[台湾]台中のエレガントなグランメゾン「Le Mout」

公開日 : 2018年03月30日
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台北から「高鉄(台湾新幹線)」に乗って1時間弱、台湾第二の都市、台中に、台湾のファインダイニングの先がけ、Le Moutがあります。

オープンは10年前の2008年。Asia's 50 Best Restaurantで2017年に28位、同ランキングのベスト女性シェフにも選ばれたことのある、Lanshu Chenさんがオーナーシェフを務める店です。

台中駅からさらにタクシーで20分ほど、住宅街の一角に、ガラス張りのモダンな一軒家が。中に入ると、中国のアンティークや、アールヌーボー様式の家具で知られるイタリア・Medea社などの優美な家具が並びます。

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モダンとクラッシックの融合、「グランメゾン」と呼ぶのにふさわしい、エレガントな雰囲気は、台湾ではまだなかなかみつからないもの。

台中は、Lanshuシェフにとって、10代の頃から住んでいた故郷である、というだけでなく、「フランス料理はその体験全てを味わってもらうもの。席と席の間の間隔やインテリア、サービスと合わさって初めて完成する」という考えで場所を探し、台北よりもゆったりとスペースを取ることができるこの場所を選んだのだとか。

元々は「真面目すぎる優等生が作る料理!という感じの、四角四面なフランス料理を出していたの。教科書通りのクラッシック料理。だけれども、フランスから帰って台湾に住むうちに、台湾の食材の良さを深く知るようになったし、気づくと台湾の食材を、無意識のうちに優先的に選んでいた。」と、笑うLanshuシェフ。今は台湾らしさをクラッシックなフランス料理に織り込んだ料理を作っています。

ワインペアリングは、Delamotteのシャンパンからスタート。サービススタッフが、料理やワインの特徴について、詳しく説明してくれ、質問にも的確に答えてくれます。なかなかこのレベルまで行き届いたサービスがある店は台湾では珍しいです。

NV Blanc de Blancs Brut Champagne Delamotte

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エシレバターと、ボルディエの海藻入りのバター。パンは、台湾らしい高梁酒と中国ソーセージを練りこんだパン。切ってからオーブンで温めてあり、クラストはカリッと薄めで、中はふわふわで、程よくしっとりしています。味わいにソーセージの脂の旨味が、後味にソーセージのスモーク感と、発酵の香りが抜けるのが印象的です。

アミューズは、発酵させたキャベツと、スモークした帆立貝。

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カカオバターでできた薄いシェルの中に、発酵したキャベツのクリームが入っています。

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もう一つは、フィロペストリーの中に台湾シジミをホイップバタークリームと合わせた滑らかなフィリングが。

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続いては、台湾でよく食べられる冬の野菜、蕪を使った料理。

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12年間エイジングしたという蕪の漬物を混ぜ込んだオイルをかけていただきます。オイルだけ味わってみると、トリュフや海苔のような独特の旨味があります。

下にある蕪は茹でてあり、上には、フレッシュな蕪の印象を与えるスライスしたラディッシュ、そして、揚げたてのライスクラッカー。作り置きでなく、温かい状態で提供しているのは、些細なことのように見えて、油の重さを感じず軽やかにしてくれる効果もあるように思います。

通常はこの漬物は炒め物などに加えるそうですが、それをモダンにアレンジしてあります。

蕪を主役に、生、茹でたもの、エイジングしたもの、と様々な表情を楽しめる一皿です。

Mustard green, peanut, goose liver, mussel from Matsu

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まだ旧正月の時期ということで、長生菜と呼ばれて縁起が良いためにこの時期食べられる、からし菜を使って。去年亡くなったLanshuシェフの祖母が、このからし菜と鴨を使った鍋をよく作ってくれていたことから、そんな思い出に基づいた料理。

上には台湾産の鴨の肉を乾燥させて作ったペーパー、家鴨のレバー、旨味を加える台湾のムール貝、ピーナッツのピュレ、ピーナッツウォーターとピーナッツピュレを混ぜたスープ、とろとろに煮たタピオカのようなものは、長ネギのコンソメとスモークした鴨の胸肉でできているそう。

