S.Pellegrino Young Chef 2017 東南アジア地区予選へ!
今年で3年目を迎えるS.Pellegrino Young Chef 2017。
30歳以下の若手シェフの世界一を決める大会で、世界を21の地区に分けて、各地域から一名の代表が選ばれます。出願者はALMA(The World's Leading International Educational and Training Centre for Italian Cuisine)によって、書類選考で各地域最大10人にまで絞り込まれ、セミファイナルと呼ばれる地区予選で、世界大会に出場する合計21人の地域代表を選ぶという形です。
日程は地域ごとに異なりますが、10月23日にシンガポールで行われた東南アジア地区予選の様子をご紹介します!
会場となったのは、シンガポール東部パヤレバのAsia Culinary Insutituteでは、 仕込みに使える時間は合計5時間、最初にプレゼンテーションを行うシェフは9時から、それぞれのスタート時間に合わせて、10人のシェフが仕込みをスタートさせました。
そして、5人の審査員も仕込みの様子をチェック。作っている途中の段階の味見をしたり、素材について質問をしたりと、審査の参考となる事前情報を集めます。
中でも、他のシェフと際立って違った動きを見せていたと感じたのが、今回優勝したJake Kellieシェフ。
薪を使って焼き上げる肉が有名なBunrt Endsのヘッドシェフです。開始早々に目立っていたのは、すごいスピードで生地を練っていたのと、スープ用の大量の鳥の手羽先をローストしていた姿。また、1つ1つの動きがとても早く、神経を研ぎ澄ませて集中している様子が印象的でした。
それぞれの候補者たちが順番にプレゼンテーションをスタート。
最終的に、審査は「食材、技術、才能、美、メッセージ」という観点から得点を入れていきます。
審査員の中でも最年長のWaku Ghinの和久田シェフからは、どのように火を入れたか、の質問が多く出てきていて、「低温調理器を使っている」と答えたシェフには、「低温調理器がなかったらこの食材ならどのように調理をするのか」という質問も。あとでお聞きすると、「火入れは自分たちの料理の要。料理を作る時に低温調理器を使うことが問題なのではなく、それがない場合にどのように調理をするのか知っていることが大切」ということでした。想定外のことが起きるのが実際の厨房、何かあった時の瞬発力は重要、とも考えているそうです。
また、和久田シェフからは、提供温度についてのコメントも多く聞かれました。肉ならもっと熱い方が美味しい、厨房から審査会場まで数十メートルの距離があるのはわかっているのだから、途中でぬるくなってしまうのは折り込み済みのはず。なぜもっと皿をもっと高い温度で温めて置かないのか、など、実際に食べる側の視点に立ったコメントも印象的でした。
また、Amber のRichard Ekkebusシェフからは、この料理で表現したいものは何か、というストーリーに関わる質問が多かった印象です。以前にインタビューした時に、「料理というのは自分のストーリー、どう伝えるかは自由」と語っていたRichard シェフらしいと感じました。
MinglesのMingoo シェフからは、味のバランスに関するコメントが多く、それぞれの審査員がどんな見方で料理を分析しているのかを通して、自身の料理へのアプローチも知ることができた気がして、とても興味深かったです。
その他にも、多く聞かれたのは、料理そのものの出来。コンテストの審査員として招かれることも多い和久田シェフに採点基準についてお聞きすると、「料理に対する姿勢と味を見るが、コンテストでは究極の意味では味だけを見る」とコメントが。韓国料理のバーベキューをイメージしたという料理には、Richardシェフから「バーベキューという名前からは、バーベキューのスモークの香り、肉の表面で油がジュージュー言っているものを期待する、スモークの香りが感じられないし、バーベキューの熱々の良さもない。プレゼンテーションも料理の楽しみの1つだが、本当に美味しいバーベキューの要素がそこに含まれていなければ。例え盛り付けがあまり良くなくても、我々審査員が完食してさらに指をなめたくなるような本当に美味しいバーベキューであることの方が大切」と、料理の本質をもっと見るように促す、厳しくも温かいコメントが。
