美食の国ハンガリーで、王や貴族たちも愛したワインを堪能!

公開日 : 2023年11月10日
最終更新 :

ヨーロッパのなかでもワイン生産が盛んなことで知られるハンガリー。世界三大貴腐ワインのひとつといわれ、ワイン産地全体が世界遺産にも登録されているトカイ・ワインをはじめ、国内には22の産地が点在しています。今回は、その中でもおすすめの5つのエリアを見どころとともにご紹介。現地への想いを馳せながら、各産地ならではのワインの香りや味わいを想像してみてください。

ハンガリーワインの生産地MAP © ハンガリー観光庁
ハンガリーワインの生産地MAP © ハンガリー観光庁

「牡牛の血」の逸話が残るエゲル

バロックの街とも呼ばれるエゲル旧市街の街並み(*)
バロックの街とも呼ばれるエゲル旧市街の街並み(*)

ハンガリー北東部、ブック山脈の南斜面に広がるワイン産地。旧市街には美しい石畳の通りが広がり、13世紀に建てられた城壁や古い教会群といった歴史的建造物が立ち並んでいます。また、エゲルは温泉地としても知られ、温泉リゾートや露天風呂などが点在。真っ白な石灰棚やエメラルドグリーンやブルーの泉などの絶景も見られます。

山の斜面に掘られた穴蔵をセラーとして利用 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
山の斜面に掘られた穴蔵をセラーとして利用 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

エゲルのワインといえば、「牡牛の血」として知られるエグリビカヴェールが有名。数種類の黒ブドウをブレンドした赤ワインで、エゲルまたはセクサールド産の伝統的なブドウ11品種のうち3種類以上を含むものと定められています。スパイシーな香りと滑らかな口当たりが特徴のケークフランコシュをベースにしたものが主流ですが、各ワイナリーによって配分が異なるのでさまざまな味わいが楽しめます。食事酒としても最適で、地元で人気の鹿やイノシシなどのジビエ料理との相性も抜群です。

「牡牛の血」と呼ばれるのには、こんな逸話が関係しています。16世紀半ばにオスマン帝国がエゲルに攻め込んできた際、ハンガリーの指揮官は軍の士気を高めるために兵士たちに赤ワインを振る舞いました。たっぷり飲んだ兵士たちの口元は真っ赤に染まり、それを見たオスマン帝国の兵士たちは牡牛の血を飲んでいると恐れをなして逃げ去ったのだそう。街なかには、このときの舞台となったエゲル城の城壁や聖堂跡が今も残っています。

また、エゲル地方の白ワインとして近年注目を浴びているのが、「エゲルの星」として知られるエグリチラーグ。4種類以上の白ブドウをブレンドしたもので、フレッシュでフルーティー、フローラルな香りがほどよく調和。さらに木樽で熟成させたものは、スパイシーでミネラルを感じる味わいが楽しめます。エゲル出身の作家・ゲーザ・ガールドニのエゲル地方を舞台にした小説「エゲルの星」から名付けられました。サラダや魚介の前菜、野菜のグリルなど、軽めの食事と合わせるのがおすすめです。

世界中からワイン好きが集まる「美女の谷」(*)
世界中からワイン好きが集まる「美女の谷」(*)

エゲル地方ではどこへ行ってもワインが楽しめますが、“ワインの聖地”ともいわれ、多くのワイン好きを惹きつけているのが「美女の谷」。エゲル旧市街から2㎞ほどの場所にあるエリアで、丘の斜面を掘って造られた穴蔵のようなワインセラーが50軒ほど軒を連ねています。この谷のワインを飲むと、女性はいつまでも若さと美貌を保てるとの言い伝えも!(この谷でワインをたっぷり飲んだら、すべての女性が美女に見えるからとの説もありますが……) 

個性的なセラーが多く、どこも1杯100円程度で試飲できるので、何軒も巡って好みのものを見つけるという楽しみも。お気に入りが見つかったら、その場で好きなだけボトリングしてもらうことも可能です。

