氷河特急エクセレンス・クラスで楽しむ、一流のサービスと世界遺産の絶景

公開日 : 2022年09月15日
最終更新 :
サンモリッツに向かう氷河特急 @iStock
サンモリッツに向かう氷河特急 @iStock

「世界一遅い特急列車」と異名を持つ、スイスを代表する山岳鉄道、氷河特急。全長291kmを約8時間で走破するため単純計算すると平均速度は40km弱。それでもずっと人気を誇っている観光列車です。トンネルの数91、鉄橋の数291。途中ラックレール(歯車式レール)やループ線を使ってスイスアルプスを横断していきます。全区間の開通は1926年で、氷河特急が運行を開始したのが1930年。蒸気機関車だった時代から現在に至るまで約90年に渡ってスイス観光の主役の座に君臨してきました。現在では年間約25万人の観光客がこのアルプス横断の旅を楽しんでいます。そして2019年、この氷河特急の1等車、2等車に加え、新しい上級クラス、エクセレンス・クラスが誕生しました。それでは今回はエクセレンス・クラスの楽しみ方をご紹介しましょう。

ツェルマット駅からエクセレンス・クラスに乗車

ツェルマット駅からエクセレンス・クラスに乗車
赤色が特徴的な氷河特急の車両 @iStock

氷河特急は、スイス東部にあるグラウビュンデン州サンモリッツと、南部のヴァレー州ツェルマットを結んでいます。エクセレンス・クラスは、サンモリッツとツェルマットどちらからも乗車でき、サービスは同じ。1日に1両だけ通常の氷河特急に連結されてそれぞれ出発します。

さて今回はツェルマットから出発しましょう。出発時刻の30分程前に氷河特急は入線。いつもは静かなツェルマット駅ですが、氷河特急が出発する時刻だけは長距離の旅行客が集まり華やかな雰囲気に包まれます。ツェルマット発の場合、エクセレンス・クラスは一番先頭の車両です。6両編成の一番後ろから2等車、キッチンカー、1等車……と編成全体を眺めるように歩いてホーム一番前の車両へ。そこには赤い絨毯が敷かれたエクセレンス・クラス専用デスクが設けられ、担当のコンシェルジュがにこやかな笑顔でお客様をお待ちしています。

この日は満席のため、2名のコンシェルジュが担当。座席指定券を見せていざ乗車です。スーツケースなどの大きな荷物は、コンシェルジュや駅スタッフが積み込むので手荷物だけで持って乗り込みます。もしコンシェルジュと列車をバックに記念撮影を希望するならこの時がチャンス。列車が出発してしまうとコンシェルジュは業務に忙しくなるので、なかなかシャッターチャンスが訪れないのです。

自動ドアが開いて車内へ入ると、まず驚くのがその空間の広さ。従来の氷河特急に比べるとそのゆったり感は比べものになりません。一両の座席数は2等車で48席、1等車で36席、そしてこのエクセレンス・クラスは20席です。

車内にはテーブルを挟んで向かい合わせの座席が通路の両側に1列1列と配置されています。つまり、全席が窓側となっています。座席は電動のリクライニングシート。車両の端には専用のバーカウンターまで設けられています。旅の途中でのちょっとした息抜きや、知り合いと会話するスペースとして利用できます。もちろん、特別なドリンクをオーダーすることも可能。また、乗降口の窓は開閉式なので、窓ガラスに邪魔されずに風景を撮影することもできます。そしてこの車両は、ほかのクラスの乗客の立ち入りや見学などは禁止されており、トイレも専用になっています。そのため、喧噪もなく、時刻が訪れると静かに列車は出発していきます。

エクセレンス・クラスのサービス内容は?

エクセレンス・クラスのサービス内容は?
スイスの雄大な景色を眺めながら進む @iStock

発車後はすぐにおしぼりとウェルカムドリンクが提供されます。ウェルカムドリンクは、シャンパンやワイン、ソフトドリンクなどから選ぶことができます。名前を書くようにシートが渡されるのは乗車証明書作成のため。のちほどコンシェルジュの名前と日付と一緒にサインされ乗車記念として配られます。座席にはiPadがひとり1台設置されており、走行中の場所に加えて、沿線の見どころや情報などをチェックすることができます。言語は日本語が選択可能なので安心です。

沿線案内は合計20か所以上あり、各所かなり詳しく紹介されているほか、イヤフォンを持参すれば日本語の音声でも楽しむことができます。そのほかiPadにはスイスの音楽チャンネルやみやげ物紹介コーナー、食事の案内などもあります。もちろん車内ではWi-Fiも繋がりますが、トンネルや山間部では電波状態が不安定になることも。

さて、フィスパー川に沿って走るツェルマットからブリークの間の約2時間で、先ほどのウェルカムドリンクと前菜のサービスがあります。コンシェルジュが気さくに話しかけてきてすぐに乗客と打ち解けた雰囲気に。この先、終点までに全7品のコース料理が用意されているので期待に胸が膨らみます。
交通の要所、ブリークを出発してからいよいよ本格的に食事のサービスが始まります。コンシェルジュは2両離れたキッチンカーからできたての食事を1皿1皿運んできます。聞いてみると、コンシェルジュは1回の乗務で歩数は2万歩を超えるとか。揺れる車内での往復はなかなかの重労働です。

前菜、魚料理とすすみ、3皿目はスープ。温かいスープをその場でポットから注ぐ演出もあります。食事と共に提供されるカップリングのワインは料金込み。白も赤もデザートワインも、地元産を中心にセレクトされています。スイスワインは日本でなかなか入手できないので、この機会に楽しんでおきたいところ。このほか、飲み物はバーコーナーにも特別なものが用意されています。フランス産の高級ワインをはじめ、ウィスキーやウォッカ、さまざまなカクテルもコンシェルジュに頼めば作ってもらえます。日本酒も置かれていますが、これらは別料金。別料金のものは、下車する際にまとめて清算します。

