映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』原作・脚本のレイチェル・ジョイスさんに映画の見どころをインタビュー

公開日 : 2024年06月07日
最終更新 :

2024年6月7日に公開の映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』。原作はベストセラー小説『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』、そしてイギリスを代表する俳優ジム・ブロードベントが主演を務める話題作です。今回は、小説の原作者であり本作が初の映画脚本となったレイチェル・ジョイスさんに本作の見どころなどをインタビューしました!

あらすじ

ハロルドは手紙の返事を書き始めるが…
© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022 ハロルドは手紙の返事を書き始めるが…

イギリスのキングスブリッジに住むハロルド・フライは、定年退職して妻のモーリーンと平凡な生活を送っていました。そんなある日、かつての同僚クイーニーから一通の手紙が届きます。そこには、彼女は今べリック・アポン・ツイードのホスピスに入院中で、がんにより余命がわずかであることが書かれていました。
ハロルドは手紙の返事を送るために近くのポストまで歩きはじめますが、ある言葉をきっかけに彼は思い立ち、べリック・アポン・ツイードを目指して歩き始めます。彼には、クイーニーにどうしても会って伝えたい“ある想い”があったのです。
目的地まではおよそ800km。彼の無謀な試みは、やがてイギリス中を巻き込んだ壮大な旅路となっていきます。

早速インタビュー!

インタビューにお答えいただいたのは、原作・脚本のレイチェル・ジョイスさん

レイチェル・ジョイス
© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022 レイチェル・ジョイス

イギリス生まれ。俳優として、TV、ラジオ、舞台などで活躍し、2007年には英国で優れたラジオドラマに与えられるティニスウッド賞を受賞。本作の原作である「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅」で小説家デビューを果たし、2012年に英国文学界最高峰の賞であるマン・ブッカー賞にノミネート。さらに同年、ナショナル・ブック・アワード新人賞を受賞。2014年には英国年間最優秀作家賞の最終候補者にも選ばれた。その他の著書は、ハロルド・フライを待っていたクウィーニーを主人公にした、「ハロルド・フライを待ちながら クウィーニー・ヘネシーの愛の歌」と、妻モーリーンを主人公にした「Maureen Fry and the Angel of the North」(原題・未翻訳)など。自ら脚色した本作が初の映画脚本となる。

Q.はじめに、この作品のテーマを教えてください。

メインテーマとしてはいくつかあります。「歩く」という部分で直接関係しているのは、自分の慣れ親しんだものを後にすることで何が起きるのか?ということ。つまり、慣れ親しんだ世界にずっといると「こういう風にしか世界を見たことがなかった」あるいは「こういう感情しか経験したことがなかった」という状態になってしまうと思いますが、そこから歩き出すことで何かが起こったり感じたりすることがあるとすれば、それは一体何なのだろう?ということです。

また、実は歩きはじめることがいかに簡単か、そして歩こうと思ったときにそれをコミットすることがいかに簡単か、ということもテーマのひとつです。歩くことで外面だけでなく内面もまた変わっていきますが、それは見知らぬ場所で見知らぬ人たちとの出会いがあったり、その人たちと関係を築いていったりするからです。

Q.本作を通して、最も思い入れのあるセリフや、映像化するうえでこれだけは外せないセリフはありますか?

映画の脚本を書くとき、とくに原作を手がけている場合は、書いてあるものを大事にしすぎてはいけないと考えています。作品を単体で見たときに映画として成立していないといけないので、どんなに思い入れがあっても映画として成立しないのなら手放さなければならないと思っています。そういう意味では、これだけは外せないというセリフはなく、脚本を執筆しながら発見を楽しんでいったという感じです。

ただ、ひとつだけ、原作にはあるのですが映画に入れられなくて残念だと思ったのは、物語後半でモーリーンがハロルドに言った、「未知なるものを理解しようとしないのであれば、もう希望がないわよね」というセリフ。映画の尺や状況的にどうしても入れられなかったのですが、原作にはあるのでぜひ読んでみてくださいね。

ハロルドの妻のモーリーン
© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022 ハロルドの妻のモーリーン

Q.なぜ旅を題材にしようと考えたのですか?

「旅」というのはストーリーテラーとして素晴らしい仕掛けです。家からキャラクターを外に出せば変化が起こり得るので、そこから物語を作っていけるというのもあります。だけれどこの物語に関しては、原作タイトルに「巡礼」という言葉が入っているように、現代的なデモ…つまり宗教ではない巡礼とはどんなものなのだろう?というところから構想をスタートさせました。ハロルドは教会に足しげく通うような信心深い人物ではないけれど、宗教ではないところでの精神的なつながりが、彼の旅においてどんな役割を果たすのか?ということを考えました。

また、小説を書いたのは私の父ががんで余命宣告を受けたタイミングでもあり、人を死により失ってしまうことに対してどう向き合っていくのか、絶対に失いたくないものを失わなければならないときにどう気持ちと向き合うのか、ということを考えながら執筆していました。

© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022
© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

Q.映画では、草原が広がる美しい大地が印象的でした。小説で描かれた風景を映像化するときに、監督と共有したことはありますか?

