【オーストリア、魅惑の5都市】世界のデジタルアートを牽引する、リンツ

公開日 : 2022年12月28日
最終更新 :

ウィーン、グラーツに次いでオーストリア第3の都市、リンツ。ドナウ湖畔の美しい街並みは、モーツァルトやアントン・ブルックナーといった音楽家をも魅了しました。またリンツはデジタルアートの最先端都市。毎年9月に開催されるアルス・エレクトロニカ・フェスティバルは、世界最大級のメディアアートイベントです。

「未来の美術館」、アルス・エレクトニカ・センター


船のかたちをした外観。夜になると何色にも色を変えてライトアップされる
©︎オーストリア政府観光局 / Volker Preusser
船のかたちをした外観。夜になると何色にも色を変えてライトアップされる

英語で「Museum of the Future(未来の美術館)」と称されるアルス・エレクトニカ・センター。建物ができたのは今から四半世紀以上前の1996年。アートと最先端テクノロジー(具体的には8K映像やAR、人工知能、機械学習など)を掛け合わせた展示が並び、一般的な美術館とは一線を画す存在です。

例えばDeep Space 8Kと呼ばれるシアターでは、プロジェクションマッピングさながら、精細な3D映像を投射。巨大な人体模型や水中世界、太陽系など迫力満点の映像が間近に迫り、これまで体験したことのない没入感、臨場感を味わうことができます。ここで見る8K映像の世界は、これまでの映像体験とはまったく別次元のもの。Deep Space 8Kを通じて、テクノロジーが社会にどのような変化をもたらせるか、体験したすべての人がリアルに体感できる仕組みになっています。

またGlobal Shiftと呼ばれるエリアでは、地球温暖化やゴミ問題といった社会の課題について、アートとテクノロジーをかけ合わせて展示。文字情報だけでなく映像や音楽を駆使することで、難しく考えるのではなく直感的に課題に向き合い、一緒に考える機会を提供してくれています。

アルス・エレクトロニカ・センターでは一貫して、アートやテクノロジーが社会に対して、つまりは一般市民に対してどう作用するかをテーマに展示を行なっています。創設以来、常に未来ついて考えるきっかけを提供し続けているアルス・エレクトロニカ・センター。それはまさに「未来の美術館」と呼ぶにふさわしいものです。


壁と床面に16m x 9mの8K映像を投射できるDeep Space 8K
©︎Linz Tourismus / Robert Josipovic
壁と床面に16m x 9mの8K映像を投射できるDeep Space 8K

地球の映像をもとに気候変動について考えるGlobal Shiftエリア
©︎Linz Tourismus / Robert Josipovic
地球の映像をもとに気候変動について考えるGlobal Shiftエリア

登山鉄道に乗り、未来と歴史が交錯する街を一望しよう


リンツ市内を走る狭軌の電化鉄道、ペストリンクベルク登山鉄道
©︎iStock
リンツ市内を走る狭軌の電化鉄道、ペストリンクベルク登山鉄道

リンツの街の全体像を眺めるため、ペストリンクベルク登山鉄道に乗って537メートルの丘の上に登ってみましょう。一見すると単なる路面電車のように見えますが、粘着式(レールと車輪だけの一般的な鉄道)としては欧州で最も急勾配(116‰。1000メートルで116メートルの高低差)を上る登山鉄道で知られています。丘の上からは、アルス・エレクトロニカ・センター以外にも前衛的な建物と、旧市街の歴史的建造物が見事に調和したリンツ独特の街並みが見えてきます。

まず、旧大聖堂や新大聖堂の尖塔が覗く旧市街のすぐ横に、ひときわ目立つガラスの箱のような建築物、「レントス美術館」が見つけることができます。レントスとはリンツの古い名称で、万が一のドナウ川の洪水にそなえて、展示空間を2階部分に集約した作りになっています。グスタフ・クリムトやエゴン・シーレ、オスカー・ココシュカといった近現代美術の作品を中心に展示しています。日中は鏡のように周囲の景色を映し、夜になると赤や青にライトアップ。リンツ市内でもとりわけ存在感を放つ建築です。

レントス美術館とは対照的に、時計のついた塔をもつ歴史的な建造物は州庁舎(ラントハウス)です。16世紀の建物で、オーストリアで最も美しいルネサンス宮殿のひとつと言われています。一時はプロテスタントのラテン語学校が入っており、ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーが14年間教鞭をとっていました。中庭にはこれを記念し、7つの惑星の擬人像と紋章で飾られた「惑星の泉」が設置されています。ペストリンクベルクの丘の近くには、ヨハネス・ケプラー・リンツ大学があることでも知られています。

旧市街の奥、リンツ中央駅近くにあるモダンな建物は、リンツ州立劇場の音楽劇場です。2013年に完成したモダンな建築物で、中には1000名以上を収容できるホールがあり、コンサートやオペラなどを定期的に開催しています。かつてモーツァルトはこの街に魅了され、滞在していたわずか3日間で交響曲『リンツ』を書き上げました。音楽を愛し、音楽を育てるリンツのDNAは、今も脈々と引き継がれているようです。


