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絵巻物というものは、日本や中国にしかないと思いがちだが、バイユーにはそれに似たものがある。ノルマンディー公ウィリアム征服王のイングランド征服を描いたバイユーのタピストリー Tapisserie de Bayeuxである。幅50cm、長さ70mもある布に刺繍を施したもので、その表現はとても迫力がある。美術館の一室に展示されたこの作品は、観る人が歩くに従って物語は進行し、いつのまにか自分自身が戦闘の場面へと引き込まれているのに気づく。しかし、単に時間の流れに沿って物語が語られるのではない。例えば、エドワード王の死の場面が彼の葬式よりもあとに描かれているのは、そのほうが構図としておもしろいという美的な観点によるものらしい。大胆な表現とこまやかな配慮とが見事に溶け合った傑作である。
バイユーのタピストリーが展示されている美術館へは、駅から歩いて10分ほど。近くにはノルマンゴシックを代表する、ノートルダム大聖堂 Cathédrale Notre-Dameがある。バイユーは第2次世界大戦末期のノルマンディー上陸作戦の後、いち早く解放されたため、ほかの町に比べ戦闘による被害が少なかった。14〜18世紀の建物が残る町をのんびり散策してみたい。
カンからTERで15〜20分。
ユネスコの「世界の記憶Memory of The World」は、歴史的文書など貴重な資料の保存を目指して1997年に発足。2007年には、バイユーのタピストリーが登録された。2023年現在、フランスからの登録は『人権宣言』など13点。
ノルマンディー上陸作戦の海岸に近いバイユーには、77日間の戦闘の様子を伝える記念館がある。