【香川県】現代アートの島、直島をめぐる

公開日 : 2023年01月05日
最終更新 :
筆者 : Duke

瀬戸内海に浮かぶ小さな島、「直島」は現代アートの聖地と呼ばれています。そんな直島を自転車でめぐる、小さなアートの旅を紹介します。

おうぎやレンタサイクル
宮浦港周辺には、こうしたレンタサイクル・レンタルバイクのショップがいくつかあります。
おうぎやレンタサイクル
宮浦港周辺には、こうしたレンタサイクル・レンタルバイクのショップがいくつかあります。

直島は一周14㎞とコンパクトな島。レンタカーや町営の路線バスもありますが、天気さえよければ自転車がベストマッチなサイズ感です。荷物を預けると無料でホテルまで運んでもらえるというサービスもありますので、身軽な状態で島内サイクリングに出発できます。島内にはアップダウンも多いので、お勧めは電動アシスト付き自転車です。

地中美術館

地中美術館入口
チケットセンターから美術館に向かう坂道を上ったところに小さな入口があります。
地中美術館入口
チケットセンターから美術館に向かう坂道を上ったところに小さな入口があります。

直島の南半分を右回りにぐるっと回って美術館地区へ。美術館地区へは自転車の乗り入れができませんので、つつじ荘近くの空き地に自転車を止めて、ベネッセミュージアムの無料シャトルバスに乗り換えます。

地中美術館は、クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルと、たった3人のアーティストの作品を恒久展示する一風変わった美術館です。日本を代表する建築家、安藤忠雄氏の設計によって生まれた地中美術館は、瀬戸内の美しい景観を損なわないよう、構造物の大半が地中に埋められた、自然と一体化した造り。地中にありながら自然光が巧みに採り入れられたこの建物自体も、ひとつの芸術作品と言われています。
入場には、日時指定の予約チケットが必要です。

残念ながら、館内は撮影禁止ですので写真はありません。展示数は多くありませんが、どれも深く印象に残る素晴らしい作品でした。地中美術館のHP(https://benesse-artsite.jp/art/chichu.html)をご覧いただければ、雰囲気が少し伝わるのではと思います。
《クロード・モネ》
絵と空間が一体化した部屋に、モネ晩年の『睡蓮』シリーズ5点を展示。やわらかな自然光で観られるよう設計されたこの部屋は、パリ・オランジェリー美術館の『睡蓮』専用展示室、オーバルルームにも似た雰囲気を湛えており、落ち着いてじっくりとモネの世界に浸ることができます。
《ウォルター・デ・マリア》
神殿を思わせる階段状の大空間に、巨大な花崗岩の球体と金箔を施した27体の木彫の柱。大きく開口した天井部から自然光が降りそそぎ、時間とともに空間の表情が変化します。
《ジェームズ・タレル》
人間が「光」をどのように認知し、知覚するかを作品を通じて体験させるジェームズ・タレルの作品3点を展示しています。それぞれに特徴があり不思議な体験でしたが、最も心惹かれたのは『オープン・フィールド』。独特の青い光を放つ四角い壁(実は空洞)に足を踏み入れると、目の前に全く遠近感のない不思議な空間が無限に広がっているような錯覚に陥ります。言葉で伝えるのは難しく、足を運んで体験するしかない作品です。このほか、『アフラム、ペールブルー』や『オープン・スカイ』も印象的でした。

地中の庭
地中の庭

チケットセンターから美術館への道路の脇に設けられた「地中の庭」。モネが晩年を過ごしたジヴェルニーの庭にあった植物をベースに、約200種類の草花や樹々が植えられており、四季折々の表情が見ることができます。

ヴァレー・ギャラリー

谷間の奥に見えるのがヴァレーギャラリー(Valley Gallery)
谷間の奥に見えるのがヴァレーギャラリー(Valley Gallery)

こちらは、昨年3月にオープンしたヴァレーギャラリー。地中美術館から、シャトルバスで5分。歩いても10分程度です。この建物も地中美術館と同じく、安藤忠雄氏の設計による半屋外建築物で、二重の壁で仕切られながらも外界と遮断されておらず、雨や風、光などの自然を感じられる造りとなっています。

