“アーサー王の生誕地”こと、英ティンタジェル城

公開日 : 2023年06月09日
最終更新 :

コーンウォールに行くのなら、とパパ友から紹介されたという「ティンタジェル城(Tintagel Castle)」は、北コーンウォールの崖上にある城跡でした。

といっても13世紀からだという城の形はほぼなく、むしろ5世紀から7世紀にかけて建てられた町全体の遺跡、と捉えた方が現地で「城、どこ!? 」と戸惑わずに済みます。

アーサー王伝説の舞台として人気の観光地

個人的には、あまりにも残っている建物部分が少ない気がしたので(広さを考えれば十分だったかもしれませんが)、ただの丘散歩のようだと思ってしまいましたが、こちらはなんといってもイギリスの騎士道物語、「アーサー王伝説(The legends of King Arthur and his knights)」に深く関連した場所として、絶大な人気を誇っているようです。

若き騎士アーサーが父親の死により弱冠15歳で王になり、ブリタニア(当時のイギリス)に攻め入ってきたサクソン人を負かし、ヨーロッパのほとんどを制覇したという話はイギリス国内にとどまらず、ヨーロッパ中に広まりました。

アーサーが実在するかというのは永遠のテーマなようですが、あくまでもさまざまな話がつけ足されて伝説化された人物なので、実際のところは王ではなく「優秀な騎士団のひとりがモデルになっている可能性はある」というのが有力そうです(参照:C Batey, Tintagel Castle (English Heritage guidebook, London, 2011), 44-45.)。

これまで文学や絵画、音楽、映画など、この伝説をテーマにした作品が数多く生まれました。ほかの誰もが引き抜けなかった、石台に刺さっている剣をアーサーが見事引き抜くシーンなど、ディズニーもアニメ化するほどなので、日本でも知られているのではないでしょうか。

海岸に繋がる無料ゾーン

ティンタジェル城の入口は看板だけで、窓口もないので一瞬戸惑いますが、待ち受けていたスタッフがすかさず案内してくれるので安心です。

下方に向かって先の見えないほど長い1本道は、どうやら途中でふた手に分かれるようで、スタッフからは「施設内にはトイレがないので、まずはいちばん下まで降りて用を足したり、チケットを購入したりすることをおすすめする」と言われました。

ここからけっこう下るので、帰りの上り坂がキツい©︎English Heritage
ここからけっこう下るので、帰りの上り坂がキツい©︎English Heritage

いま考えると、祝日や休み期間などはとりわけ混雑するので、入場券が必要な上部施設に、いっぺんに人が集中するのを避ける意味合いもあったのかもしれません。1480年頃に古物商のウィリアム・ウースターが“アーサー王の生誕地”と定めて以来(参照:Padel, Oliver. “THE GROWTH OF THE ARTHURIAN LEGEND” English Heritage.)、ティンタジェル城はいまで言う「聖地巡礼」の地として、多くの人が詰めかけることは容易に想像できます。公式ウェブサイトには「休み期間中もっとも混雑する時間帯は11時から14時までで、ピーク時には入場制限もかかるので予約を推奨、また、駐車場の使用時間にも気をつけてください」とあります。

言われたとおりいちばん下の方まで降りていくと、たしかにトイレとカフェ、チケット売り場がありました。土産ショップもあり、おそらくあとで戻ってくることはないと思い、さっそくいくつか購入しましたが、荷物になりますしやはり最後にしたいもの。

その点、オンラインで事前にチケットを購入済みの場合は直接上部の施設に行けるうえに、10%割引もあるので事前予約が賢明でした。

こちらの下部エリアの見どころは、湾になった海岸とショップ内のミニ資料館です。海岸は岩がちですが天気に恵まれ海の色も蒼く透き通り、水遊びをする家族連れなどでにぎわっていました。

2023年5月現在、浜に降りる道は大きな石でふさがれており、介添えが必要な方やベビーカー、小さな子供連れでの利用はおすすめできないようです。

橋を越える有料ゾーン

ミニ資料館でアーサー王伝説に関するにわか知識を詰め込んだあとは、来た坂道を少し引き返し、丘の上部にある施設に向かいます。かつての城門(barbican)や中庭(courtyard)を通ると立派な橋があるので、そこを渡って島部分のティンタジェル城と町の遺跡を目指します。

この橋は見た目どおり新しく、2019年にできたものです。それ以前は降りるときに通る、岩肌に沿った険しい階段を利用しなければなりませんでした。橋ができたことによりすいぶんと楽になり、上から眺める雄大な景色も堪能できるようになったのではないでしょうか。

