【アメリカ】アムトラックの一般席で大陸横断・体験ルポ①LA出発

公開日 : 2023年10月03日
最終更新 :

西海岸から東海岸へアメリカ横断鉄道一人旅にチャレンジ

20数年前になりますが、当時留学していたアメリカ東部の大学からの一時帰国の際、グレイハウンドバスGrayhound Busに乗り、三日かけてピッツバーグからサンフランシスコまでアメリカ大陸横断の一人旅にチャレンジしたことがあります。陸続きに4つの標準時間を持つ、広大なアメリカ。飛行機の直行便でも5~6時間かかる空路ではほとんど雲の上の景色しか見られませんが、バス旅では緑豊かな穀倉地帯から荒涼とした赤い土の平原を延々と走り、ある時は陸路の旅でなければ訪れる機会のない西部の小さな町のバス停など、様々なアメリカのダイナミックな景色を楽しむことができました。飛行機より格安なバスの乗客も様々な人生模様を抱えた人たちで、3日間同じバス空間を共有し、旅の終わりにはなんとも形容しがたい連帯感が生まれたことも良い思い出となりました。

今夏日本への里帰りの帰路、時間に余裕があったので、飛行機を使わずにあえて鉄道(アムトラック)に乗り続けるとどうなるか。女性の一人旅でしかもファーストクラスに当たる寝台車(Sleeper)を利用せずエコノミーな一般席(Coach Class)で4日間乗り続けるという過酷な旅に自らチャレンジしてみました。

目次

1. アムトラックとは

アムトラック(Amtrak)は現在唯一アメリカ本土の東西にわたりに鉄道網を持つ、中長距離旅客鉄道です。
西海岸の主要都市(ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトルなど)から東海岸(ニューヨーク、ワシントン、ボストンなど)への横断には、途中で乗り換えをする必要があり、主な乗換駅はシカゴ、サンアントニオ、ニューオーリンズがあります。(特にシカゴは多くのアムトラック路線の発着駅となっています)

銀色の車体が特徴的なアムトラックの旅客車
銀色の車体が特徴的なアムトラックの旅客車

2. アムトラックの予約方法

アムトラックの列車に乗るには、アムトラックの駅で直接購入するほか、ウェブサイト amtrak.com や専用アプリ(Apple Store, Google Playからダウンロード )から予約・購入することができます。出発日まで日数に余裕があるほど割安に購入できるほか、列車の発着時間帯が早朝や深夜の場合に日中の同じ路線より割安になるものもあります。(例:北東回廊Northeast Corridorと呼ばれるワシントンDC~ボストン間の路線など)
長距離路線には寝台車(スリーパー)と普通車(コーチクラス)の2クラスがあり、寝台車はトイレ付きのプルマン式寝台(シーツ、毛布完備)に三食食堂での食事つき、また一部共有ながらシャワーも使えるなど様々なサービスが充実していますが、料金は普通車の約10倍近く(※時期や路線による)と高額です。
一方、普通車は前後のシートピッチが広いリクライニング式シートですが、食事は料金に含まれず、トイレも共有のみです。

3. アムトラックの大陸横断ルート

今回の鉄道旅は、ロスアンゼルスから出発してワシントンDCまで乗車することにし、どのようなルートがあるか事前に調べてみました。ノンストップで東西横断する路線は無く、シカゴあるいはニューオーリンズで乗り換えが必要となります。同じLA~シカゴ間の移動でもメキシコとの国境近くを走るテキサス・イーグル号、ロッキー山脈を避け草原やコーンベルトを横切りながら斜めに北上するサウスウェスト・チーフ号など、ルートによって走るエリアが異なります。

  • ロスアンゼルス~シカゴ間 サウスウェスト・チーフ号 Southwest Chief またはテキサス・イーグル号 Texas Eagle
  • シカゴ~ワシントンDC間 キャピトル・リミテッド号 Capital Limited またはカーディナル号 Cardinal
  • ロサンゼルス~ニューオーリンズ間 サンセット・リミテッド号 Sunset Limited
  • ニューオーリンズ~ワシントンDC間 クレセント号 Crescent

私が予約したのは次のルートでした。(出発日2023年9月4日)
1日目<月曜> 午後5時55分 ロサンゼルス・ユニオン駅出発 サウスウェスト・チーフ号(列車番号4)
2日目<火曜> 終日乗車(カリフォルニア州~アリゾナ州~ニューメキシコ州~コロラド州~カンザス州通過)
3日目<水曜> 午後2時50分 シカゴ・ユニオン駅到着(乗り継ぎ時間:3時間50分)(ミズーリ州~アイオワ州~イリノイ州通過)
同日      午後6時40分 シカゴ・ユニオン駅出発 キャピタル・リミテッド号(列車番号30)(イリノイ州~インディアナ州通過)
4日目<木曜> 午後1時05分 ワシントンDC・ユニオン駅到着(オハイオ州~ケンタッキー州~ウェストバージニア州~バージニア州通過)

