ちょっと地味?お堀がロマンチックな英ボディアム城
原色と金でキラキラした東南アジアの宮殿、インドの白亜やピンクの城、ロシア周辺の玉ネギ型でカラフルな、お菓子の城のようなかわいいもの、屋根が針のようにとがっている優美なフランスのお城など、世界にはさまざまなデザインの城があります。イギリスはといえば、無骨な石を積み上げて四角く、ゲームで攻略するかのような、屈強なイメージのものが多いと感じます。
色もまるでイギリスの曇り空のようにグレーか薄茶色で、実際に雨や曇り空の下ではさらに暗いイメージがただよい、せっかくのすばらしさを写真で伝えるのに苦労します。
イングランド南東部のイースト・サセックスにあるボディアム城(Bodiam Castle)は、その最たるもののひとつでは!? と思うほど地味~で、さほどウキウキしないなぁとは思いましたが、インターネット上の旅行記などを覗くと"魅惑の古城"などと大絶賛で、ガイドブックとしても使える『The Southeast by Simon Jenkins』という本のなかでも、堀が美しい"ロマンチック"な城として紹介されています。
プロポーズの場となった地、ボディアム
イギリスに現存する城跡の濠は、水が抜かれているか埋め立てらている場合が多いなか、このボディアム城は近隣の複数の川から引かれた水が並々と湛えられています。水面には反射された城が映り、水上に建つ中世の城として評価が高いようです。
けれど2021年の夏に訪れた際は雨が降り、水面の反射などにはいわれるまで気づかぬほど。城内も廃墟のようにがらんどうで優美というよりは兵者どもの夢の跡といった儚さの方が強く、いったいなにがどうロマンチックなのか到底理解できませんでした。
そこで帰宅後、持っている本を改めて読んでみると、この城が建つボディアムは最終的な城主となった元インド総督のカーゾン侯爵が始めの妻を亡くしたあと、2番目の妻となるグレース夫人に丘の上でプロポーズをした、想い出の地だそうです。
このときふたりが見下ろしたであろう、ロザー渓谷の景色や城の美しさに魅了された侯爵は、無事プロポーズが受け入れられるや否や1919年、キュビット男爵からボディアム城を買い上げました。
筋肉痛になるかも?!傾斜のキツイ階段続きの城内
かつては裏口にもあったそうですが、現在は正門につながるのみとなった跳ね橋を渡って城内に入ると、四方を崩れかけた城壁に囲まれた真四角の芝生がありました。
こちらを中庭として側面にさまざまな部屋があったようで、トイレらしき部屋や個室を見ることができます。壁をつなぐ4つの角にはそれぞれ円塔が付随しており、うち2塔に登りましたが、56段あるというらせん階段があまりにも急で、特に降りるときがかなり怖く、泣き出す子供もいました。
そのかわり屋上まで上りきると、のどかな城の周りの丘陵地帯や城内の中庭が上から見下ろせます。夏のみの運行だという、蒸気機関車が走っているのを目にして驚きました。
また、ボディアムはイギリス有数のコウモリの生息地でもあるらしく、なかでもこの城は堀が生育環境によいようで、現在敷地内にある巣は、保護の対象になっています。
「コウモリを脅かさないで」と書かれた看板が置かれたエリアに入って耳を澄ますと、たしかにキーキーという鳴き声のような音が聞こえてきました。
城外のパブがおすすめ
敷地内のカフェにはテラス席があり、なかなか良さそうでしたが、お腹を空かせガッツリ食べたかったわれわれは、城外出てすぐ目の前の「Castle Inn」に足を向けました。
こちらでも季節柄、また、コロナ対策にもよしとあって庭先にまで出されたベンチ席がにぎわっています。予約なしですぐに通してくれて注文受け付けも給仕も早く、店員も気がよくサービス満点でした。
なにより観光地のこんな絶好の場所にあるなんて、食事は絶対期待できないと思い込んでいた予想はよい方に裏切られ、自家製ハンバーガーとカットの仕方が絶妙で、この上なくおいしいかったフライドポテトは最高でした。
寒い季節などは堀の水によって霧が立ち込める景観が幻想的で、作者のJenkins氏は最後に"妖精の魔法がかかった場所"と言い表しています(参考文献:Jenkins, Simon. "The Southeast" Reader's Digest 2006: 105 Print.)。以下の公式ウェブサイトには雪化粧姿のボディアム城の写真も載っており、現在冬まっただなか、運がよければこんな一面も見ることができるかもしれません。
あるいは、コロナがちょうど落ち着いて日本からの旅行も容易になった夏頃に、城のてっぺんから蒸気機関車を眺めるのも楽しみですね。
◼️ボディアム城(Bodiam Castle)・住所: Bodiam, near Robertsbridge, East Sussex, TN32 5UA・アクセス: 電車Hastings駅よりバスにて城前Hawkhurst停留所下車・開城時間(季節ごとに要確認): 2月13日までは水、土、日のみ10:00~15:00 城外、Wharfティー・ルーム、ギフト・ショップは毎日10:00~16:00・入場料 大人£11、子供£5.5、家族割£27.5・URL: https://www.nationaltrust.org.uk/bodiam-castle
筆者
イギリス特派員
パーリーメイ
2017年よりロンドン南部で家族と暮らしています。郊外ならではのコスパのよいレストラン、貴族の邸宅、城めぐり、海沿い情報などが得意です。
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