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最初、不思議な組み合わせだと思いましたが、食べ進むうちに、ピーナッツのコクと家鴨のレバーのコクと甘みが重なり、中国風に調理された、からし菜のシャキシャキした印象が広がります。

2015 Pinot Gris "Zellberg" Domaine Ostertag

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特に、家鴨のレバーが、熟した梨やリンゴ、どこかソーテルヌを思わせる香りがあるアルザスのワインとの相性がよく、程よいつなぎ役に。また個人的に、中国料理には果実味がはっきりしていた、ほのかに甘いワインを合わせるのが好きなのですが、こちらもワインのほのかな甘みがピーナツやレバーの旨味を押し上げ、程よい酸味が輪郭を際立たせていたように思いました。

アイデアを決めると、何度も試作を重ねるというLanshuシェフですが、「この料理は、特に完成まで時間がかかった料理」と語ります。

数ヶ月間、毎日、からし菜と鴨を使って、どうしたら美味しい組み合わせになるのかを考えたが、どうしてもうまくいかない。ある日、家で普段の料理用にからし菜を茹でていて、ピーナッツのような香りがある、と気づいたことから、この組み合わせを思いついたのだそう。

続いては、台湾の様々な花から取った蜂蜜が入った自家製バゲット。小麦のパンですが、ほんのりとライ麦のスターターが香ります。

それに合わせたのは、野菜の一皿。

Green garden garden vegetables, sun-dried fermented cabbage,

chicken wing confit, "Crema" goat cheese

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キャベツなどの季節の野菜、そして菜の花や薄切りの黄色のズッキーニが春らしさを感じる取り合わせです。

蕪はみずみずしく、菊芋やキャベツ、白アスパラガスは香りと食感を残して、小玉ねぎは甘さを引き出してから、表面をキャラメリゼして。鶏の手羽元の部分は、上にヤギのチーズとエビを混ぜたつみれのようなものを乗せて焼いてあります。

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パセリ、コリアンダー、そしてタイバジルのようなシソ科の清涼感ある香りのペーストを添えて。

2016 Chardonnay "Essence" Teperberg

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ワインはシャルドネ100%のイスラエルのワイン。日照がしっかりあって、果実味の乗った中にどこか野性味のある中東のワインと、ヤギのチーズの香りがとてもよく合います。

同じワインのまま、今度はロブスター。

Maine lobster, dill, taro, and shallot

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メイン産のロブスターは程よく食感を残してあり、少し苦味があり、表面がワックスがけしたかのようにつるっとした独特の食感のあるシダの仲間の台湾の山菜「山蘇(オオタニワタリ)」、乾燥させたタロイモピュレの皮で巻いたタロイモ、バナナシャロットをスライスしたチップ、台湾の塩漬けオリーブ、そして塩味でバランスをとった甘じょっぱいレモンのコンフィの角切りが散りばめられ、スッキリとした印象に。甲殻類と抜群の相性のディルを添えて。エスプーマには、ロブスターだけでなく牛肉も使い、次のメインディッシュへの橋渡しに。

同じワインを合わせると、今度は乳酸菌飲料のような柔らかでコクのある味わいに変わったのが印象的でした。

肉のメインディッシュは、和牛の交配種、アメリカ・スネークリバーの牛肉のミスジのステーキ。

Wagyu flat iron, dragon bone, blazei mushroom, red pepper

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ローズマリーの灰と、しっかりスモークの香りと苦味があるパプリカのピュレ、少しアイスプラントのようなシャキシャキ感のある、ほうれん草の一種。スッキリとオリーブオイルで炒めた、アガリクス、黄たもぎ茸などの台湾のキノコ。

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その横に、クラッシックな牛肉のジュに、ボーンマローなどを混ぜ込んだソース。

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2004 Vina Tondonia Reserva

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アメリカンオークを使ったスペインのワインは、バナナのような甘い香りやカルダモンのような甘いスパイス香が感じられる、果実の凝縮感のあるもので、このスモーキーさ、しっかりとしたクラッシックなソースの印象にあっていました。