草間彌生『ナルシスの庭』
草間彌生『ナルシスの庭』

庭や建物内部に展示されているのは、大量のミラーボールを敷きつめた、草間彌生さん作『ナルシスの庭』。
『ナルシスの庭』は、1966年のヴェネチア・ビエンナーレで発表され、世界的な注目を集めた作品です。
このほか、写真はありませんが小沢剛氏の『スラグブッダ88 ─豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏』も、屋外に恒久展示されています。

李禹煥(リ・ウファン)美術館

こちらは、道路を挟んでヴァレーギャラリーの向かいにある李禹煥(リ・ウファン)美術館。韓国慶尚南道出身の李禹煥氏は国際的に高い評価を得ている現代美術家で、日本を拠点に欧米などで活動する傍ら多摩美術大名誉教授を務めておられます。

『関係項-対話』
『関係項-対話』

黒い鉄板を挟んで二つの石が置かれた『関係項-対話』
手を加えるのは最小限に留め、ほとんど自然な素材を用いるのが、李禹煥アートの特徴だそうです。

『関係項-休息または巨人の杖』
『関係項-休息または巨人の杖』

緩やかな曲線を描く鉄の杖が石の上に置かれた『関係項-休息または巨人の杖』。

『無限門』
『無限門』

全長25m、高さ10m、幅15mの大きなステンレスのアーチと石で構成された『無限門』。アーチの下には同じ大きさのステンレス板が敷かれています。
この作品のお披露目式で李禹煥氏は、「この門をくぐるたびに、空が広く見える、海が爽やかに感じられる、あるいは山が新鮮に映るなど、いろいろな感覚があると思う。そういう意味で『無限門』という名を付けた」と、その名の由来について語られたそうです。

ベネッセハウスミュージアム

瀬戸内海を望む小高い丘の上に建つベネッセハウスミュージアム。「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに安藤忠雄氏が設計した、美術館とホテルが一体となった施設です。

リチャード・ロング『瀬戸内海の流木の円』(1997年)
リチャード・ロング『瀬戸内海の流木の円』(1997年)

リチャード・ロング作『瀬戸内海の流木の円』(1997年)
ロング氏が、直島滞在中に島を歩き、拾い集めた流木を使って、ここベネッセハウス ミュージアムで制作した『瀬戸内海の流木の円』です。

ジェニファー・バートレット『黄色と黒のボート』1985年
ジェニファー・バートレット『黄色と黒のボート』1985年

ジェニファー・バートレット作『黄色と黒のボート』1985年
水辺の風景に描かれた黄色と黒のボート。同じ色のボートが作品の前に置かれています。このボートは、海岸に降りたところにも設置してあります。

ミュージアムカフェの大きな開口部から見える瀬戸内の島々。そんな風景に惹かれてテラスに出てみました。実に穏やかで、のどかな瀬戸内海。たおやかな曲線を描く海岸線もきれいです。

島内散策

アーティストが現地に足を運び、その場所のために制作した作品を"サイトスペシフィック・ワーク"と言いますが、直島にはそんな作品が数多く恒久設置されているのが特徴です。アーティストたちが直島の自然や風景、建築物と向き合い、触発されて生まれた作品。それらを辿るのが、直島めぐりの一番の楽しみと言えるでしょう。
四周を海に囲まれた小さな島を吹き抜ける心地よい潮風。島内には車もそれほど多くないので、自転車での散策は思いのほか快適です。

三島喜美代『もうひとつの再生』
三島喜美代『もうひとつの再生』

三島喜美代さん作『もうひとつの再生』
木々に囲まれた池のほとりに忽然と現れる巨大なゴミ缶。高さは優に3mはあるでしょうか。環境問題に対するメッセージを取り込みながら制作を続ける三島喜美代さんの作品です。

そのすぐ横には『桜の迷宮』。人々が集い、憩いの場になるようにとの願いを込めて、約130本のオオシマザクラの苗木が植えられました。春には見事な景色を見せてくれることでしょう。

交通機関やレンタサイクルもプチアート

町営バス
町営バス

直島の宮浦港から本村を経由してつつじ荘まで走る町営バス。草間彌生さんの黄かぼちゃが描かれた、ポップで可愛らしいバスです。水玉模様のレンタサイクルやレンタカーもありました。

