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ニューヨークはアートの街。アートは、美術館や劇場にだけ存在するわけではありません。ニューヨークには街のあちこちにアートがあり、身近な存在として受け入れられています。筆者が特に好きなのは、地下鉄駅構内のアートです。常設展示の壁画、ポスター、写真インスタレーション、デジタルアート、ライブ音楽パフォーマンス、詩のプログラムなど多岐に渡ります。作者はメトロポリタン美術館、ホイットニー美術館、ニューヨーク近代美術館、ブルックリン美術館などで展示されている大物であることもあり、「さすがアートの街だ」と実感します。このアートを見るには地下鉄の乗車券だけあればOK。気軽に楽しめる個性的なアートの数々をご紹介します。地下鉄駅を通過点として通り過ぎるだけでなく、ぜひ足を止めて楽しんでみてください。
目次
N,Q,R,W,S,1,2,3,7,A,C,E線が乗り入れ、ニューヨーク市最多の年間2950万7558人(※)が乗り降りするタイムズスクエア42丁目(Times Sq-42 St)駅。12路線がアクセスする巨大駅では、有名アーティストによる、多くのアートを見ることができます。
ロイ・リキテンスタインによる「タイムズスクエア壁画」(2002年)。黄色の未来型地下鉄車両が走り抜ける様子は、ダイナミックなエネルギーを感じますね。ロイ・リキテンスタインはニューヨーク出身で、黄・赤・青の原色に力強い輪郭線が印象的なポップアート作家です。
ニューヨークのシンボルカラーである黄色が使われたアートは華やかで、賑やかなタイムズスクエア駅によく似合います。
ギリシャ神話における、冥界の女王ペルセポネをテーマとした「春の復活/冬の始まり」(2001年/2005年)。冥界の王ハデスに連れ去られたペルセポネは、冥界のザクロの実を4粒食べたことにより、4ヵ月は冥界(地下)で妻として過ごさなければならなくなりました。ペルセポネが冥界へ下ることにより荒れ果てた大地は、彼女が地上へ戻ると、再び草木が芽吹き、大地が蘇りました。ペルセポネにより移り変わる四季が生まれたといわれ、「春の女神」とも呼ばれるそうです。このアートでは、ピンクのトップスに緑のスカートを履いた女性が、ペルセポネだと思われます。
もしかすると、作者のジャック・ビールは通勤で地下鉄を使うニューヨーカーと、冥界(地下)に閉じ込められたペルセポネの境遇をかけているのかもしれませんね。
また、駅構内で演奏しているミュージシャンやパフォーマーは、地下鉄の運営会社(MTA)のプログラム”MTA Arts&Design”のオーディションによって選ばれ、指定された場所でパフォーマンスを行っています。パフォーマンスを見たい方は、以下のサイトで確認してみてください。
参照:MTA MUSIC
タイムズスクエアといえば、大晦日のカウントダウンが有名。ボールドロップを見に集まる群衆を描いた「新年を祝う人たち」(2008年)。約70もの等身大の人物が肩を組み、抱き合い、キスをし、新年を祝っています。その生き生きとした様子は、見る人皆を大晦日のタイムズスクエアへ誘うかのようです。
作者のジェーン・ディクソンは、1970年代後半〜1980年代前半にタイムズスクエア近くの8番街43丁目のアパートに住み、タイムズスクエアの風景や人々の様子を写真に撮り、絵を描いてきました。タイムズスクエアをよく知るアーティストだからこそ、リアルな様子を描けたのでしょう。
2023年1月25日にオープンした、ロングアイランド鉄道(LIRR)の新ターミナルグランドセントラル・マディソン駅。この新路線はJFK空港からエアートレインで繋ぐジャマイカ駅との間を走り、通勤者のみならず旅行者にとっても便利。JFK空港からマンハッタンへのアクセスがぐっと向上しました。
2023年1月オープンしたグランドセントラル・マディソン駅の通路を飾る壁画は、国際的に有名な日本人アーティスト、草間彌生氏の「愛のメッセージ、私の心から宇宙へ」(2022年)。
