British Museum
・住所: Great Russell Street, London, WC1B 3DG
・最寄駅: 地下鉄Tottenham Court Road駅、Holborn駅、Russell Square駅、Goodge Street駅から徒歩5〜8分
・開催期間: 2022年2月13日まで
・開館時間: 毎日10:00〜17:00
・入館料: 無料
・URL: https://www.britishmuseum.org/exhibitions/contemporary-women-artists-japan-six-stories

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