一度は泊まってみたい、NYの老舗有名ホテル。歴史と有名エピソードを現地特派員が紹介します

公開日 : 2023年01月20日
最終更新 :

世界中からたくさんの観光客やビジネス客が集まる大都市ニューヨークには、超高級ホテルからゲストハウスまで、旅のスタイルに合わせたホテルが多数あります。その中でも、ニューヨークを代表する老舗の高級ホテルでは、歴代の大統領や各国の王族、セレブによってひいきにされ、多くのエピソードが残されてきました。一流の目が養われている彼らが愛用してきたホテルには、どんな魅力があるのでしょうか。ホテルや客室に秘められた、歴史やドラマとはいったいどんなものなのでしょうか。それらを知るために、一緒にホテルの扉を開け、歴史とエピソードに思いをはせてみましょう。

セレブの秘密を守り続けた「ザ・カーライル」

ローズウッド・スイート
©THE CARLYLE, A ROSEWOOD HOTEL  ローズウッド・スイート

セントラルパーク近く、マディソンアベニューと76番街の角にある「ザ・カーライル・ア・ローズウッドホテル」(以下、ザ・カーライル)は、1930年創業、35階建て192室の客室を持つ5つ星ホテル。
メトロポリタン美術館にも徒歩7分ほどの閑静な高級住宅街にあり、観光客が少ないエリアであるため、喧騒を逃れて静かな滞在ができるクラシック・ホテルです。

今までに、故ダイアナ妃やウィリアム王子夫妻、ヘンリー王子夫妻のイギリスのロイヤルファミリーや、トゥルーマン以降の歴代米大統領、スティーブ・ジョブズやミック・ジャガー、デビッド・ボウイ、マイケル・ジャクソンなど、超一流のセレブが宿泊してきたことでも有名です。

ここで、ひとつ逸話を紹介します。ある日、ホテル内の同じエレベーターに乗り合わせたのはなんと故ダイアナ妃、マイケル・ジャクソン、スティーブ・ジョブズという豪華な顔ぶれの3人。エレベーター内が3人の緊張で静まり返る中、ダイアナ妃がマイケル・ジャクソンのヒット曲「ビート・イット(Beat It)」を口ずさんだのがきっかけで、沈黙が破られたとか。ダイアナ妃は機転が利く聡明な女性だったんですね。

また、ザ・カーライルでは枕カバーに顧客のイニシャルを刺繍し、次に宿泊する時まで大切に保管するというきめ細かなサービスがありますが、もてなしに感動したイギリスのキャサリン妃が、裁縫係の女性の元へ感謝を告げに訪れたというエピソードもあります。一流ホテルと賞賛を受ける理由には、ほかのホテルとは違う「独自のおもてなしの心」があるんですね。

俳優のジョージ・クルーニーは、「ホテルに来たというより、家に帰ってきたという気分にさせてくれる」と語っており、セレブに対してもホテルのスタッフが家族のように温かく気さくに接するホテルなのです。

「ニューヨークのホワイトハウス」と呼ばれた理由

アメリカ大統領トゥルーマンをはじめ、歴代大統領が利用しているザ・カーライル。

ジョン・F・ケネディは、上院議員だった1950年代頃から、34階と35階にデュプレックス(2階構造になっている部屋)のスイートを所有していました。通話内容が漏れないよう電話回線が直接部屋に引かれ、愛人のマリリン・モンローが訪れることができるように秘密の通路があったそうです。ジョン・F・ケネディが第35代大統領に選出されたあと、ザ・カーライルは「ニューヨークのホワイトハウス」と呼ばれるようになりました。

また、ジョン・ジョンと呼ばれた故ジョン・F・ケネディ・ジュニア(ジョン・F・ケネディ大統領とジャクリーン夫妻の長男)が、1999年の飛行機墜落事故の前に最後の朝食を食べたのはザ・カーライルでした。

セントラルパークを望むプレジデンシャル・スイート
©THE CARLYLE, A ROSEWOOD HOTEL  セントラルパークを望むプレジデンシャル・スイート

故ダイアナ妃が愛用し、息子のウィリアム王子、ヘンリー王子夫妻も宿泊する「秘密の宮殿(Palace of Secrets)」

故ダイアナ妃はニューヨークを訪れるたびに、いつもザ・カーライルの22階のスイートルームに滞在していました。

2014年12月にウィリアム王子とキャサリン妃がニューヨークを訪れた時も、宿泊場所として母ダイアナ妃が好んだこのホテルが選ばれました。ウィリアム王子夫妻の滞在先になるとイギリス領事館から連絡を受けたザ・カーライルは、4人のホテルスタッフにのみその情報を伝え、外部への情報漏洩を防いだそうです。ふたりが滞在した部屋は、かつてダイアナ妃が愛用した22階のスイートルームでした。
ヘンリー王子このように、ザ・カーライルでは宿泊客のプライバシーが慎重に保護されていることから、ニューヨーク・タイムズ紙は「秘密の宮殿(Palace of Secrets)」と表現しています。

ザ・カーライルには王室を離脱した弟のヘンリー王子夫妻も2021年9月に宿泊しています。ウィリアム王子もヘンリー王子も、母ダイアナ妃が愛したこのホテルに特別な思いを抱いているのかもしれません。

映画『セックス・アンド・ザ・シティ』のロケ地 傷心のキャリーが訪れた「ベーメルマンス・バー」

ベーメルマンス・バー 
©THE CARLYLE, A ROSEWOOD HOTEL  ベーメルマンス・バー 

作家でイラストレーターのニューヨーカー、ルドウィッヒ・ベーメルマンスによるイラストが素敵な「ベーメルマンス・バー(Bemelmans Bar)」。1940年代半ばにホテルから依頼され、セントラルパークの四季を壁に描きました。彼が壁画を描く1年半の間、ベーメルマンスと彼の家族はホテルの一室を提供されたと言われています。