■おすすめのワイナリー■
ガールティボル

ガール・ティボル氏は、エグリビカヴェールを復活させ、多くのワイナリーのコンサルを務め、若くしてワインの権威者としてみなさられたが、惜しくも南アにおける交通事故で亡くなった 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
ガール・ティボル氏は、エグリビカヴェールを復活させ、多くのワイナリーのコンサルを務め、若くしてワインの権威者としてみなさられたが、惜しくも南アにおける交通事故で亡くなった 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
若くして交通事故で無くなったガール・ティボル氏の志を受け継いだ現代風のワインバー 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
若くして交通事故で無くなったガール・ティボル氏の志を受け継いだ現代風のワインバー 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

市街中心部にある、1993年創業の家族経営のワイナリー。自然との関わりを大切にしながら、個性的なオーガニックワインを生み出しています。エグリビカヴェール、エグリチラーグをはじめ、10数種類のワインを醸造。ワインテイスティングやセラー見学、ワインとペアリングしたディナー、さらにはエグリビカヴェールを自分好みにブレンドする体験やワインを楽しみながらの町散策などが楽しめます。
・URL:https://winesofhungary.hu/wineries/gal-tibor-winery-3847

■エゲルへのアクセス:ブダペストStadion BTからバスで1時間50分の終点Eger BT下車。そこからエゲル城まで徒歩15分

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貴腐ワインで世界に名を馳せるトカイ

起伏のある丘陵地帯にどこまでもブドウ畑が続く 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
起伏のある丘陵地帯にどこまでもブドウ畑が続く 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

ハンガリー北東部、川の流域から丘陵地帯に広がるハンガリー随一のワイン産地で、900万年前の火山活動で誕生したという土壌にのどかな村々が点在。ブドウ畑が広がる景観とともに、古くから受け継がれてきたワイン造りの歴史がユネスコの世界遺産にも登録されています。

甘味が凝縮された貴腐ブドウ(*)
甘味が凝縮された貴腐ブドウ(*)

トカイワインといえば、世界最高峰の甘口ワインとして知られる貴腐ワインが有名。世界で愛されている貴腐ワインの中でも最も歴史が古く、フランスのルイ14世が「ワインの王にして、王のワイン」と称したことでも知られています。

貴腐ワインとは、“貴腐ブドウ”と呼ばれる極めて糖度の高いブドウを原料にした極甘口ワインのことで、貴腐ブドウを作るには適度な湿度と日光が必要とされます。二つの川の合流地点にあり、秋から冬にかけて昼夜の寒暖差から朝に濃い霧が発生するトカイ地方では、その湿気によってブドウの果皮に付着した貴腐菌が繁殖。日中の晴天下で水分が蒸発し、糖分が凝縮された香り高い“貴腐ブドウ”へと変貌していきます。このトカイ地方ならではの独特な地形と気候がすべて合致し、希少なワインを生み出しました。

“貴腐香”と呼ばれるハチミツやドライフルーツのような独特の芳香とトロリとした蜜のような濃厚な甘味が特徴で、甘さのなかにもしっかりとした酸味も顕在。現地の言葉で「糖蜜、シロップ」を意味する「トカイ・アスー」をはじめ、貴腐ブドウのみを自然発酵させた「トカイ・エッセンシア」、貴腐ブドウと貴腐化していないブドウの粒を選別せずに発酵させた「サモロドニ」など、さまざまな種類が存在します。

貴腐ワインとの定番の組み合わせといえば、フォアグラ 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
貴腐ワインとの定番の組み合わせといえば、フォアグラ 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

貴腐ワインとの組み合わせには、フォアグラなどのコクの強い料理との組み合わせがおすすめ。脂肪分が高く、上品な霜降り肉で知られるマンガリツァ豚(実はこの豚、希少価値が高く、ハンガリー政府から“国宝”に指定されています!)を使った料理も人気です。また、この地方独特の「ティサ風ハラースレー」と呼ばれるパプリカ入りの真っ赤なフィッシュスープやマスなどの淡水魚のグリルは、ドライな白ワインとの相性も抜群です。