アーサー王伝説に感化され、1260年頃に初代コーンウォール伯リチャード(Earl of Cornwall)がティンタジェル城を建てた当時はなんと、陸続きだったそうです。

橋を渡ってすぐには別の中庭と、もっとも大きく重要な施設であった大広間が現れます。と、ここら辺までは一部城壁で囲われている部分が多いので、なんとかそれぞれの存在を確認できますが、以降島全体に点在する遺跡は途端に「中世の建物」「北部の遺跡」など、カテゴリーもかなり大まかになり、草との境目もよくわからないものが増えます。

説明書きのプレートがなければ見落としてしまう所もあるので、むしろほかの観光客にならい、高原に座って柵なしで絶景を楽しむ方がよいかもしれません。

アーサー像にご挨拶

そうは言っても、アーサー王のブロンズ像だけは見逃せません。なぜなら、唯一の全体像が見えて“形あるもの”なのでわかりやすい……というのは私の個人的な思いであり、ティンタジェル城の発掘に尽力したラレー・ラドフォード(Raleigh Radford)氏などに失礼ですね。

©︎English Heritage/Artist Rubin Eynon’s sculpture Gallos
©︎English Heritage/Artist Rubin Eynon’s sculpture Gallos

マントを羽織りフードで顔を隠したこのブロンズ像は、突き刺さった剣に手を置き、城をジッと見つめています。2017年に設置され、ウェールズ人のアーティストが作成したこの像は、コーンウォールの言葉で「ガロス(Gallos)」という呼び名で、力を意味しています。

一見その姿はアーサー王そのものかと思いきや、ほかの王やトラブルメーカーの甥っ子などである可能性もあり、見る者に判断を任せ、あえて正体不明にしているそうです。

さすがは人気者のガロス、像と一緒に記念写真を撮る人が多く、ガロス単体で撮影するのにけっこうな順番待ちをしました。

ティンタジェルとアーサー王伝説の関係性

もともとティンタジェル城とアーサー王の関連はなく、生誕地でもありませんでしたが、1130年代に聖職者で学者のジェフリー・オブ・モンマスがそれまでの伝説に着想を得て、著書の『ブリタニア列王史(History of the Kings of Britain)』にはじめて登場させたのが始まりだと言われています。なぜティンタジェルを舞台にしたのかは、わかっていないようです(参照:Padel, Oliver. “THE BIRTH OF THE ARTHURIAN LEGEND” English Heritage.)。

コーンウォール語で書かれた地図©︎English Heritage
コーンウォール語で書かれた地図©︎English Heritage

さらに今日のアーサー像に繋がるイメージを確立させたのは、1485年に出版されたトマス・マロリーの『アーサー王の死(Le Morte d'Arthur)』だそうです(出典:C Batey, Tintagel Castle (English Heritage guidebook, London, 2011), 56.)。

ティンタジェルという名は、もともと岬とその一帯の行政区のみを指すものでしたが、その後も幾度かのアーサー王の流行り廃りを経て、19世紀半ばには村全体をトレヴェナ(Trevena)から伝説に縁のあるティンタジェルとし、イギリス国内で有数の観光地になりました(参照: “Parish Profile” 2023, Tintagel Parish Council.)。

手前に写っている建物がショップなので、そこでガイドブックなどを購入できる
手前に写っている建物がショップなので、そこでガイドブックなどを購入できる

日本人にとっては外国の歴史小説の舞台と言われても、なかなかピンとこないかもしれません。そのため、こちらのティンタジェル城を管理しているイングリッシュ・ヘリテージ(イングランドの歴史的建造物を保護する慈善団体)が発行する£6のガイドブックや、以下のウェブサイトで下調べをしてから行った方がより楽しめるかと思います。これからは好天が続くイギリスなので、少し日常から離れた散歩先としても最高です。

◼️
ティンタジェル城(Tintagel Castle
・住所
Castle Road, Tintagel, Cornwall, PL34 0HE
・アクセス
Bodmin駅などからバスにてVisitor Centre停留所下車徒歩15分ほど
・営業時間
毎日10:00〜18:00(最終入場17:00)
・入場料
大人£18.1、子供(5〜17歳)1£11.3、家族割あり

筆者

イギリス特派員

パーリーメイ

2017年よりロンドン南部で家族と暮らしています。郊外ならではのコスパのよいレストラン、貴族の邸宅、城めぐり、海沿い情報などが得意です。

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