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【台湾編】地政学リスクの視点から海外渡航、海外危機管理を考える

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アフターコロナに入りつつある今日、今後日本人を含み世界の人々の海外渡航が再び活発化すると思います。海外に旅行に行く人もいれば、海外に出張する人、また仕事の関係で海外に駐在する人もいらっしゃるでしょう。海外渡航は楽しいことも多いですが、実際には多くのリスクもあります。一般犯罪だけでなく、テロや抗議デモ、暴動、戦争など多くの地政学リスクもあり、海外渡航では事前にリスクを認識しすることが重要です。ここでは地政学リスクを専門にする筆者が、今日世界で大きく取り上げられる問題を中心に解説し、各自で取れる危機管理対策などを紹介します。

台湾有事による日本企業への影響

2022年夏、当時の米国ナンバー3といわれるペロシ米下院議長が台湾を訪問したことがきっかけで、中国による大規模な軍事演習が行われ、韓国の航空会社などは一時台湾を結ぶ国際線のフライトを停止するなど、一般旅客にも影響がでました。中国と台湾を巡る問題は周辺の空域、海域に大きな影響を与えています。緊張状態は続いており、今後の動向が懸念されています。最近では、2023年1月には就任したマッカーシー米下院議長と台湾の蔡英文総統が4月にもカリフォルニアで会談する計画がメディアで報じられ、中国はこれに強く反発しています。仮に会談が実現すれば昨年夏のように台湾を巡る緊張が高まる恐れがあり、台湾に進出する日本企業は今後の動向を注視する必要があります。

では、仮に有事となれば、日本企業にどのような影響が出るのでしょうか。どのような影響を受けるかは企業によって異なるでしょうが、ここでは大きく3つ紹介したいと思います。

駐在員が退避できなくなるリスク

ひとつ目に、有事になれば台湾に駐在する社員の退避は事実上できなくなります。冒頭で述べたように、軍事的な緊張が高まれば、台湾を結ぶ民間航空機はすぐにストップすることになります。しかし、台湾は海に囲まれており、ウクライナのように隣国に退避することはできません。要は、台湾からの退避で唯一の安全な手段が民間航空機になるわけです。緊張が高まる今日、駐在員が退避できなくなるリスクを懸念し、台湾ビジネスを見直す企業、平時のときから駐在員を退避させることを検討する企業なども少なからず見られます。有事になれば、まず企業は駐在員の安全、退避という問題に直面することになりますので、食糧の備蓄や防空壕の発見・確保など危機管理的な対処を迫られることになります。

モノの動きがストップする

ふたつ目に、有事になれば台湾に半導体や部品など貿易面で依存する企業は大きな問題に直面することになります。台湾との輸出入は軍事衝突が始まればストップし、モノの行き来ができなくなります。部品が届かないので自動車を作れない、台湾産パイナップルが届かないから自慢の酢豚をメニューから外すしかないなど、経営的、営業面から企業に損害が出る可能性が高いです。台湾とのモノの動きにも注意が必要です。

日本近海の海路や空路に影響を与える

最後に、台湾有事が空路や海路に与える影響です。有事になれば、中国軍はまず台湾周辺の制空権と制海権の確保に出てきます。ここでの制空権とは、台湾周辺の空を中国軍機が支配し、制海権とは中国海軍が台湾周辺の海を支配下に置くことを意味します。これは日本の輸送や貿易に大きな影響を与えることになります。実は、ASEANや中東、欧州やアフリから日本へ向かう民間商船の多くは、台湾南部や東部の海域を通り、横浜港や神戸港などに到着します。しかし、中国軍が制海権を握ることになれば、日本へ向かう民間商船の安全な、安定的な航行を阻害する可能性があります。たとえば、中東から日本へ向かう石油タンカーの航行が阻害されれば、長期的にはガソリン価格の上昇に繋がるでしょう。また、制空権が握られると、日本からASEANなどに向かう航空機が台湾周辺空域を通過できなくなる恐れがあり、迂回路を通過することで費用と時間が無駄に掛かることになります。

少なくとも、台湾有事では上述の3つの影響が想定されます。今日、米国も中国も台湾問題では互いにけん制し合い、妥協する姿勢を示していません。企業としても軍事的な動向がどのように経済的側面に影響を与えるかを観ていく必要があります。

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