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毎年春になると恒例のチョコレート祭、「The Óbidos International Chocolate Festival」で盛り上がる、ポルトガルの小さな村「オビドス(Óbidos)」。カラフルな町並みやオレンジ屋根の家々が美しく、別名“結婚祝いに贈られた町(The Wedding Present Town)”としても知られています。
首都のリスボンから長距離バスで1時間とアクセスがよく、半日観光に最適な中世の香り漂う城塞都市、オビドスの魅力をたっぷりお伝えします。
ラテン語で“城壁市街”を意味するoppidumに由来するオビドスは、1149年に初代ポルトガル国王、アフォンソ・エンリケスが制圧するまで複数の国に支配されました。
その後は安定してポルトガルの国王に統治が引き継がれ、“農民王”の呼び名を持つ6代目国王、ディニス1世が1282年に新婚旅行でオビドスを訪れると、町の美しさに魅了されたイザベル王妃に、結婚の贈り物として同地を捧げました。
以降1834年まで“王妃の村”として歴代のポルトガル王妃に管轄されたオビドスですが、1951年には城と村全体が国定記念物に分類され、2007年には「ポルトガルの7不思議」に選出、2015年からは文学分野における「ユネスコ創造都市」になるなど、近年は訪問者の絶えない、ポルトガル有数の観光地となりました。
首都リスボンから80kmほど北上した場所にあるオビドスには、公共交通機関を使う場合、運行本数、所要時間、駅からの距離を考慮すると、電車よりも長距離バスで向かうのが現実的です。
以下は筆者が2023年2月に利用したバスでの行き方ですが、過去にはターミナルの分離や乗り場の移動など、たび重なる変更があったようなので、出発前には最新の情報を確認することをおすすめします。
地下鉄メトロのカンポ・グランデ(Campo Grande)駅に着いたら「Alameda das Linhas de Torres」という標識に沿って、スタジアム(The Alvalade XXI/Sporting Lisbon stadium)側の出口から外に出ます。
少し歩くとさほど大きくないバスターミナル(Interface Campo Grande)が現れるので、Rodoviária do Oeste社が運行するCaldas da Rainha行きのバス(30または31番)に、ターミナル2から乗ります。
平日は朝7時から1時間ごと(除く10時)に出発し、午後の混雑時には15分ごとの時間帯もありますが、週末と祝祭日には本数が激減します。
乗車券は運転手から現金で直接購入します。運賃も年々上がり、利用時は片道大人€8.5、子供€4.25でした。到着まできっかり1時間、あるいは少し超える程度ですが、途中Bombarralという町にだけ停車するので、降りないよう注意しましょう。ふたつめの停留所、オビドスには時刻表の掲示があるので、帰りの出発時間を確認しておくと安心です。
城壁に囲まれた村には、小ぶりな門をくぐって入ります。近づくにつれボサ・ノヴァの名曲、『イパネマの娘』がギターの音色に乗って流れてき、早くも旅情をかきたてられました。
バス停から近いこの南門には、ポルトガルの伝統タイルであるアズレージョの装飾が見事な礼拝堂、「ポルタ・ダ・ヴィラ(Porta da Vila)」があります。鮮やかで豪華爛漫な表現が特徴のバロック様式なだけあり、青と白で統一された壁面から、天井部にまで施された大胆な模様がとても華やかです。
門を抜けると左側に、城壁を登るための階段が現れます。迷わず上がってみたものの、壁には柵などなにもなく、強めの風と道幅の狭さにじきに子供が泣き始めました。
上部から一望すると前方にオビドス城が控え、眼下には教会の尖塔や緑の木々、オレンジの瓦屋根が広がり、この町が本当にぐるりと1周した城壁に囲まれていることがわかります。
せっかくの景色を堪能したいところですが、あまりにも怖いので写真撮影は手早く済ませ、壁にしがみつくような状態で城の方に向かって歩くことに集中しました。はじめ、すれ違った年配女性がにこりともしないでひたすら私たちが通り過ぎるのをじっと待ち、顔面蒼白だったこともこれで合点がいきました。
