都心から日帰りで楽しむ 究極の御神木めぐり Vol.3 伊東編

公開日 : 2022年12月26日
最終更新 :

地球の歩き方旅の図鑑シリーズ『日本の凄い神木』の発刊記念で、本書掲載の「神木女子座談会」にご登場いただいたお三方と、著者・本田不二雄がアテンドする「究極の神木日帰り旅」を催行しました。最終回。伊東の物凄いヌシとの感動の出会いが待ち受けていました——。(文・写真/本田 不二雄)

すべてを受け入れてくれる大クスの包容力

熱海からさらに南下。異能女子3人とゆく日帰り神木巡礼旅は、伊東市へと向かいます。
伊東といえば、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では新垣結衣演じる八重姫の実家・伊東氏の拠点だったエリアです。そんななか、道中「11月10日、天下の奇祭・尻つみ祭り 音無神社」の看板を見かけ、クルマの中で話題騒然となる3人。「何それ?」で盛り上がりましたが、調べたところ、祭りの由来は、源頼朝と八重姫が音無神社で逢瀬を楽しんだことにあったといい、それがなぜか今は尻相撲で盛り上がる祭りになっているとのことです。

●15:45 伊東・葛見神社着
その音無神社から南東500メートルほど。目的地である葛見神社の鬱蒼とした森が見えてきました。そして境内に入るとほどなく、その存在に気づき、それぞれの口から言葉にならない声が出てきます。
 国指定天然記念物・葛見神社の大クス。推定樹齢1000年、幹周り15メートル。來宮神社の「大楠」よりひと回り小さいものの、その怪異な容貌と存在感はまったく見劣りしません。以下、拙著から引いておきます。
「地面からボコボコと泡を立てながら噴出してきたような、全身コブまみれの木の塊。写真の正面中央には、縦に割いてこじ開けたようなウロが見え、クスノキの老樹の多くがそうであるように、主幹には大きな空洞がある。ウロの前の小祠は、この木が人々の祈りを受け止めてきたことを意味しており、一説には疱瘡神社と疱瘡稲荷の合社という。このアバタまみれの樹相は、疱瘡神(疫病神)の依り代、代受苦(病苦を代わって受ける)の証と考えられたのかもしれない」(『日本の凄い神木』136ページ)

①大クスのウロの前には、疱瘡神を祀るお社が ②大クス(奥)の手前には意味ありげな大岩もあり ③伊東の鎮守・葛見神社の社殿。向かって左奥に大クスが聳える ④大クスに感動する女子たち。右からまり氏、きりん氏、みきえ氏。
①大クスのウロの前には、疱瘡神を祀るお社が ②大クス(奥)の手前には意味ありげな大岩もあり ③伊東の鎮守・葛見神社の社殿。向かって左奥に大クスが聳える ④大クスに感動する女子たち。右からまり氏、きりん氏、みきえ氏。

「あちこち顔があるみたいに見えておもしろい!」(まり氏)
「グロテスクかもだけど、怖くない。むしろかっこいい!」(きりん氏)
こんな”ものすごい生き物”を前にすると、驚きが先立って気の利いた言葉が出てきませんが、來宮神社では御神木と人とのかかわりについて思うことがあったという建築士・みきえ氏も、テンションが爆上がりだったようです。あとでこんな感想を漏らしました。
「何というか、責任感を感じました。背中で背負っているぞという……」(みきえ氏)
独特の感性ですが、逆にいえば、この木はこちらの思いや祈りを受け止めてくれているということかもしれません。これを受けて、きりん氏は言います。
「夕方に近い時間だったこともあって、『おかえり』と迎えられた感じ。私の印象だと、原初(はじまりの時代)にさかのぼる祖霊さんに出会ったような、親との縁が失われた人にとっては、生まれてきてよかったと思えるような(感覚)。存在を丸ごと受け止めてくれるような受容感がありました」
「みんなここでアガったよね」と、まり氏が帰路の会話をまとめましたが(笑)、想像を絶する樹齢を重ねて怪物のような容貌を呈するにいたった木は、われわれの心の深いものを揺さぶる力があるようです。
実のところ、筆者ホンダはこの木に出会ったとき、日本神話で語られる黄泉国のイザナギ命を連想しました。つまり、死者の国ですさまじい形相に変り果てたという女神のお姿です。
なぜそう思ったかを白状すれば、お社が置かれたウロが女陰を連想させるものだったから。いわば、究極の母性。地母神のような存在と出会った気がしたのです。それはイコール、きりん氏のいう「祖霊」とも重なります。