■おすすめのワイナリー■
トカイ・ヘートスールー

ラーコーツィ・セラーの試飲室で貴腐ワインから白の辛口ワインまで試飲が可能 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
ラーコーツィ・セラーの試飲室で貴腐ワインから白の辛口ワインまで試飲が可能 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

トカイ・ヘートソーローが所有する「ラーコーツィ・セラー」は中世に建てられた歴史あるセラーで、ハンガリーの大貴族・ラーコーツィ家が所有していたもの。ハンガリーの王や公爵などに貴腐ワインが振る舞われてきたという大広間も残っていて、古き時代に思いを馳せながら試飲を楽しむことができます。
・URL:https://winesofhungary.hu/wineries/tokaj-hetszolo-organic-vineyards-3970%E3%80%80

■トカイ地方へのアクセス:ブダペスト東駅から鉄道で3時間12分のTokaj下車。そこから村の中心まで徒歩25分

“東のボルドー”とも称されるパンノン・ヴィラーニ

フォトジェニックなヴィッラーニケヴェシュドのワインセラー群(*)
フォトジェニックなヴィッラーニケヴェシュドのワインセラー群(*)

ハンガリー最南端、クロアチアやセルビアとの国境近くにあるワイン産地。ワイン造りの歴史はローマ時代に遡るともいわれ、ボルドー北部地域とほぼ同緯度にあるため、“東のボルドー”とも称されています。人口2500人ほどの小さな村で、家族経営の小さなワイナリーが50軒以上も点在。なかにはレストランやホテルを兼ねたワイナリーもあります。

ヴィラーニは、長期間セラーで熟成されるタンニン豊富なフルボディの赤ワインが有名で、なかでも高品質なカルベネフラン100%を使ったワインは人気。熟成感のあるリッチな味わいで、ワイン愛好家の間では最高品質のワインのひとつとして注目されています。やや軽く飲みたいときにはフレッシュでフルーティーなポルトギーザーを使ったワインが好まれます。

ハラースレー(パプリカ入りの魚のスープ)も人気料理のひとつ ©ハンガリー観光庁
ハラースレー(パプリカ入りの魚のスープ)も人気料理のひとつ ©ハンガリー観光庁

赤ワインとの組み合わせには、豚の腸に豚肉や根菜、サワークラウト、ポテト、ハーブ、スパイスを詰めたヴィラーニ名物「スティフォルダーソーセージ」がおすすめ。豚のヒレ肉とサワークラウトの料理やガチョウと赤キャベツを組み合わせた料理なども人気があります。

■おすすめのワイナリー■
ゲレ・ワイナリー

ワインとともに料理を楽しむゲレ・ワイナリー併設のレストラン 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
ワインとともに料理を楽しむゲレ・ワイナリー併設のレストラン 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

親子7代にわたる家族経営のワイナリー。有機ブドウと地域固有の酵母菌を使い、オーク樽で熟成させて生み出す高品質赤ワインが話題を呼んでいます。健康志向へのこだわりから、抗酸化効果が期待できるグレープシードのオイルやパウダーなども生産。試飲や見学ができるほか、リゾート&スパに併設されたレストランでは、モダンスタイルの料理が楽しめます。
・URL:https://gere.hu/en

ワイナリー・ボック

ボック・ワイナリー見学ツアーで訪れる、不思議な音響の地下空間 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
ボック・ワイナリー見学ツアーで訪れる、不思議な音響の地下空間 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

150年以上の歴史を誇る、スパを備えたホテルとレストランを併設するワイナリー。レストランでは、選りすぐりのワインとともにこの地ならではの伝統的な料理が楽しめます。滞在しながらゆったりワインが満喫できるとあって、多くのリピーターたちに人気です。
・URL:https://pince.bock.hu/en/bock-csaladrol

■ヴィラ―ニへのアクセス:ブダペストから鉄道で約4時間

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上品な白ワインで知られるバラトンフレド・チョパク

ブドウ畑は陽光を存分に浴びる湖北岸の南斜面に立地 ©ハンガリー観光庁
ブドウ畑は陽光を存分に浴びる湖北岸の南斜面に立地 ©ハンガリー観光庁

ハンガリー中西部、バラトン湖の北岸に細長く伸びるワイン産地で、温泉保養地として有名なティハニや自然豊かなバラトン高原国立公園などでも知られています。“ハンガリーの海”とも呼ばれる湖周辺には旧市街の街並みが残る村々や温泉湖なども点在し、多くの観光客たちを惹きつけています。

