イタリアの野良ちゃん!犬猫の殺処分がゼロの国

公開日 : 2023年01月27日
最終更新 :

イタリア人は一般的に子供と動物が大好きです。イタリアでは野良猫とはいわず「自由猫」や「放し飼いの猫」と呼びます。とてもすてきな概念で、外で「自由に生きる猫」も幸せに生きる権利が法で定められているため、猫ちゃん達ものびのびと生活している気がします。先日、筆者の家のソファーで知らない自由な猫がグーグーと寝ており、気づかずに縫いぐるみかと思ってしまい、長い間、放置してしまったお話とともにお届けします。

野良猫ではなく、幸せなガット・リベロ!

家の中で熟睡をしている知らない猫ちゃんの存在に困惑しながら撮影
家の中で熟睡をしている知らない猫ちゃんの存在に困惑しながら撮影

動物好きな人が多いイタリア人。道でお散歩をしている犬を見かけると、皆さんしばしば飼い主さんに気さくに話しかけています。筆者はローマでは、ミニブタをトラム(路面電車)の中で足元に座らせている人を見たことがあります。そしてその数日後には、また別のパンダ模様のミニブタさんをスペイン広場でお散歩している人を見ました。ハイヒールを履いたような足で石畳の上を一生懸命に歩いていました。また、公園ではオオカミを散歩している人にも会ったことがあります。

イタリアでは「野良猫」は「ガット・リベロ Gatto libero」と呼ぶ人が多く、これは「自由な猫」や「放し飼いの猫」といった意味です。昨年の暮れに、筆者が家で廊下を歩いていると、ふと視界の端を黒い塊が横切りました。「何だろう?気のせいかな?」と思ったのですが、またふわりと黒いもやもやしたものが動きます。薄暗くよく見えなかったため、一瞬パニックになり、なぜか「タヌキがうちに入って来たらどうしよう!」と思いました。少し前に、日本ではアライグマが住宅地に出没をして、屋根を歩いたりして悪さをするというニュースを見たからかもしれません。タヌキやイノシシだったらこれは困るなと思いました。するとその動物が1秒の早さで移動し、筆者の足元に来て、猫であることが分かりました。

筆者はこの前の4~5時間をパソコンに向かっていたため、気づいていませんでしたが、実はだいぶ前から家の中にいたようです。台所の窓が10センチくらい開いていましたので、手で押して入ってきたと思われます。猫は居間に行くと、ソファーの上で伸びをしたり、あくびをしたりして完全にくつろいでいます。まるで自分の家と勘違いをしているかのようです。「すみません、あなたは自分の家を間違っていませんか?」「飼い主さんはどこにいますか?」などと話しかけ続けました。

というのも、筆者はイグアナも飼っていたほど、動物が好きなのですが、猫アレルギーがあり、猫と長い間一緒にいると、鼻水、目と喉のかゆみがあります。スギ花粉症と症状はまったく同じです。そのため、猫の体に触ると発症しそうなことから、抱っこもできずに話しかけていました。しかし、猫は「ここは私のうちなんですけど!う~ん快適だなあ」「なんで追い出すのですか~やめてくださあい」といった表情で微動だにしません。そのうち完全に安心しきってグーグー熟睡してしまいました。困った筆者は、食べ物(ツナ缶)を近づけたり、ほうきの棒をちらつかせたりしましたが、薄目を開けてこちらを見ると、伸びをしたりしてさらにくつろいでいきます。

1時間ほど経ち、出て行ってくれない猫への恐怖と緊張で頭が割れそうに痛くなってきました。最終的には、近所の人を呼んで来て捕まえてもらいました。この方は、家で猫を何匹か飼っていて、この猫は首輪もなく「ガット・リベロ」なようだから、もし筆者が嫌でなければ、出入りは自由にさせてやればよいといっていましたが、猫アレルギーでくしゃみが止まらなくなるため、家の中に猫ちゃんは入れることができません。
どうにもならない猫への緊張マックス!で、この後、疲れて頭痛薬を飲んで眠り込みました。翌日友人に「家に猫が来た昨日が2022年で一番ストレスだった日だったよ!」というと「え~、もっといろいろなことあったのに、それは比べるに値しないの?!」と笑われましたが、当事者にとっては真剣な戦いでした。

今ではこの猫は「自由猫」として、この地区に住んでいます。あちこちの家に出たり入ったりしているようで、先日は近所のお姉さんの家に1週間連続でいたようです。数日前は、クリーニング屋の店内から楽しそうに外を見ていました。好きなように生活しているようです。

凛々しい大きなトラ猫であったため、1m程度の位置から震えながら撮影
凛々しい大きなトラ猫であったため、1m程度の位置から震えながら撮影
完全にリラックスをしている様子で見てくるが、こちらはリラックスどころではない
完全にリラックスをしている様子で見てくるが、こちらはリラックスどころではない

