[スコットランド]スコティッシュエールの老舗「ベルヘーブン醸造所(Belhaven Brewery)」

公開日 : 2023年09月10日
最終更新 :

暑い日本でビールといえば、キンキンに冷えた喉越しが軽いラガービールが主流ですが、寒い国英国で主流のビールは「エール」と呼ばれるダーク(濃い色の)ビールです。
エールはその名の通り赤褐色の濃い色をしており、「ヘッド」と呼ばれる泡のキメがとても細かくてクリーミーな、弱炭酸のビールです。このエールをキンキンに冷やすことなくパイント(約500ml)グラスに注ぎ、おつまみを食べることなくちびちび少しずつ飲む。しかも立ったまま。これが英国における「飲み」スタイルでしょうか。

実は私もエールの大ファンです。エールは醸造所によって味に違いがあり、その地の地エールの味の違いを飲み比べするのも楽しみのひとつです。
個人的な好みの話になりますが、エールにはフルーティーで芳醇な香りが強いものが多いんです。口に含んだ瞬間、まずフルーティーさと甘みが口の中いっぱいに広がり、飲み込んだ後に深い苦味がくる。このようなエールも確かに美味しいのですが、食事と共に飲みたいときには、その独特な味わいが強すぎることがあります。
そんなときにおすすめのエールが「ベルヘーブンベスト(Belhaven Best)」です。このエールを初めて飲んだ時、「見つけた!」と思いました。エール特有の風味と微炭酸、そしてキメの細かいヘッドはそのまま。だけどフルーティーすぎず、甘すぎず、後味の苦味が強すぎない。まさに食事と共に飲むにはぴったりなエールです。
以来このベルヘーブンベストは私のスコットランドで一番お気に入りのエールとなり、現在もずっと愛飲しています。
今回はエジンバラから40分ほど東に行ったところにある「ベルヘーブン醸造所(Belhaven Brewery)」を訪問してきました。この記事では英国エールの歴史も含めて皆さんに紹介していきたいと思います。

Brewery(醸造所)とDistillery(蒸留所)

まずこの記事を書くにあたり、酒類の製造所にはBrewery(醸造所)とDistillery(蒸留所)の2種類があることを知りました。何がどう違うのだろうか。そう思って調べてみるとなかなか興味深い事実を知りました。

スコットランドといえばスコッチウイスキーが有名で、私もこれまで何度かスコッチウィスキーの製造所についての記事も書いてきました。実はウイスキーの場合、製造所のことを「Distillery」と呼びます。これはタイトルに書いたように「蒸留所」という意味であり、ウイスキーを製造する過程を表しています。
一方ビールの製造所は「Brewery」です。これは日本語では「醸造所」となり、こちらもまたビール(エール)を製造する過程を意味しています。「醸造」というのは、食品材料を微生物や酵母の働きによって発酵させ、さらに熟成させること。つまり味噌や醤油、ワインなどは「醸造」ですね。

実はウイスキーもビール(エール)も原料は同じで、麦(麦芽)、ホップ、水です。ただその製造過程が違っていて、原料を混ぜ合わせて発酵させたもの(醸造)がビール(エール)。醸造後さらに火にかけて蒸留させ、一旦気化したアルコール分を液体に戻した後に熟成させたものがウイスキーです。
同じ原料でも製造過程によって完成が全く違ったものになる、というのはなかなか興味深いところです。

ラガーとエール

さて、更に深めてみます。同じビールの中でもラガーとエールの違いは何か、ということです。その大きな違いは発酵方法なのだそうです。
ラガーというのは下面発酵で、発酵が進むと酵母がタンクの底に沈んでいきます。発酵温度は5度前後の低温で、発酵時間も1週間から10日ほど(その後の熟成期間が1か月)、と長くかかりますが、低温で発酵させるために雑菌が繁殖しにくく、大量生産がしやすいという利点があります。
一方エールは上面発酵。発酵が進むと酵母が浮き上がっていきます。発酵温度は常温かやや高め。発酵時間は3~4日(その後の熟成期間は2週間)と短い。上面発酵のエールの方が歴史的には古いのですが、品質管理が難しく、大量生産には不向きです。
ちなみにギネスとして知られる黒いエールは「スタウト(stout)」と呼ばれ、原料である大麦をローストする、という過程を加えることで、あの独特な色と風味が出るそうです。

スコットランドのエール醸造の歴史とベルヘーブン醸造所(Belhaven Brewery)

スコットランドのエールの歴史は古く、なんと5000年前にはエールが製造されていたという記録が残っているそうです。しかし本格的に醸造され始めたのは16世紀ごろ。主に修道院にて女性たちがエールの醸造に携わっていました。1707年にイギリスがスコットランドを統一することが決められた連合法の後に酒税が課せられるのですが、スコットランドにおいてはビールに対する課税がイギリスよりも低かったので、エジンバラを中心に多くのビール醸造所が造られました。
18世紀にはスコットランドのビール醸造は更に盛んになり、その醸造規模は世界最大に匹敵するようになりました。スコットランド産のビールは特にアメリカで愛飲されていたそうです。