もともとローマ人によって占拠されていたオビドス城は、1148年を境にポルトガル国王たちによる修復と再建を経て、現在のムーア様式になります。
国王が寝起きしていたメイン部分の建物は1375年に建てられ、軍事的な機能に加えて宮殿の役割も担っていました。
こちらは現在、「ポウサーダ・カステロ・デ・オビドス(Pousada Castelo de Obidos)」という名のホテルとして、一般開放されています。ポウサーダとは、ポルトガル語で宿舎や旅館を意味しますが、いまでは豪華な宿泊施設に改装された、歴史的な建物の商標としても使われています。
城からちょうど坂を下るように真っ直ぐ進むと、出入り口の南門に戻ります。両脇を雑貨屋や飲食店に挟まれた石畳の小径は、メインストリートのディレイタ通りです。
16世紀に拡張され、カタリナ王妃の命によって完成したサンタ・マリア広場には、村のシンボルともいえる教会(Igreja Matriz de Santa Maria)や国定記念物となった刑罰用のさらし台、博物館、刑務所つきの役場など、中世当時の生活がおぼろげながらも思い浮かぶような施設が残されています。
歴史的建造物で過去を振り返ったあとは、一大観光地と化した現代のにぎやかなオビドス散策を楽しみましょう。
ポルトガルには、カラフルな建物が集まった町がほかにもありますが、オビドスのそれは白壁に対して、底部分とサイドのみを縁取るように彩色されている点に特徴があります。
メインのディレイタ通りだけでなく、人通りが少なくひっそりした路地裏にも、色鮮やかな家屋や宿泊施設が並びます。古木が壁に張り付く様など、写真に収めたくなる光景が次から次へと現れ、シャッターを押す手が止まりません。
石畳にまで出された数々の土産物屋にも目移りしますが、伝統タイルのアズレージョ柄のグッズを購入すべく、とりわけオシャレな店構えの「ロハ・ドス・アルコス(Loja dos Arcos)」に入りました。
食器類から小物入れ、鍋敷きにワイン栓、紅茶の缶にいたるまでありとあらゆるものが念願どおりタイル柄です! 同店以外でも、お気に入りのオビドス土産が見つかること請け合いです。
「ジンジャを飲まずして、オビドスを去れない!」という強い信念のもと、ポルトガルの特産品であるさくらんぼ酒、ジンジャ(Ginja)ことジンジーニャ(Ginginha)を立ち飲みできる店を探しました。
ポルトガルのオビドスともうひとつ、アルコバサという町で作られるものには一定の品質基準が設けられ、伝統的手法に則ることを求められます。それゆえシャンパンのように、地理的表示保護制度(PGI)を受けられ、他地域産とは一線を画すのです。
外国で店員に自ら声をかけるのは緊張することもあるので、気後れせず指差しなどで気軽に買えるよう、ワゴンがすでに表に出ている「チョコラテリア・プラザー・エ・ヴィシオ(Chocolateria Prazer e Vício)」を選びました。
小さなチョコレートカップにあふれるほど注いでもらったのですが、それを持てば当然こぼれてしまう……と、たじろいている間にも店員さんは「飲んで飲んで、口つけてそのまま飲んで」と言っている? ようだったので、まさかのワゴンに置かれたものをすするという、かわいい町にそぐわない不格好さになりました。
予想どおりの甘さに甘いチョコレートで、口のなかが“ダブル・スイート”な状態のまま、店内にも案内してもらいます。
店名が示すとおり、チョコラテリア・プラザー・エ・ヴィシオはチョコレート店なようで、ショーケースには宝石のように鎮座した色とりどりのひと口チョコが、陳列棚にはジンジャの瓶はもちろん、チョコレートカップ、ショットグラス、ジャムなどが並んでいました。
オビドスでは、ほかの似たような店でも、たいてい1杯€1でジンジャを試飲できるので、観光客にとっても手軽でありがたいです。
リスボンに滞在の際は、チョコレートとジンジャの香りが漂う、甘くてカラフルな中世の面影を残す“ポルトガル王妃の村”、オビドスまで足を伸ばしてみてはいかがでしょう。
これから夏には中世フェア、読書の秋には文芸フェス、12月にはクリスマス村となるなど、1年をとおしてイベントも盛りだくさんです。ポルトガル第2の都市、ポルトへ向かう途中の立ち寄り先としても人気があります。