同氏は作品について、下記のメッセージを残しています。
「こちらは、草間彌生です。
愛のメッセージ、私の心から宇宙へ。
皆さんが人を愛することの真の美しさを経験しますように。
人間の命は美しい。
私の願いは、このビジョンと私の人生すべてを、ニューヨークの人々に届けることです。」
シェイクシャック1号店があるマディソン・スクエア・パークに隣接する、R、W ライン23丁目駅。
駅の近くには、観光名所の三角形の平べったいビル「フラットアイアン・ビル」や、子供に人気の「ハリー・ポッター・ニューヨーク」があり、旅行客に人気のエリアです。
最後にご紹介するのは、筆者のいちばんお気に入りのアートです。R、W ライン23丁目駅のホームの壁には、120もの帽子が描かれています。
1880年代から1920年代にかけて、23丁目は主要なエンターテイメントおよび文化地区であり、「レディースマイル」と呼ばれる中流階級の女性のためのショッピングエリアでした。 高級店のティファニーやバーグドルフ・グッドマン、デパートのメイシーズなどは当初このエリアにあり、ファッション発信地だったのでしょう。当時社交界に出る若い女性の外出には、付き添いの女性が必要でしたが、レディースマイルなら女性ひとりでも外出できる最初の場所でもあったそうです。
作者のキース・ゴダードは、当時のセレブリティであったエレノア・ルーズベルト(大統領夫人)、ガートルード・ヴァンダービルト・ホイットニー(彫刻家で鉄道王の財閥ヴァンダービルト家の一員)、マリー・キュリー(放射能の研究で2度のノーベル賞を受賞した研究者)、ジム・ブレイディ(ダイヤモンドを好んだ実業家)、オスカー・ワイルド(作家)、サラ・バーンハート(女優)、マーク・トウェイン(作家)、リリアン・ラッセル(女優)が実際に愛用した帽子を描き、帽子の高さはそれぞれ所有者の背の高さに合わせたそうです。文化的でファッショナブルだったエリアを、おしゃれの決め手である帽子で表現したのですね。
ここを訪れたら、お気に入りの帽子を見つけてかぶってみてはいかがでしょうか? その姿を写真に撮れば、ニューヨーク旅行のいい思い出になりますよ。
場所 | 作品 | 作品についてひと言 | URL |
34丁目へラルドスクエア駅ホーム | 触れると音が出るオブジェ | 電車待ち時間も退屈しません。 | https://new.mta.info/agency/arts-design/collection/reach-new-york |
42丁目駅タイムズスクエアとポートオーソリティ駅の乗換通路上方 | 「通勤者の嘆き」(詩) | 通路上方のパネルに書かれた詩は視線を上げないと読めないので注意。 | https://new.mta.info/agency/arts-design/collection/commuters-lament |
プリンスストリート駅ホーム | 「キャリーオン」 | バックパックや書類鞄、楽器、カート、ベビーカーなど何かを「運び続ける」ニューヨーカーの様子が描かれている。 | https://new.mta.info/agency/arts-design/collection/carrying-on |
今回ご紹介した地下鉄アートはごく一部。マンハッタン、ブルックリン、クイーンズほかニューヨーク市5区の各駅で370以上もの地下鉄アートを見ることができます。ニューヨーク旅行では、わざわざ美術館や博物館へ行かなくても、地下鉄駅構内でアートが堪能できますよ。
まだまだご紹介したいアートがあるので、機会があればぜひ続編を書きたいと思います。
身近でアートを楽しめる街ニューヨークに、ぜひいらしてくださいね。ニューヨークで、お待ちしています!
TEXT:ニューヨーク特派員 青山 沙羅
PHOTO:Hideyuki Tatebayashi
*Do not use images without permission.
監修:地球の歩き方
掲載情報は2024年1月時点の情報です。