琴弾の浜
琴弾の浜

島の南端で弧を描く砂浜。グーグルマップには、「琴弾地(ごたんぢ)海水浴場」と記載される琴弾の浜です。(写真中央の小高い丘の上の建物はベネッセハウスミュージアム)

崇徳上皇歌碑
崇徳上皇歌碑

……松山や 松のうら風 吹きこして しのびて拾う 恋忘れ貝……
琴弾の浜(つつじ荘敷地内)には、保元の乱に敗れて讃岐国に配流される前、直島にひととき滞在した崇徳上皇の歌碑があります。栄華を極めながら都を追われた上皇は、京の都を偲びながら貝を拾うという傷心の日々を、ここ琴弾の浜で過ごされたのですね。ちなみに「直島」という名は、島民の素直さに感動した崇徳上皇が名付けたと伝えられています。

この浜を西に進むと、小さな桟橋の先端に草間彌生さんの『黄かぼちゃ(作品名:南瓜)』が見えてきます。1994年に直島で開催された「Open Air '94 "Out of Bounds" ―海景の中の現代美術展―」で公開された作品で、宮浦港にある『赤かぼちゃ』と並んで、直島のシンボルといってもよい存在です。
草間彌生さんの『南瓜』はいくつか制作されていますが、直島の黄色いかぼちゃは大きさも最大級で、海の蒼と空の青、木々の緑を背景に際立つ存在感を放っていました。

直島ホール
直島ホール

直島町の市街地、島の東側の本村地区を歩いてみましょう。
総ヒノキ葺きの大きな屋根が印象的な、三分一博志氏の設計による直島ホール。周囲は盛り土され、建物の半分はその中に埋まっているのも珍しい造りです。

石井和紘氏設計の直島町役場はポップでカラフル。「お役所」というイメージを覆すユニークな建築物です。直島の小学校や保育園には、石井さん設計による建物が多いのだそうです。

家プロジェクト

点在していた空き家などを改修し、人が住んでいた頃の時間と記憶を織り込みながら、空間そのものをアーティストが作品化する「家プロジェクト」。1998年、「角屋」から始まり、現在、「角屋」「南寺」「きんざ」「護王神社」「石橋」「碁会所」「はいしゃ」の7軒が公開されています。

ジェームズ・タレル『南寺』
ジェームズ・タレル『南寺』

ジェームズ・タレル氏(地中美術館に恒久展示されるアーティストの一人)の作品を収めた『南寺』。タレル氏の作品サイズにあわせ、安藤忠雄氏の設計で新たに作られた建物です。

かつて歯科医院兼住居であった建物を、アーティスト大竹伸朗氏が作品化した『はいしゃ』。

SANAA(サナア)直島港ターミナル
SANAA(サナア)直島港ターミナル

宮浦港とは反対側、島の東岸にある本村港は、四国汽船の旅客船(岡山・宇野港~本村港)、豊島フェリーの高速船(香川・高松港~本村港)が発着する小さな港。湧き上がる入道雲のような『直島港ターミナル』は、格子状に組んだ木の柱梁の上に球体のFRPを積み上げた作品です

家々の壁面や庭先にもプチアート
家々の壁面や庭先にもプチアート

本村地区の狭い路地には、ユニークな絵や飾りがたくさん。自転車を置いて、徒歩で散策するのもお勧めです。美術館や様々なアート作品だけではなく、このような家々を飾るプチアートを探すのも楽しみの一つ。こちらの民家の壁には、バス停やドアなどが描かれています。

直島バーガー「maimai」
直島バーガー「maimai」

ガイドブックによると、直島産の天日塩を使ったハマチのフライにタルタルソースをかけた直島バーガーの店、「maimai」。ハマチフライのバーガーが人気の店です。

大竹伸朗『直島銭湯 I ♥ 湯』
大竹伸朗『直島銭湯 I ♥ 湯』

ここからは、直島の玄関口、宮ノ浦地区の散策です。
家プロジェクト『はいしゃ』と同じく、大竹伸朗氏が手がけた『直島銭湯 I ♥ 湯』。外観・内装をはじめ、浴槽やタイル画、各種陶器まで、氏の世界観が反映された作品で、実際に入浴できる美術施設となっています。