10人の候補者を見ていて、自作の器や、地域の特色溢れる珍しい器を使うなど、インパクトあるプレゼンテーションで臨んだシェフも多かったのですが、印象的だったのは、どの審査員も口を揃えて、料理自体の出来を見ていると語っていたこと。
Gallery Vask のChele Gonzalezシェフも、スペインをルーツに持つシェフらしく、ある候補者のタコの食感に言及。タコは最も処理が難しい食材の1つで、上手に調理しないと固くなってしまう。「タコはしっかり叩いて下処理をするのが肝要。難しければ、皿の中の要素をもっと減らしてもいいから、完璧な皿を作ってほしい」とコメント。
また、料理は表現である以上、タイトルとの整合性も大切。Tete Dining Room のVicky Lauシェフからは、「カリフラワー」という名の一皿に対して、メインの食材はカリフラワーだけでないし、それほど食べた印象もカリフラワーが残らない。別の名前の方がしっくりくるのでは、という質問も飛んでいました。(作ったシェフは、シンプルなタイトルにしよう、と考えていたようです)
5人の審査員が協議して、発表は午後8時30分、Marina Bay Sandsのルーフトップバー、Ce La Viで行われました。
(司会はタイ在住のジャーナリスト、Mason Florenceさん)
優勝したJakeシェフの料理に関して和久田シェフは、「赤身の肉の鳩とビーツという、王道の組み合わせだが、肉の焼き加減もよく、きちんと料理として成り立っていた」、またリチャードシェフは、「自分の出身地、オーストラリアを自信を持って表現しきった」と評価。
全体を通して感じたのは、見た目ではなく、食材の特性を理解して、提供温度を含めてあるべき形、美味しい形で調理し提案できているか、と、料理を通して、伝えたいことを正しく伝えられているか、の2点が最重要視されていると感じたこと。コンペティションではあるものの、美しい料理以前に、料理は味、美味しくあるべき、という審査員からの強いメッセージを感じました。
各地区の代表が出揃い、決勝が行われるのは2018年5月11日〜13日、今回メンターとして選ばれ、Jakeシェフの指導に当たることになったRichardシェフは、「実際に二人で話し合いながらこれからの指導方法を決める」と話していましたが、「アウェイでの厨房に慣れるためにも、一度香港のAmber に来て料理するのもいいかもしれない」と、この後のプランを着々と検討中。
惜しくも敗れたモダンアジア料理、MetaのHan Seok Hyun シェフは、「自分が初めて食べたファインダイニングのレストランは(Richardシェフのレストラン)Amberで、今の自分が一緒に働いているSun Kimヘッドシェフは和久田氏の元で働いていた。Asia's 50 Best Restaurants で韓国トップのMingoo Kan シェフなど、その他のシェフもアジアを代表するトップシェフ。そんな著名なシェフのために料理を作ることができたのは、心から嬉しいし、もらったコメントは目から鱗だった。」また、このイベントを通して、同世代のシェフとの絆ができたといい、「Jakeシェフには、ぜひ世界一の座を取ってほしい」とエールを送っていました。
また、30歳という制限年齢以内であれば、何度でも挑戦できるのがこのS.Pellegrino Young Chefのアワード。今回2度目の挑戦だという、Osteria Art のAndrea De Paolaシェフは、「自分のストーリーの作り方がまだ未熟だったかもしれない、年齢的にもまだ挑戦できる、今度こそ地区代表の座を勝ち取りたい」と、次回への意欲を語っていました。
そして、来年5月の決勝では、誰が王座に輝くのか、今からとても楽しみです!
<DATA>
■ S.Pellegrino Young Chef 2017 Southeast Asia Competition(セミファイナル)
イベント日時:2017年10月23日(終了)
ファイナル:2018年5月11日〜13日、イタリア・ミラノ
URL: https://www.sanpellegrino.com/us/en/news/young-chef
筆者
シンガポール特派員
仲山今日子
趣味は海外秘境旅行、現在約50カ国更新中。
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