イタリアの捨て猫、捨て犬と保護施設-猫のコロニーは生物文化遺産に

ローマのディヴィーノ・アモーレ教会の駐車場にいた猫ちゃん。教会の正式名称は「Santuario della Madonna del Divino Amore(英語ならSanctuary of Our Lady of Divine Love)」といい、周辺一帯が聖地となっている。
ローマのディヴィーノ・アモーレ教会の駐車場にいた猫ちゃん。教会の正式名称は「Santuario della Madonna del Divino Amore(英語ならSanctuary of Our Lady of Divine Love)」といい、周辺一帯が聖地となっている。

イタリアでも、毎年多くの犬猫が捨てられています。北イタリアの捨て猫・捨て犬の状況は、10年前に比べれば減少していますが、南部や島嶼部では未だ深刻な問題となっています。飼い主のいない犬は、国立動物保護局や保護団体などによって公営犬舎に入れられます。
レポートによると、イタリアでの犬の公営犬舎への入所は年間約9万頭とされています。2017年の報告では、9万1021頭の犬が犬舎に入り、そのうち3万4224頭が飼い主に返されました。これは、全体の38%にあたります。ローマはラツィオ州の州都ですが、ラツィオ州の統計では、2017年には7890頭の犬が保護犬舎に入所し、このうち1244頭が飼い主のもとに帰りました。路頭で迷っている犬の犬舎への収容数が増えれば、飼い主に返還される犬の割合が増えていきます。

猫の場合は、負傷や病気をしている以外は公営猫舎へ入れられることは少なく、通常は「自由な猫」として外で暮らしています。イタリア国内の野良猫の数は250万匹以上いると推定されています。公営犬舎・猫舎は、税金と寄付によって運営されています。

イタリアの法律では、治らない病や重大かつ証明された危険がある場合も、安楽死以外の野良犬・野良猫の殺処分を禁止しています。これらの規定は、動物保護・動物愛護において世界でも最も進んだものであるとして知られています。

例えばイタリアの法律では、動物を捨てた場合について刑法第727条の動物遺棄罪に規定されています。動物を捨てる行為は、犯罪として道徳的に非難されるべきであるとされ、処罰は1年以下の懲役および1000ユーロから1万ユーロまでの罰金となります。条文には「動物を動物の性質と相容れた快適な状況に保てず、彼らにとって大きな苦しみを生んでいる場合も同様に罰せられる」といった内容も含んでいます。
猫のコロニーは、自治体によって「生物文化遺産」とみなされ、保護されていて、猫達が不当な扱いが行われた場合、市町村は刑法の規定に従って責任者に対して法的措置を取る権利を留保します。
また、各州でも動物の保護法が細かく定められています。ローマのあるラツィオ州の法律では、下記のように定められています。

ペットの保護と迷子(野良)防止
1997年10月21日付 地域法34条
日付:1997年10月21日

第1条 第3項
(目的)
犬は、自由であるときも犬小屋にいるときも、幸福な状態で暮らす権利があると認識されている。すべての犬は、家庭や動物保護・福祉団体に引き取られる機会を与えなければならない。

第9条 第1項
(近隣の犬)
人、動物、財産に危険を及ぼす状況が存在しないことが確認された場合、犬は自由な動物である権利を有すると認識される。このような動物を隣人犬と呼びます。

第10条 第2~3項
(犬の実験禁止及び殺処分の条件等)
飼い犬を含む犬の殺処分は、重病、不治の病、危険性が証明された場合のみ認められています。殺処分は、専門家集団に登録された獣医師が安楽死させ、必要な死亡証明書を管轄の地方衛生局の獣医サービスに発行します。

実験目的で犬を取引したり、無償で譲渡することは禁じられています。

第11条 第1~6項
(猫の保護及び実験の禁止)
ラツィオ州は、自由行動する猫の保護を推進しています。また、彼らを虐待したり「生息地」から移動させたりすることは禁じられています。

自由に生活している猫は、管轄の地方衛生局の獣医サービスによって不妊手術を受け、再び所属するグループに戻らなければなりません。

第23条第1項の動物福祉および動物保護任意団体は、所轄のUSL会社と合意して、自由に生活するネコ科動物のコロニーを管理し、その健康状態および生存条件に配慮することができます。