旅行日程 3泊4日(車中泊3回) 所要時間 66時間30分(乗り継ぎ時間を含む)予定

4. LAX(ロサンゼルス国際空港)からユニオン駅へ

  • LAX空港のターミナル数は多い

    LAX空港のターミナル数は多い

  • LAX空港からユニオン駅までバス移動

    LAX空港からユニオン駅までバス移動

  • 車内のシートは清潔で快適

    車内のシートは清潔で快適

今回の旅の始まりはロサンゼルス国際空港(LAX)からです。東京・羽田発のアメリカン航空でLAX空港のBターミナルには現地時間の早朝6時に到着しました。ターミナルが全部で9つ(ターミナル1~8、国際線用ターミナルB)もある大きな空港ですが、LAX FlyAwayというバス路線が各ターミナル(計8か所)の到着階から約30分ごとに出ています。(柱に青色の看板がある所が乗車口の目印) 空港内では各ターミナルの乗車口で乗客を拾ってくれます。ユニオン駅までおよそ30~40分で乗り換えなしで移動できます。車内も清潔で快適でした。
ユニオン駅行きのほかに同じバス会社のヴァン・ナイス Van Nuys行きが同じバス停から出発するので、バスの乗車口に書いてある行先表示を確認してから乗車します。
運賃は片道9.75USドル(各路線共通)ですが、LAX空港にはバス会社のチケットカウンターが無く、乗り口の青い柱にあるQRコードからアプリをダウンロードしてアカウントを作り、チケットを購入するシステムとなっておりました。乗車券の確認は、ロスアンゼルス・ユニオン駅での降車時にバスの乗車口にあるスキャンにチケットのQRコードをかざして読み取る方法でした。スーツケースなどの大きい荷物はバスのトランクに預けましたが、追加料金はありませんでした。(アメリカのチップ文化にのっとり、到着時にチップを自主的に渡しました)

5. ユニオン駅での待ち時間に…

  • ユニオン駅のコンコース

    ユニオン駅のコンコース

  • 駅舎から外を見るとLAらしい景色

    駅舎から外を見るとLAらしい景色

  • 旧チケットカウンターは現在イベント貸し切り専用フロアに

    旧チケットカウンターは現在イベント貸し切り専用フロアに

  • ユニオン駅の待合ベンチ。切符を持っていないと入れない

    ユニオン駅の待合ベンチ。切符を持っていないと入れない

  • ユニオン駅の構内にある唯一座って食べられるレストラン

    ユニオン駅の構内にある唯一座って食べられるレストラン

  • チキンサンドを頼んだらさっそくアメリカンサイズの洗礼

    チキンサンドを頼んだらさっそくアメリカンサイズの洗礼

  • 待合エリアには電光掲示で列車情報は出るのだが。。。

    待合エリアには電光掲示で列車情報は出るのだが。。。

  • アムトラックの受託手荷物は2個と持ち込み手荷物2個のルールがある。

    アムトラックの受託手荷物は2個と持ち込み手荷物2個のルールがある。

  • ユニオン駅からAラインに乗って隣のリトル・トーキョー駅へ

    ユニオン駅からAラインに乗って隣のリトル・トーキョー駅へ

  • Aラインの路線案内

    Aラインの路線案内

  • Aラインのリトル・トーキョー駅は地下化されたばかり

    Aラインのリトル・トーキョー駅は地下化されたばかり

  • リトル・トーキョー駅の目の前に日本村プラザがみえる

    リトル・トーキョー駅の目の前に日本村プラザがみえる

  • 赤い火の見やぐらが日本村プラザの目印

    赤い火の見やぐらが日本村プラザの目印

  • 日本の食材が充実しているスーパー

    日本の食材が充実しているスーパー

  • 西海岸を中心に米国にもあるダイソー

    西海岸を中心に米国にもあるダイソー

早朝のロサンゼルス空港からバスに乗り、LAの特徴的なヤシの木の街路樹が整然と並ぶ街並みを眺めながら、朝の9時にはユニオン駅についてしまいました。夕方5時のアムトラック出発までまだ8時間近くもあります。しかしながら時間をつぶすにも、LAのユニオン駅は日本のターミナル駅のような大型商業施設が見当たりません。そこでスーツケースをアムトラックの一時預かりサービスに預け(当日乗車のチケット提示で1個当たり10USドル)、LAのライトレール(Aライン)に乗り、ユニオン駅から一駅で行ける、リトル・トーキョー/アートディストリクト駅(Little Tokyo/Art District)へ行ってみました。

リトル・トーキョー駅は今年6月に地下化工事が完了して再オープンしました。駅前には日系人博物館(National Japanese American Museum)やミヤコホテル(Miyako Hotel)、日本村プラザ(Japan Village Plaza)をはじめ、様々な日系のショップやレストラン(ラーメンや寿司屋が多い)があります。
食事処の開店時間前に来てしまったので、リトル・トーキョーで食事をする代わりに営業中の日系スーパーやダイソーなどに立ち寄り、アムトラックの車中で食べられるおにぎりやスナックなどの食材を買い込みました。