ブリークからローヌ渓谷に沿って走り、全長約15kmの新フルカトンネルを通過するとやがて列車は中間地点のアンデルマットへ到着します。1等車や2等車の乗客はここで入れ替わる場合もありますが、エクセレンス・クラスは全線乗車が原則。サンモリッツから乗車した場合に下車できるのはブリークか終点のツェルマット、またはその間。ツェルマットから乗車の場合にはクールか終点のサンモリッツ、またはその間の停車駅となっています。それ以外の途中駅での乗降になると食事やサービスが完結しない、というのが理由のようです。

大規模なリゾート開発が行われているアンデルマットを出発すると、コースは後半に差しかかります。ここからメインの肉料理が提供されます。沿線の標高最高地点、2033mのオーバーアルプパス・ヘーエを通過。今度はライン川の源流に沿って下りに差しかかかります。ゼドルン駅を通過し、少し先の小さなムンペ・トゥイェッチ駅では氷河特急のすれ違いのため少し停車。ここですれ違う氷河特急にはツェルマットへ向かうエクセレンス・クラスが連結されており、乗客同士が手を振り合ってあいさつします。

さらに進み、少し谷が開けたディセンティスでは今度は機関車付け替えのためしばらく停車。氷河特急の運行会社もMGB(マッターホルン・ゴッタルド鉄道)からRhB(レーティッシュ鉄道)へと替わります。約15分停車の間、窓の外にはエクセレンス・クラス見学の人だかりが。ちょっと優越感にひたれる瞬間です。

氷河特急から楽しむ世界遺産の風景

氷河特急から楽しむ世界遺産の風景
フィリズール駅を通過し、アルブラ線へと入る氷河特急 @iStock

コース料理は終盤のチーズ、デザートに入り、平行して流れるライン川もすっかり水量を増し、スイスのグランド・キャニオンといわれる景色を楽しんでいると間もなくクール駅に到着します。チューリヒ方面へ行くスイス国鉄への乗換駅でかなり大勢の乗客が降りていきます。エクセレンス・クラスの乗客もここで降りることは可能ですが、最後のアフタヌーンティーと世界遺産の沿線風景も楽しみたいので、今回はサンモリッツまで乗車します。クール駅でしばらく停車したあと、氷河特急は進行方向を変え、2時間かけてサンモリッツへ向かいます。約30分でフィリズール駅を通過。ここから先は、2008年に世界鉄道遺産に認定されたアルブラ線に入ります。

5つの橋脚とアーチが美しい石造りのランドバッサー橋 @iStock
5つの橋脚とアーチが美しい石造りのランドバッサー橋 @iStock

アルブラ線とそれに続くベルニナ線が世界遺産に認定されたのは、「アルプスの雄大な大自然を壊すことなく切り開いた当時の最先端の鉄道技術。そして、その鉄道と見事に共存した美しい景観が現在でも残されている」という理由です。アルブラ線に入ると、絶景区間が続きます。車内では最後のアフタヌーンティーの準備が行われ、お茶菓子とコーヒーまたは紅茶のサービス。やがて列車は氷河特急で一番の見どころ、スイスの観光ポスターにもよく使われるランドバッサー橋に差しかかります。ここではコンシェルジュも手を止めて、見どころを直接乗客に案内してくれます。プレダのループ線も通り過ぎ、アルブラトンネルを抜けるとアルプスの南側、陽光まぶしいオーバーエンガディン地方へ入っていきます。ここまで来ると終点のサンモリッツはすぐそこ。乗車記念のおみやげをコンシェルジュから受け取り、最後の挨拶と言葉を交わします。ベルニナ線への乗換駅、サメダンを出発し小さなトンネルを抜けると列車はスイス屈指の高級リゾート、終点のサンモリッツ駅に到着します。

終わりに

終わりに

2019年に誕生し、同年にスイスの革新的な観光プロジェクトや業者、自治体に与えられる「マイル・ストーン賞」をいきなり受賞した氷河特急エクセレンス・クラス。乗車してみると、サービスも景色もすばらしくあっという間の8時間です。氷河特急のホームページや欧州の鉄道予約サイト、旅行会社で簡単に予約できます。まだ体験したことがない方は、ぜひ次回のスイス旅行の予定に組み込んではいかがでしょう。

(こちらの記事は、2022年の運行状況およびサービスをもとに作成しています。乗車区間やダイヤ、サービスの改定等により内容が異なってくる場合があります。)

※当記事は、2022年9月15日現在のものです

TEXT: ねもとかずや/地球の歩き方編集部

〈地球の歩き方編集室よりお願い〉
2022年9月15日現在、国によってはいまだ観光目的の渡航が難しい状況です。『地球の歩き方 ニュース&レポート』では、近い将来に旅したい場所として世界の観光記事を発信しています。渡航についての最新情報は下記などを参考に必ず各自でご確認ください。
◎外務省海外安全ホームページ
・URL: https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html
◎厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について
・URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
旅したい場所の情報を入手して準備をととのえ、新型コロナウイルス収束後はぜひお出かけください。安心して旅に出られる日が一日も早く来ることを心より願っています。

筆者

地球の歩き方ウェブ運営チーム

1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』のメディアサイト『地球の歩き方web』を運営しているチームです。世界約50の国と地域、160人以上の国内外の都市のスペシャリスト・特派員が発信する旅の最新情報をお届けします。

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。