岸田首相襲撃事件から海外渡航を考える

公開日 : 2023年05月18日
最終更新 :

岸田首相を狙った襲撃未遂テロ事件が、和歌山県で発生しました。応援演説で和歌山市にある漁港を訪れた岸田首相が演説を始めようとした際、男が突然岸田首相の背後からパイプ爆弾物を投げ込みました。地元警察は兵庫県に住む24歳の容疑者を威力業務妨害の疑いでその場で逮捕しました。2022年7月には安倍首相が奈良で銃殺される事件もあだ記憶に新しいことから、世間に大きな衝撃を与えました。2023年5月には広島でG7サミットの開催が予定されていることから、今後の動向が懸念されています。

世界中どこでも起こりうるテロ事件

このようなテロ事件は日本では多くないものの、世界では欧米やアジア、中東やアフリカなど各地で頻繁に発生しています。たとえば、2011年7月に発生したノルウェー連続テロ事件は、77人の死者と合計300人以上の負傷者が出た痛ましい事件でした。実行犯のアンネシュ・ブレイビクはイスラム主義から自国を防衛するのは使命であると感じ、異文化へ寛容な政策を採り続けるノルウェー政府に不快感を抱き、政府庁舎を狙ったと動機を語っています。

また、2019年3月には、ニュージーランドのクライストチャーチでイスラム教礼拝所を狙った銃乱射テロ事件が発生し、実行犯のブレントン・タラントは、犯行前にネット上で欧米世界からイスラム教徒など移民難民を排除しようとの主張を展開し、移民・難民へ寛容なドイツのメルケル元首相やサディク・カーンロンドン市長を敵視し、トランプ前大統領を白人至上主義のシンボルなどと褒めたたえました。

ノルウェーやニュージーランドといえば極めて治安がいいイメージがありますが、そういった国々でも政府や政治家などを狙ったテロ事件が起こっているのです。2024年には米国で大統領選が行われますが、今でもトランプ人気は健在で、一部の暴力的なトランプ主義者によって、2021年1月の米国国会議事堂襲撃事件の再来も懸念されています。

テロの標的になりうる場所になるべく近づかず滞在時間を短くする

海外渡航において、そういったテロには巻き込まれないためにはどうすればいいのでしょうか。

まず、訪れる国の大統領府や外務省、国防省などの政府機関、またテロ組織と衝突する軍の庁舎や基地、警察署や派出所などには長居しない、必要以上に近づかないことが求められます。最近アフリカのスーダンで政府と反政府の間で衝突がエスカレートしていますが、海外には政府と反政府の紛争が常態化している国も少なくありません。そういった国々では政府機関や軍警察機関はテロ組織の標的になりますので、常に避けるという心構えをしていた方がいいでしょう。

2番目に重要なこととしては、常に最新の情報を入手するということです。各国の政治情勢や治安情勢は流動的に変化しますので、それによって政治リスクも変わり、テロ発生の危険度も変わってきます。2021年2月にはミャンマーで軍事クーデターが発生しましたが、たった1日でミャンマーを巡る政治リスクは大きく悪化しました。こういった政府や政治家を狙ったテロ事件は、選挙がひとつのターニングポイントになります。
6月に大統領選がある、7月に国会議員選挙があるなどは現地の新聞やネットから入手可能であり、そういった情報を事前に知っておけば、この期間の渡航は控えよう、海外拠点を持つ企業の視点からすれば、この期間駐在員はテレワークにさせようなど事前に対策を講じることができ、こういった事件に巻き込まれる可能性を低くすることができます。世界的な物価高によって、今日世界では政府への抗議デモや暴動が各地で見られます。今後も、大統領や首相、政治家などを狙った暴力が発生するリスクは十分にありますので、事前に情報を入手することが望まれます。

筆者

地政学リスクの視点から海外渡航、海外危機管理を考える特派員

ピエール・プロバンス

これまでに訪れた国は30か国程度。海外の外交官やジャーナリスト、研究者などと強い人脈を持つ

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