再びユニオン駅に戻りましたがまだお昼時、次は駅構内で座って食べられるお店を探してみました。多くの店はテイクアウト専門で店内にテーブルが無かったので、正面口近くにあるスポーツバー「ホームバウンド・ブリューハウスHomebound Brew Haus」を見つけここでチキンサンドをオーダーしました。

旅客用の待合ベンチはアムトラックの当日の乗車券を持っていれば利用できるということで、セキュリティ(待合ベンチの周囲を柵で囲み、チケットが無いと利用できないようチェックしている)にチケットを見せてエリアに入りました。看板には「発車時刻の2時間前から利用可」と書いてありましたが、事情を説明したら数時間早くても入れてもらえました。待合ベンチは一人がけの革張りの大きな椅子で、駅舎のレトロな雰囲気とよく似あいます。ただし電源やUSBポートなどの設備はありません。待合エリアからは列車の出発案内の電光掲示板が見えますが、発車時刻の2時間前にならないと掲示されないので、掲示板だけでなく館内放送にも気を付ける必要があります。

ユニオン駅構内はセキュリティのスタッフが巡回しているので、基本的には安全に過ごせます。それでも人がいないエリアには行かないようにし、手荷物も置き引きなどに遭わないよう常時気を付けていました。

6. いよいよ出発!だが…。

  • サウスウェスト・チーフ号の普通車両は二階建て客車

    サウスウェスト・チーフ号の普通車両は二階建て客車

  • 座席の上には乗客の目的地を書いた紙を挟んで車掌さんが降車案内の目印にしている

    座席の上には乗客の目的地を書いた紙を挟んで車掌さんが降車案内の目印にしている

  • 普通車の座席。前後のピッチは広い

    普通車の座席。前後のピッチは広い

普通車(コーチクラス)の座席は、予約時には指定されませんが、サウスウェスト・チーフ号などのような長距離路線では駅の窓口で当日の出発前に座席の指定(手書きの座席番号)を受けます。これも一回だけ館内放送があったので、聞き逃さないように気を付けなければなりません。
手荷物は預け荷物2個(1個当たり50ポンド<23キロ>まで)、車内持ち込み手荷物2個までと規定があります。空港の手荷物チェックよりはあまり厳格ではない印象でしたが、預け荷物の方はちゃんと計測して重量オーバーでないか確認していました。

待合エリアで待つこと数時間、サウスウェスト・チーフ号の発車時刻の2時間前になりようやく電光掲示板に列車名が載るようになりました。アムトラックの大きな駅では乗車時間になるまでどのプラットホームの番線に列車が入線するかアナウンスが無いので、乗客は待合室エリアで待ちます。駅員さんに「発車時間の15分前に乗車案内のアナウンスがある」と教えてもらい、待合エリアで座っていましたが、なかなか番線の表示がでません。そのうちに30分、そして1時間の遅延とアナウンスされました。アムトラックの遅延は珍しいことでは無いのですが、ほかの列車はほぼ時刻通りに出発していて、どうやらサウスウェスト・チーフ号だけの問題が発生しているようでした。

遅延情報がはっきりわからないときは、駅員や同じ列車を待っている様子の人たちに積極的に聞いて回ります。電光掲示板は発車予定時刻を過ぎると遅延があるにも関わらずサウスウェスト・チーフ号の表示が消えてしまいました。そしてしばらく待つと今度は突然館内放送でサウスウェスト・チーフ号の乗車案内が始まりました。電光掲示からは消えているので、ホームの番号も放送が頼りです。係員が急に現れて乗客の一団はそのあとについてプラットホームへ向かう感じでした。もし待合エリアから遠く離れた場所にいたらわからなかったことなので、チケットカウンターや待合エリアでじっとしていたのは正解でした。午後5時55分発車予定だったサウスウェスト・チーフ号は1時間12分遅れの午後7時7分にロサンゼルス・ユニオン駅を出発しました。

車内放送では列車の遅延を謝まりつつも車掌さんが「今日はロサンゼルス市の誕生日、そしてビヨンセの誕生日だ!どちらもおめでとう!」という陽気なアナウンス。列車の大幅な遅れはともあれ長い旅の道中を楽しんでね!というのがアメリカ流なのでしょう。早朝からの待ち時間で疲れ切った身には、シカゴでの3時間50分の乗り継ぎ時間がすでに1時間無くなっている中、これ以上短くならないことを切に願ったのでした。

※当記事は筆者がアムトラックに乗車した期間(2023年9月4日~9月7日)に基づく体験ルポです。

筆者

アメリカ・メリーランド州特派員

ベスト加島 聡子

神奈川県出身で、在米20数年になります。現在メリーランド州北東部の町で、家庭菜園とクラフトアートを楽しんでおります。

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