伊東庄1000年の歴史を見てきた御神木

ともあれ、長い歳月を経ていろんな辛酸を味わい、傷みを背負って、今も人々の思いに応えてそこにある有難さ。そんな感動を与えてくれるのが「葛見神社の大クス」でした。
ちなみに、神社の主祭神は「葛見神」で、「クズミ(クスミ)」とは東伊豆の古くからの地名とのこと。平安時代前期の公文書(「延喜式」神名帳)に「久豆弥神社」と記されたのが当社といわれています。
なお、この土地を開拓したのが平安時代末の工藤氏(のちの伊東氏)で、平家方についた伊東祐親は、源頼朝と対立して敗れます。葛見神社はその伊東氏の祈願所で、近くには伊東館跡や伊東祐親の墓のほか、伊東氏の菩提寺(東林寺)もあり、その境内には仇討ちで知られる曽我兄弟の墓もあります。ちなみに、先の八重姫(祐親の娘)は頼朝と結ばれながらも引き裂かれ、その子を殺害される悲劇のヒロインとして語り継がれてきました。
樹齢1000年と伝わる大クスは、それら伊東庄をめぐる歴史の唯一の生き証人ともいうべき存在です(大河ドラマ「鎌倉殿の13人」きっかけで知った情報でしたが)。
観光名所化されておらず、昔のたたずまいを残してひっそりと生き残っているこんな御神木の味わい深さをぜひ体験していただきたい。ホンダはそう思うのです。

①ホンダが魅了された幡宮来宮神社の神域(昼間の撮影) ②スマホライトを頼りに暗い境内をお社に向かう ③ほのかな明かりに照らされたスギの御神木 ④八幡宮来宮神社への道しるべ「高見のシイ」。物凄い樹相
①ホンダが魅了された幡宮来宮神社の神域(昼間の撮影) ②スマホライトを頼りに暗い境内をお社に向かう ③ほのかな明かりに照らされたスギの御神木 ④八幡宮来宮神社への道しるべ「高見のシイ」。物凄い樹相

神秘的な神域へ夜参りを決行!

さて、すっかり夕刻になってしまいました。もう1か所行きたい場所があったのですが、行けば確実に日が暮れてしまいます。それでも、テンションが上がった一行はその神社に向かうのです。
●16:45 八幡宮来宮神社着
伊東市の南、JR伊東線「伊豆高原駅」から車で6分の場所にある、八幡宮来宮神社。こちらはホンダ初参拝の神社で、案内するというより、自分が行きたかったスポット。というのも、ネットで見た境内写真があまりに魅力的だったのです。
ふつう丘の上にある神社の場合、参詣者の数に見合った石段がつづいているものですが、こちらは斜面の横幅いっぱいに石段が配され、それが社殿とそれに寄り添う御神木に集約されている–––そんな、見たことのない境内レイアウトなのです。
とはいえ、昼なお暗いといわれる鬱蒼とした境内は、スマホのライトではまことに心許なく、神秘的というより恐ろしいが先立ちます。ようやく社殿前にたどり着くと、拝殿脇の大スギがほのかな明かりに照らされ、真っ直ぐに暗闇を貫いていました。さなから、カミがそこに立ちあらわれたかのような光景です。
「いやあ、これは……」
「何かスゴい」
「でも、やっぱり真っ暗じゃないときに来ないと」
「そりゃそうだ」
 お参りを済ませた一行は、それでも社殿奥の山に分け入ろうとするきりん氏の後ろ髪を引っ張りながら境内を下りました。まだまだ東伊豆のディープスポットはあるのですが、ここは日没サスペンデット。
帰路、八幡宮来宮神社という不思議な社名に秘められた来歴や、あの境内レイアウトの謎などを語りつつ、また日が長くなったら、さらなる伊豆のディープな神木スポットを詣でなければなるまいと誓い合い、今日一日の余韻を楽しみながら東京に帰還しました。
 皆さまお疲れさまでした。ではまた次の機会(あるのか?)にお会いしましょう。(完)

『日本の凄い神木』発売中

筆者

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