街の北側にある丘の頂上、ペストリングベルク付近から見たリンツの街並み
©︎Linz Tourismus / Robert Maybach
街の北側にある丘の頂上、ペストリングベルク付近から見たリンツの街並み

ドナウ川沿いに立つレントス美術館。建物の長さは約130mもある。
©︎Linz Tourismus / Robert Josipovic
ドナウ川沿いに立つレントス美術館。建物の長さは約130mもある。

リンツの旧市街。奥に見えるのが州庁舎(ラントハウス)。アーチ構造が美しい中庭は見学することができる。
©︎オーストリア政府観光局 / Volker Preusser
リンツの旧市街。奥に見えるのが州庁舎(ラントハウス)。アーチ構造が美しい中庭は見学することができる。

リンツ州立劇場の音楽劇場。ミュージックシアターの愛称で親しまれている
©︎オーストリア政府観光局 / Volker Preusser
リンツ州立劇場の音楽劇場。ミュージックシアターの愛称で親しまれている

ブルックナーが眠るサンクト・フローリアン修道院


サンクト・フローリアンはリンツから南、約15kmにある小さな村
©︎オーストリア政府観光局 / Cross Media Redaktion
サンクト・フローリアンはリンツから南、約15kmにある小さな村

もうひとり、リンツを語る上で欠かせない音楽家がアントン・ブルックナーです。19世紀後半で最も重要な作曲家のひとりと言われるブルックナーは、1824年9月4日、リンツ近郊のアンスフェルデンという小さな村で生まれました。その後、ブルックナーはサンクト・フローリアン修道院で聖歌隊員、のちにオルガニストとして活躍。そして、1855年からはリンツで最も重要なバロック教会である旧大聖堂のオルガニストを務め、音楽大学教授としてウィーンへ召集され、1896年10月11日にウィーンで亡くなりました。

没後、ブルックナーの遺言によって、その遺体はかつて音楽家として道を歩むきっかけとなったサンクト・フローリアン修道院のパイプオルガンの真下に埋葬されることになりました。5月中旬から10月中旬はオルガンのショートコンサートが開催(週5日)され、多くのブルックナーファンを喜ばせています。

またリンツにはブルックナーの功績を称え、「ブルックナー・ハウス」と名付けられた扇型のコンサートホールがドナウ川沿いに建てられています。大中小3つのホールからなり、ブルックナーの誕生日と命日にちなんで毎年9月4日〜10月11日に開催される音楽祭「国際ブルックナー音楽祭」のメイン会場となっています。ブルックナー・ハウスのレジテントオーケストラ、「リンツ・ブルックナー管弦楽団」は国際ブルックナー音楽祭をはじめ、リンツ以外でも幅広く活動し、国内外から非常に高い評価を確立しています。


サンクト・フローリアン修道院の内部。パイプオルガンの下でブルックナーが眠る
©︎オーストリア政府観光局 / Cross Media Redaktion
サンクト・フローリアン修道院の内部。パイプオルガンの下でブルックナーが眠る

ブルックナーがオルガニストを務めたリンツの旧大聖堂
©︎iStock
ブルックナーがオルガニストを務めたリンツの旧大聖堂

コンサートだけでなく、イベント会場としても使用されるブルックナー・ハウス
©︎iStock
コンサートだけでなく、イベント会場としても使用されるブルックナー・ハウス

400年以上の歴史をもつスイーツ、リンツァートルテ


まわりはサクサク、中はしっとりした食感のリンツァートルテ
©︎Linz Tourismus / ms Fotogroup
まわりはサクサク、中はしっとりした食感のリンツァートルテ

最後にリンツの名物スイーツ、リンツァートルテを紹介しましょう。1696年の文献にそのレシピが記され、世界最古のケーキのひとつと言われるほど古い歴史をもつリンツァートルテ。小麦粉、バター、卵、砂糖の生地にア―モンドパウダーとシナモン、クローブなどのスパイスを加えて、表面にアカスグリやラズベリーのジャムを塗り、格子状の生地を飾って焼きあげます。リンツ市内にあるカフェ・イェントラクは、リンツァートルテ発祥の店を名乗る1929年創業の老舗ケーキ店。リンツ発祥という説以外に、実は「リンツさん」という方が作った説もあり、真相は定かではありませんが、リンツに来たのであればぜひ記念に食べてみてはいかがでしょうか?

・アクセス: ウィーンからrailjet特急で約1時間15分。

※当記事は、2022年11月30日現在のものです

〈地球の歩き方編集室よりお願い〉
2022年11月30日現在、国によってはいまだ観光目的の渡航が難しい状況です。『地球の歩き方 ニュース&レポート』では、近い将来に旅したい場所として世界の観光記事を発信しています。渡航についての最新情報は下記などを参考に必ず各自でご確認ください。
◎外務省海外安全ホームページ
・URL: https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html
◎厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について
・URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
旅したい場所の情報を入手して準備をととのえ、新型コロナウイルス収束後はぜひお出かけください。安心して旅に出られる日が一日も早く来ることを心より願っています。

筆者

地球の歩き方観光マーケティング事業部

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。