ハロルドは未知なる道を歩いていくことになるので、その結果、外国の方が慣れ親しんでいないイギリスの風景が出てきたのではないかと思います。でも、あえて映画に出てきたような景色を紹介したいと強く思っていたわけではなく、ストーリーに忠実であった結果なのです。それはハロルドが普通の人間で、あまり歩いたことがなく、物事を直線的に考えていった結果として、あまり人が歩かないような道を彼は進んでしまったのです。

美しい丘陵を歩くハロルド
© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022 美しい丘陵を歩くハロルド

風景に関しては、できるだけ監督と話をして、イギリスらしいけど多種多様なイギリスの側面も描きたいという風には決めていました。ロンドンのような大都市が登場しないのは、ハロルドがそういうところに立ち寄る姿を想像できなかったから。どちらかというと、普通の、日常のイギリスを皆さんにお見せしたいと思っていました。美しい丘陵もイギリスらしい景色なのですが、例えば郊外に設置されている郵便ポストの色がはっきりしているところなんかも美しかったなと感じてほしい…つまり普通の生活のなかの美しさが際立っていればうれしいと思います。

Q.映画に登場した場所で、私たち日本人にぜひ訪れてみてほしいところがあれば教えてください。

紹介したいところはたくさんありますよ。ハロルドの旅の始まりは、南西部のデボンという町。ここは非常に緑が多く美しい丘陵地帯なので、おすすめです。グロスターシャーも緑が多く、石造りの建物の色が黄色っぽい色を帯びていて美しいので、ぜひ訪れていただきたいところです。また、ハロルドが途中で立ち寄るバースは比較的観光客が多いところで、ジョージア時代の美しいテラスや道のりがたくさんあって魅力ですよ。ジェイン・オースティンという小説家がバースを舞台にした小説を書いたところなので、いろんな方が訪れます。

Q.映画では光の描写がとても印象的でした。小説で描かれていたハロルドの心情などが映画では光で表現されているように感じました。

光に言及されたのはとても興味深いと思います。実は、光については脚本でも触れていて、読んだ方がちょっと驚くくらいに「こういう場面ではこのような光で」というように具体的に光の演出について書きました。今回は素晴らしい照明チームに恵まれて、それが再現されていました。

光については原作にも書いてあるのですが、映画だからこそよりワクワクすることがあるのではないかと思います。映画で光が使われている瞬間というのは、ハロルド自身やハロルドが見ているものの気持ちが反映されている場面で、マジカルな、心が歌うような、気持ちが高まるような瞬間を反映しているところです。それを光で表現することができたと思います。光の表現は、しっかりとプランニングしましたね。
映画では、明るい光だけでなく、暗い光や濡れた感じの光なんかも表現されていますが、すべてはハロルドの気持ちやそのときの観客の気持ちを反映させるためのものです。

© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

Q.本作は、原作の物語が忠実に描かれているだけでなく、映像から想像をかきたてることが多くあると感じました。

私が伝えたかったことはとてもよく反映されていますし、それは本当に素晴らしい制作チームに恵まれた結果だと思っています。最初からチーム全員が原作に忠実に描こうと動いてくれました。できあがった作品は、美しくて品格があり、素晴らしい演者と美しい景色に恵まれました。原作に忠実で、真実に迫った物語になっています。とても幸運なことだと思いますし、これはひとつの贈り物だったのだと感じています。

© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』概要

原作・脚本のレイチェル・ジョイスさんへのインタビュー、いかがでしたでしょうか? 『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』は、2024年6月7日から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、他全国で公開中です。ぜひ映画館に足を運んでみてください。

© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022
タイトル
『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』
コピーライト
© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022
配給
松竹
公開日
6月7日(金)
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋 他全国公開

映画をより楽しむための一冊

本作では、観光地を巡るだけではわからないイギリスの美しい風景が多く登場します。映画をより楽しむための一冊として、A02 地球の歩き方 イギリス 2024~2025をチェックしてみてください。

筆者

地球の歩き方ウェブ運営チーム

1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』のメディアサイト『地球の歩き方web』を運営しているチームです。世界約50の国と地域、160人以上の国内外の都市のスペシャリスト・特派員が発信する旅の最新情報をお届けします。

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