ギャラリー「NaoPAM」
ギャラリー「NaoPAM」

直島銭湯「I ♥ 湯」のすぐ近くの古民家を改修し、アート作品を展示するギャラリー「NaoPAM」。

フェリーターミナル「海の駅なおしま」
フェリーターミナル「海の駅なおしま」

ガラス張りのフェリーターミナル、海の駅なおしま。アートの島のエントランスにふさわしい斬新なデザインです。広いスペースに、乗船チケット売り場や観光案内所、カフェや待合所などがあり、外側には、バスの発着所や車の待機スペース、イベント広場などが設けられています。

桟橋を海のほうに歩くと、草間彌生さんの『赤かぼちゃ』やSANAA(サナア)デザインの椅子が見えてきます。SANAAとは、妹島和世(せじまかずよ)さんと西沢立衛(にしざわりゅうえ)氏の建築家ユニットで、本村港で見た入道雲のような『直島港ターミナル』や、上の写真の『海の駅なおしま』もSANAAの作品です。

フェリーが直島に近づくと、遠くからでも真っ先に目に入る巨大な『赤かぼちゃ』。草間さんご自身が、この作品について「太陽の『赤い光』を宇宙の果てまで探してきて、それは直島の海の中で赤カボチャに変身してしまった」と語っておられます。

内部は空洞で、床には水玉模様が描かれていました。窓から差し込む自然光が眩いほど。
窓の外に広がる瀬戸内の風景も、作品の一部でしょうか。

藤本壮介『直島パヴィリオン』
藤本壮介『直島パヴィリオン』

こちらは建築家藤本壮介氏のデザインで、浮島現象(海岸から遠くの島や岬を眺めたとき、海面との境界が切れて浮き上がって見える現象)をイメージした『直島パヴィリオン』。三角形のステンレス製メッシュ約250枚を組み合わせて、「直島諸島の28番目の島」というコンセプトで造られました。直島町は実は、27の島々から構成される直島諸島なんです。こちらも中に入ることができ、夜はライトアップされます。

ジョゼ・デ・ギマランイス『ウェルカムボード』
ジョゼ・デ・ギマランイス『ウェルカムボード』

フェリーターミナルの横に設置された観光案内板とウェルカムボード。直島の特徴を描いた絵とオブジェを組み合わせた看板で、ポルトガル人アーティスト、ジョゼ・デ・ギマランイス氏の作品です。

ジョゼ・デ・ギマランイス『BUNRAKU PUPPET』
ジョゼ・デ・ギマランイス『BUNRAKU PUPPET』

芝の緑に映える青いモニュメント『BUNRAKU PUPPET』。これもギマランイス氏が、島で継承される「直島女文楽」の人形の動きや着物の裾さばきにインスピレーションを得た作品です。夜間はライトアップされて、蛍光管のようなカラフルな光を放ちます。

まとめ

直島は、国内外から多くのアートファンが訪れる"現代アートの聖地"として知られています。瀬戸内海に浮かぶ小さな離島ながら、岡山県の宇野港や香川県高松港、他の島々などからのアクセスも良好です。私の場合、朝早く福岡県北九州市を出発して昼前には直島・宮浦港に到着。島に宿をとれば、一泊二日でも十分な日程が組めました。
また最初にも書きましたが、小さな島なので島内移動にはさほど時間はかかりません。天候が許せば、自転車での散策がぴったりくる島のサイズ感でした。
注意したいのは美術館などの休館日です。直島のほとんどの施設や商店などは、月曜日がお休み。月曜が祝日の場合は、翌日の火曜が休みとなります。美術館や家プロジェクトなどは外から見るしかありませんし、食事ができる場所も非常に限定されます。月曜日(3連休後の火曜日)の訪問は避けた方が無難だと思います。

筆者

特派員

Duke

縁あって福岡県北九州市に落ち着いて、はや15年。県外の方はもちろん、地元の方にも楽しんでいただけるよう、福岡・北九州の旬な情報を発信していきたいと思っています。

【記載内容について】

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