デザートは、日本人の平塚牧人シェフによるもの。

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Daikon, fermented rice, strawberry

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なんと、日本の冬の味、おでんを思わせる輪切りの大根が出てきてびっくり。

台湾の冬の風物詩、米麹の一種、酒醸で煮てあります。大根が甘い?と思いましたが、平塚シェフによると、フルーツにはない、ジューシーさがあったのが大根だったとか。大根飴を思わせるような組み合わせで、甘すぎないのに、ほのかな大根の苦味が甘さを引き立てます。大根は苦味を取るために米のとぎ汁で煮たりしますが、酒醸もそんな効果があるのかも。苦味がたちすぎず、全体的にまろやかに仕上がっていました。冬を象徴するような生姜、春の訪れを告げるような苺のパウダーを左右にかけて、二つの味を楽しみます。

デザートに合わせるのは、日本人のシェフだから、と日本らしいマスカットベリーAの酒精強化ワイン。

周五郎のヴァン Grace Wine

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ランシオの香りはありますが、重すぎないのが、アジアらしく、またクリアでピュアな味わいのデザートに合う気がしました。

続いては、本来のメニューではありませんが、シグネチャーのデザートを用意していただいていました。

モネの睡蓮に着想を得たという、丸く切り抜いたナスターチウムの葉の上にベゴニア、ジャスミンティーのスープに、台湾の伝統デザートで柔らかい豆腐のような豆花、カラマンシー、少し酸味がある冬瓜茶のゼリー、白木耳、タピオカ、くこの実、エルダーフラワーのソルベ。

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エルブジ、エル・サリュー・デ・カン・ロカをへて、シンガポールのアンドレでシェフパティシエを2年間、そしてLe Moutでは2014年から働いているという平塚シェフ。「シンガポールにいた頃は、手に入るものをなんでも使っていたが、もっとアジア色が強く、さらに地元の食材に恵まれた台湾に来て、アジアのデザートをもっと極めたいと思うようになった。特に、アジアはでんぷん質をよく使う。タピオカ、葛やカタクリ、芋や豆など。和食も中国料理も、デザートは西洋のデザートのようにモダンに進化しきれていないと思う。新しい時代のアジアのデザートを作っていきたい」と語ります。

そんな平塚シェフは、最近ではアジアのベストレストラン連続4年1位のGagganのGaggan Anandシェフが、2018年48位のLa Maison de la Nature Goh の福山剛シェフと共に、2020年にオープンするレストラン、Gohganが、今行なっているイベントでもデザートを担当するなど、新しい活動も始めています。

イノベーティブで、即興感の強いGagganの料理と、作り込むタイプのLanshuシェフの料理。平塚シェフはどちらのタイプなのか聞いてみると、本来は作りこむのが好きなタイプで、アンドレもLe Moutもそういったアプローチのレストラン、だけれども、時々Gohganのようなイベントに参加することで、逆に普段と違うやり方でどこまでできるか、をやって新たな発見やインスピレーションを得ることもあるのだとか。

味を構成する際に、果物でないとデザートに使ってはいけない、という決まりはないと、自由な発想をする平塚シェフ。その辺りの自由さは、「エルブジのペストリーシェフ、アルベール・アドリア(Albert Adria)にだいぶ影響を受けました」と語ります。

そんな一皿が、スペインでキノコ狩りにいった時の思い出から作ったという、ポルチーニの一皿。

Porcini

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メレンゲとポルチーニパウダーで作った「茸」、米粉のチュイルの落ち葉、真ん中には温かい、リオレのポルチーニ版のような、たっぷりと松の実とパルメザンチーズが入った甘いリゾット。

甘みを抑えたチョコレートラングドシャのような木の枝、カシスのコンフィ。

最後のプティフールは、平塚シェフのスペイン時代を思わせるような、鮮やかなコントラストの色彩とまるで水玉が踊っているような、同じサイズの球体が並ぶ遊び心溢れるもの。竹炭のサクッとした黒鳥の一口シュー、ラズベリーのタルト、そして「食後酒を楽しむのが好き」ということで、カクテルをイメージした冷たいアルコール入りのソルベを、カカオバターのシェルに閉じ込めたデザート。