エジンバラから東海岸に向かって40分ほど行くと、小さな町ダンバー(Dunbar)があります。ベルヘーブン醸造所がこの地に開設されたのは1719年のこと。第二次大戦後、スコットランドの数々のビール醸造所が閉鎖を余儀なくされる中で、この醸造所はビールの製造を続け、現在ではスコットランドで最も古いビール醸造所となっています。
この醸造所では毎日ツアーが行われています。ツアーは1時間半から2時間ほどで工場内の見学やビール醸造の歴史を体験した後、できたてのビールを何種類でも味わえる工場内のバーに行くことができます。ツアー料金は一人15ポンドですが工場内のバーでのテイスティングは無料なので大変お得。ここでしか味わえない、できたての新鮮なビールを何種類もテイスティングできるので、時間がある方はぜひツアーに参加してみてください。

時間がない方は、工場入り口横にショップがあります。このショップではこの醸造所で製造されているすべての種類のビールや、関連商品を購入することができます。小物類もとてもかわいらしく、スタッフもとても親切です。

  • 名称| BELHAVEN BREWERY
  • 住所| Belhaven, Dunbar, EH42 1PE, Scotland
  • 電話番号| +44 01368 862734
  • 工場見学ツアー| 月から金 10時15分または14時30分、土曜日は10時15分のみ。要予約。
  •          ツアーには1時間半から2時間かかります。 料金は一人15ポンド。
醸造所の入り口。建物にも歴史を感じます。
醸造所の入り口。建物にも歴史を感じます。
ショップではビールを市場より安く購入することができます。
ショップではビールを市場より安く購入することができます。
関連グッズもかわいい
関連グッズもかわいい

ベルヘーブン醸造所のエール3種

おすすめエール3種
おすすめエール3種

まずは私のお気に入り。ベルヘーブンベスト(Belhaven Best)です。この褐色が美しいエールは、クリーミーでキメの細かいヘッドが特徴です。アルコール度数がなんと3.2%と低く、あっさりと飲みやすいのと同時にどっしりとした存在感があります。
スコットランドでは多くのバーで生(ドラフト)のベルヘーブンベストが味わえる他、スーパーマーケットでも簡単に購入することができます。

褐色が美しい。キメの細かいクリーミーなヘッドが美味しい「ベスト」
褐色が美しい。キメの細かいクリーミーなヘッドが美味しい「ベスト」

そして驚いたのがこのブラック(Black)です。このタイプの黒ビールといえば、誰もが思い浮かべるのがアイルランド産のギネス(Guinness)だと思います。実は私もギネスのファンで、黒ビールと言えば「ギネス」と即答するほど、ギネス以外の黒ビールはあり得ないと思っていました。
ところが初めて生のベルヘーブンブラックを飲んで驚きました。とにかくとてもスムーズなんです。ヘッドのクリーミーさ、黒独特の味の深さはそのまま、癖(個性)を抑えていて飲みやすい。これは上記のベルヘーブンベストと同様の感覚です。食事と共に飲むなら、このブラックがギネスを超えるかもしれない、と個人的に思っています。
アルコール度は4.2%です。

ギネスを超えた(かもしれない。)ブラック
ギネスを超えた(かもしれない。)ブラック

そしてこのユニークなスタウト(Stout)がマックカラムスイート(McCallum's Sweet Stout)です。
色はこんなに真っ黒で、ヘッドのクリーミーさもキメの細かさもそのまま。ただ味が甘い、デザートビールです。
口に含んだ瞬間は甘みが広がります。飲み込んだ後にスタウト特有の香ばしさと苦味がやってきて、かなり興味深いビールです。これは個性が強いので、食事と共に、ではなく、食後にまたはこのビールだけ、ゆっくり味わう方がいいような気がします。アルコール度は4.1%。

エールとしては珍しい。甘いデザートエール。
エールとしては珍しい。甘いデザートエール。

今回はスコットランドで最も古いビール醸造所「ベルヘーブン醸造所」を、エールの製造方法や歴史も交えて紹介してきました。この醸造所があるダンバー(Dunbar)という東海岸沿いの町も、歴史が古く大変興味深い場所です。エジンバラからバスや電車も出ていますので、小旅行がてら海沿いの町を訪れてみるのもいいですね。
潮風に吹かれながらゆっくり飲むスコティッシュエールは最高です。ぜひ足を延ばしてみてください。

筆者

イギリス特派員

ベイトマン明子

2023年に引っ越してきたばかりのスコットランドのあちこちを訪れ、皆様に報告できることを楽しみにしています。

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