バラトン湖の眺望を楽しみながら頂くチョパクワイン 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
バラトン湖の眺望を楽しみながら頂くチョパクワイン 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

バラトンフレド・チョパクといえば、オラスリズリング、フルミントなどの白ブドウ品種から造られる上品でアロマティックな白ワインが有名。フレッシュで軽やかなものから、フローラルな香りが強いもの、酸度・アルコール度数が高く複雑な味わいなフルボディまで、さまざまなタイプがあります。

フォガシュ(淡水のスズキ)のグリル、レチョー(パプリカ煮込み)添え 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
フォガシュ(淡水のスズキ)のグリル、レチョー(パプリカ煮込み)添え 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

この産地の白ワインには、バラトン湖で獲れる淡水魚とのペアリングがおすすめ。ハンガリーの揚げパン「ラーンゴシュ」との相性もよく、軽めの白ワインには塩やニンニクをトッピングしただけのベーシックなもの、フルボディワインにはチーズやサワークリームなどをトッピングしたものがよく合います。

■おすすめのワイナリー■
フィグラ・セラー

フィグラ・セラー 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
フィグラ・セラー 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

1993年創業のワイナリー。上品質なワインで知られ、これまでに数々の賞を受賞しています。ゲストハウスや屋外でワインやスナックが楽しめるワインガーデンを併設しており、事前に予約すれば試飲やツアーも可能。オラスリズリングやシャルドネなどの白ワインのほか、赤ワイン、ロゼなど十数品種のワインが楽しめます。
・URL:https://figula.hu

■パラトンフレド・チョパクへのアクセス:ブダペスト南駅から鉄道で2時間 

ワイン造りを受け継ぐパンノンハルマ修道院

1000年以上の歴史を誇るパンノンハルマ修道院(*)
1000年以上の歴史を誇るパンノンハルマ修道院(*)

996年に創設されたハンガリー最古の修道院で、世界遺産にも登録されているパンノンハルマ修道院。ハンガリー北西部、バコニュ山脈の北に位置する小さな町・パンノンハルマの小高い丘の上にあり、豪華装飾が施された回廊や教会、ハンガリー最古の古文書などがぎっしりと並ぶ古文書館など、見どころが満載です。ここでは、さまざまな歴史を乗り越えながらも、1000年以上にわたりベネディクト派修道士たちによってワイン造りの伝統が受け継がれてきました。

屋外でワインの試飲を楽しむこともできる 🄫駐日ハンガリー大使館観光室
屋外でワインの試飲を楽しむこともできる 🄫駐日ハンガリー大使館観光室

現在、50ヘクタールの畑でオラスリズリングやピノ・ノワール、ソービニヨンブランなど栽培。なかでも「パンノンハルマ・リズリング」として知られる土着白ブドウ「ライナイ・リズリング」から造る白ワインは評判で、ハプスブルグ家のマリアテレジア女王も好んで飲んだ、といわれています。21世紀になって再建されたワイナリーでは、セラー見学や試飲ができ、併設のレストランでワインとのペアリングを楽しむこともできます。

さらに興味があれば、市内にある修道院博物館へ。パンノンハルマ修道院に関するさまざまな史料を公開していて、修道院とワインの関わりや歴史、その独特な醸造方法などが学べます。

・URL:https://apatsagipinceszet.hu/pannonia-szoloskertje/

■アクセス:ブダペスト東駅から鉄道で1時間20分のGyór下車、駅前のBTでPannonhalma vár föapu行きバスに乗り換え約45分の終点下車

■ハンガリーの観光情報
・URL:http://www.hungarytabi.jp/index2.htm

■写真提供:ハンガリー観光庁、駐日ハンガリー大使館観光室、©iStock(*)
※当記事は、2023年11月10日現在のものです

TEXT:竹内あや

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筆者

地球の歩き方観光マーケティング事業部

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