自由猫および飼い猫は、重病、不治の病、または第11条第2項に言及する当局によって危険であると証明された場合にのみ、安楽死させることができます。

自由猫は、立法令116/1992の第3条第2項の意味において、実験に使用することはできません。

実験目的で猫を取引したり、無償で譲渡することは禁止されています。

ラツィオ州議会、地域法

古代遺跡と保護猫センター「Torre Argentina Cat Sanctuary」

ローマのトッレ・アルジェンティーナ広場の遺跡
ローマのトッレ・アルジェンティーナ広場の遺跡

ローマのトッレ・アルジェンティーナ広場には、保護猫センター「Torre Argentina Cat Sanctuary」があります。
この場所で、紀元前44年3月15日にカエサル(シーザー)が暗殺されました。この広場の前は、多くのバスやトラムが発着する市内の交通の要所の一つです。パンテオンやナヴォーナ広場などへ行かれる場合は、トッレ・アルジェンティーナ広場のバス停で降りるのが便利です。
遺跡「アレア・サクラ(聖なるエリア)」には、4つの神殿の遺跡が見えます。この写真の一番手前に見える神殿は神殿Aとされ、紀元前3世紀の半ば頃に建設されたものです。現在見えている茶色っぽい円柱は、ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスの時代に再建されたものです。一番奥にあるのが、最も古い時代の神殿で、神殿Cと呼ばれます。こちらは、紀元前4世紀の終わりに建てられました。このあたり一帯は、地下に遺構がたくさん眠るゾーンです。

トッレ・アルジェンティーナ広場の猫のコロニーは、ローマで最古のものです。1929年に広場の神殿の遺跡が発掘された後、野良猫が少しずつ集まって来るようになりました。最初は、地元の人達が餌をあげていました。その後、イタリアのトリエステ出身のリア・デクエルが猫のサンクチュアリを創設し、保護施設は大きくなりました。
2012年、考古学遺産管理局が猫の保護施設を遺跡から立ち退かせるよう要求し、閉鎖の危機に直面しましたが、嘆願書には3万人以上の署名が集まり、施設の存続が認められました。
保護猫センターでは、常時おおよそ100匹の猫がおり、里親の募集もしています。アレア・サクラにいる多くの猫達に、愛情あふれる家庭が見つかることを望んでいます。猫シェルターのボランティアが作ったおみやげも販売されており、売り上げはすべて猫達のために使われます。保護猫センターは、どなたでも訪れることができます。

近づいて来た鼻がピンク色のきれいな毛並みの猫ちゃん
近づいて来た鼻がピンク色のきれいな毛並みの猫ちゃん

トッレ・アルジェンティーナ広場の猫シェルターの情報

名称
Torre Argentina Cat Sanctuary
住所
Largo di Torre Argentina angolo Via Arenula (scavi archeologici) / トッレ・アルジェンティーナ広場
電話番号
+39-06-68805611(毎日12:00-16:45)
URL
https://www.gattidiroma.net/web/en/
郵便局の前にいた猫ちゃん。イタリアではいじめたり追い払う人が少ないせいか、どの子もとても人なつっこい
郵便局の前にいた猫ちゃん。イタリアではいじめたり追い払う人が少ないせいか、どの子もとても人なつっこい

イタリアで人気のペットの名前

ローマのコロッセオに住む猫ちゃん
ローマのコロッセオに住む猫ちゃん

イタリアで犬や猫につける人気の名前は、ローマでしたらローマの歴史に由来するものが多くみられます。
当方の知り合いの犬・猫では、カエサル、タツィオ(ローマの建国に登場するサビニ人の王様、ティトゥス・タティウスから)、ロモロ(ローマ建国の祖となった双子の兄弟ロモロとレモ)などがあります。
若い世代には、英語の人名もよく使われます。ロビンやボビー、マイケルなどがあります。また、日本語の名前もエキゾチックで魅力があるようで人気があります。筆者の友人宅の猫は、それぞれ「ゆきこ」と「けんじ」です。

ローマの教会の石畳の道を歩く模様がかわいい子猫ちゃん
ローマの教会の石畳の道を歩く模様がかわいい子猫ちゃん
ローマ近郊のバニャイアのランテ荘(ヴィッラ・ランテ)の切符売り場前にて。子猫ちゃんが職員から餌をもらったところ
ローマ近郊のバニャイアのランテ荘(ヴィッラ・ランテ)の切符売り場前にて。子猫ちゃんが職員から餌をもらったところ

まとめ

イタリアは、動物にやさしい国です。犬などのペットも人間と同様に扱われ、一緒に入れるお店がたくさんあります。アパートなどの賃貸物件に入居の際も、普通は動物が拒否されることはまずありません。ローマの中心部のバールでは、2023年1月現在、筆者が見たところ、10店舗のうち9店舗は犬とともに問題なく入店できています。バールやスーパーの入口のすぐ横に犬のリードを引っかける金具などが設置してあるところは、犬は外につないでおき、飼い主が買い物をしたり、コーヒーなどを飲んでいる間は待っていてもらいます。もしくは、入口のドアのところに「ワンちゃんは入れません!」などのシールが貼られていますが、見ることは極めてまれです。
イタリアを訪れたら、かわいい動物たちも見てみてください!

ローマ郊外のフラスカーティの町。道で仲良くご飯を食べていた犬と猫
ローマ郊外のフラスカーティの町。道で仲良くご飯を食べていた犬と猫

筆者

イタリア特派員

阿部 美寿穂

ローマからイタリアの日常やイタリア旅行に役立つ情報などをお送りしています。

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