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噛むほどもなく、薄いカカオバターのシェルが砕け、アルコールの香り高さが弾ける繊細な味わい。

インテリアと同じく、アミューズからデザートまで、モダンとクラッシックが融合し、台湾らしさを表現しているレストランだと感じます。

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長男を生む2週間前に店をオープンし、1ヶ月産休を取った後すぐに厨房に戻ったというLanshuシェフ。今は1歳4ヶ月の次男を育てながら、キッチンの采配をしています。こちらの気持ちを和ませる親しみやすい笑顔、小柄で柔らかな物腰の奥に、強い芯を秘めているのが、話をしていてもわかります。妥協を許さず、常に完璧を追求する姿勢。

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子供を育てながらシェフを務めることの難しさ、をお聞きすると、仕事とプライベートのバランスを取るのがとても大変、と語ります。「仕事をどうしてもしすぎてしまう、今もバランスに苦慮しているわ」

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同じ食材の組み合わせを、どんな風に少しでも美味しくしていくか。それを研究している時間が一番楽しい、という職人肌のLanshuシェフ。最大45席あるレストランですが、今は予約数を30席ほどに抑えています。その理由は、さらに完成度を高めるため。地元客と海外などからの客、どちらをターゲットにしているのですか?とお聞きすると「そんな風に考えたことがなかったわ」と笑った後、「どちらでもないかしら。私には、私の空想の中の、理想のお客様がいるだけ。食を本当に愛する人たちのために料理をしている、という感じかしら」

その美貌も相まって、様々な取材のオファーなどもあるそうですが、「私が料理の道を志した頃は、こんな風な毎日を過ごすとは思ってもみなかったわ。海外からの出店のオファーもたくさんもらうけれど、この場所に集中したい。私の理想は、席数を20席くらいに減らして、料理が大好きな人たちのためだけに、料理を作っていくことね」と笑います。

憧れている人は、ミッシェル・ブラス。「シェフは何も作り出さない、ただ、食材の命を委ねられているだけ」という彼の言葉に、とても感銘を受けたといいます。「シェフという仕事は、食材の通訳のように、美味しい形にして差し出すことだと思っているわ」。

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ランチとインタビューを終えて、台中駅に着くと、広々とした平野の向こうに、ゆっくりと沈む夕日。台北駅では見られない眺めです。台湾でのファインダイニングのカルチャーは、日本やシンガポール、香港などと比べると、まだ一般的に根付いているとは言い難いもの。ビジネスとしては、世界から人が集まる台北に出店した方が有利に決まっています。だけれども、決してアクセスが良いとは言えないこの場所に、初期投資もランニングコストもかかるグランメゾンを作ったところに、Lanshuシェフの心意気がある−−それは、先が見えない中でも「きっと、自分の料理を求める人が、台中までやって来る時代が来る」と信じる人の強さ。そして、それを正しくするために、この10年を、さらなる高みを目指しながらやって来たのでしょう。

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台中が、台湾のオーブラックになる。きっとそんな時代が来るんじゃないか。柔らかな光に照らされたゆっくりと時間が流れる街並みを眺めながら、そんなことを感じたLe Mout 訪問。

そして、Lanshuシェフは、2018年12月に、現在のレストランをクローズすることを発表しました。プレスリリースでは、今後のことは決めていない、とのことでしたが、アジアベストレストラン50の会場でこっそりと教えてくれたところによると、台北に行くことは考えておらず、台中の更に郊外にレストランを移し、小さくても自家農園のある、ファインダイニングのレストランを作ることを考えているのだとか。「一年くらい休みを取って、その間に新しい様々なアイデアを試してみるつもり」

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Lanshuシェフの中にあるクリエイションの炎は、決して消えることはないのでしょう。

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■Le Mout

営業時間:ランチ 11:30~14:30(土曜・日曜)、ディナー 18:00~22:00、 (月曜・火曜休)

住所:59, Cunzhong St., Taichung 403, Taiwan電話: + 886-4-2375 3002

アクセス:台中駅からタクシー約20分

http://www.lemout.com/en/index.php

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