セレブにも愛されるこのダイニング・バーで、トム・クルーズは娘スリのためにティー・パーティーを主催し、ファッションデザイナーのマイケル・コースは30回目の記念日を祝ったそうです。

映画『セックス・アンド・ザ・シティ』では、傷心のキャリーとアシスタントのルイーズが、カクテルを前にして語り合ったシーンで登場。ふんわり愛らしいイラストは、キャリーの傷ついた心を優しく包み込んでくれたようです。

ベーメルマンス・バー(英語名:Bemelmans Bar)

営業時間
日曜日〜月曜日
火曜日〜木曜日: 昼-0:30
金曜日〜土曜日: 昼-1:00
住所
The Carlyle Hotel, 35 East 76th Street and Madison Avenue, Manhattan.

隠された秘密の通路がある「ウォルドルフ・アストリア」

ウォルドルフ・アストリアの外観
©iStock ウォルドルフ・アストリアの外観

ウォルドルフ・アストリア・ホテル(以下ウォルドルフ・アストリア)は、1893年創業のニューヨークで最も古い5つ星ホテルのひとつです。これまでアメリカ国内外の多くの要人を宿泊客に迎えているため、「ニューヨークの迎賓館」と呼ばれています。

第31代ハーバート・フーヴァー大統領から第44代バラク・オバマ大統領まで歴代米国大統領を迎え、モナコのレーニエ3世とグレース・ケリーの婚約パーティー、ジョン・F・ケネディ大統領の誕生パーティー、イギリスのエリザベス女王によるスピーチなど、伝説的なイベントが主催されました。

「王冠を賭けた恋」の公爵夫妻が暮らしたホテル

上階は住居専用で、「王冠を賭けた恋」をし、愛する女性と一緒になるために王位を辞したウィンザー公爵が公爵夫人と住んでいたのは「ロイヤル・スイート」。
部屋の随所にあしらった「ウェッジウッド・ブルー」と呼ばれる淡いブルーが美しく、最も人気の高い部屋でした。

ウォルドルフ・アストリアはほかにもマッカーサー元帥、作曲家のコール・ポーターなど当時のそうそうたるセレブが住居にしていました。

ホテルの下にある秘密の通路とは

ウォルドルフ・アストリアの地下には、1930年代に作られたグランド・セントラル駅に直接つながっている秘密の地下通路(鉄道路線)があります。

第32代フランクリン・ルーズベルト大統領は、ポリオ(急性灰白髄炎)に感染し車椅子で執務を行っていたので、ニューヨークとワシントン間を少しでも負担なく移動できるように(また人目を引かないように)、ウォルドルフ・アストリアとグランド・セントラル駅間を走る特注のディーゼル機関車を走らせました。列車の中も特別で、なんと最後尾車両には大統領のリムジンを収容可能でした。

しかし1945年にルーズベルト大統領が突然亡くなり、機関車はホテルの地下に放棄されたまま動きを止めました。
秘密の地下通路の痕跡は、パークアベニューとレキシントンアベニュー間の49丁目にある、「101-121」の数字を示したエレベーターで確認できます。

「ニューヨークの迎賓館」が中国政府管理下へ

1902年当時 馬車が横付けされたウォルドルフ・アストリア
©The Library of Congress 1902年当時 馬車が横付けされたウォルドルフ・アストリア

1893年創業のこの老舗ホテルは、次第に老朽化が進み経営が低迷していきました。2014年には中国の保険会社(安邦保険集団)が約19.5億ドルという高額で、運営元であるヒルトンから買収しました。約130年前から存在する「ニューヨークの迎賓館」は中国企業の所有となり、2015年アメリカ合衆国国務省は防諜の危険を理由に以後いっさい利用しなくなりました。当時のオバマ大統領も宿泊を停止し、42階のスイートルームを借り上げていた米国連大使公邸も同様に退去することとなりました。中国政府は2018年2月に安邦保険を公的管理下に置き、その結果ウォルドルフ・アストリアも中国政府の管理下に置かれることになりました。

2017年からは高層階を富裕層向け住居とするために10億ドルをかけて改装工事中となり、低層階も再設計を経て改装を進めています。高層階、低層階ともに2023年再開予定となっています。

創業以来、時代に翻弄されているウォルドルフ・アストリアですが、中国政府管理下において、ルーズベルト大統領の地下の秘密通路や、放置されたままのディーゼル機関車をどうするのか、気になってしまいますね。

ウォルドルフ・アストリア・ホテル(英語名:WALDORF ASTORIA NEW YORK)

住所
301 Park Ave, New York, NY 10022

まとめ

ニューヨークのクラシック・ホテル、ザ・カーライルとウォルドルフ・アストリアの歴史とエピソードをご紹介しました。老舗ホテルなだけあってたくさんの逸話が残っており、一度は泊まってみたいと思われた方もいるのではないでしょうか。こちらの2つの一流ホテル、時期にもよりますが、値段も一流です。最低でも一泊10万円前後、セレブが泊まるような部屋だと一泊100万円以上は覚悟しなければなりません。

ニューヨークが日々姿を変えていくのと同様に、ホテルも姿を変え、または消え、そして新しく生まれています。そんな中でも、有名人が愛したホテルが現存している間に、一生に一度は訪れてみたいと願うものです。

参照

TEXT:ニューヨーク特派員 青山 沙羅
PHOTO:Hideyuki Tatebayashi *Do not use images without permission.

監修:地球の歩き方

筆者

アメリカ・ニューヨーク特派員

青山 沙羅

はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。