ドラマ『VIVANT』で話題!モンゴル・ウランバートルの新空港近くに3万ヘクタール超えの大都市が誕生!?

公開日 : 2023年11月07日
最終更新 :

執筆者:独立行政法人 国際協力機構(JICA)
社会基盤部都市・地域開発グループ第二チーム 水上 貴裕

「地球の歩き方Web」愛読者の皆様、こんにちは! 日本のODA(政府開発援助)を活用して開発途上国への国際協力を行っているJICAで、都市・地域開発分野のプロジェクトを担当している職員の水上(みずかみ)と申します。今回から、地球の歩き方とタッグを組み、ODAを活用して世界中の国々でどんな取り組みを行っているかをご紹介していきます。

コロナ禍もひと段落し、旅行や留学、仕事などで海外渡航する機会も増えてきているのではないでしょうか? 実は、アジアやアフリカなどの発展途上国には、日本での取り組みを参考に、これからの「まちづくり」を進めていこう! というチャレンジをしている都市が数多くあります。皆様が現地に訪れた際に「なるほど、ここではこんなチャレンジをしているのか!」と楽しめるきっかけにしていただければ幸いです。

話題になったけど意外と知らない、「モンゴル」という国のこと

今回ご紹介するのは、堺雅人さん主演で大ヒットを記録したTBS日曜劇場『VIVANT』のロケ地としても話題のモンゴル! 首都ウランバートルでは、ドラマで登場した架空の国「バルカ共和国」として多くのシーンが撮影されました。今回はそんな首都の近くに誕生しようとしている、新たな大都市の物語です!

ドラマのロケ地として何度も登場した首都のスフバートル広場
ドラマのロケ地として何度も登場した首都のスフバートル広場

モンゴルといえば、皆さんはどういうイメージがあるでしょうか? 遊牧民族、大相撲力士、チンギス・ハーン、馬乳酒などなど……色々思い浮かぶ方もいるのではと思いますが、実際に行ったことがある方となると、途端に少なくなってしまうのではないかと思います。

モンゴルは日本の約4倍にもなる国土面積を誇りながら、その人口は330万人と、実に日本の3%にも満たない規模となっており、実際に現地に訪れると、広大な土地に草木や砂漠、雪原だけがただ広がるそのゆとりに驚かされます(『VIVANT』第1話の冒頭でも、堺さん演じるスーツ姿の主人公・乃木憂助が広大な砂漠を歩いていましたね!)。

そんなモンゴルには、今でも移動式住居「ゲル」や家具を携えて馬、ラクダなどとともに土地を移り住む遊牧民の方々がいることで有名ですが、実はモンゴル人のほとんどは首都であるウランバートルに定住しています。首都だけの人口を見ると約164万人、なんと総人口の半分がこの町に暮らしているのです! 広大な土地があるのに、なぜこのようなことが起きるのでしょうか?

モンゴルの人々は、どうしてウランバートルに集まるの?

ウランバートル市街地の様子
ウランバートル市街地の様子

その理由のひとつは、モンゴルの厳しい自然環境。夏は40℃近くを記録することもありながら、冬はマイナス20℃を下回る日も珍しくなく、北欧の諸都市やカナダのオタワ等を抑えて“世界で最も寒い”かつ“世界で最も寒暖差の激しい”首都として知られています。温度差や冬の寒さの厳しさがあり、現時点では本当に何もない広大な草原となっている土地を開発していくためには、暖房システムや電気、水道、道路などを含む多くの都市インフラの整備が必要になりますが、そのために必要なコストを賄う資金や労働力が人口の少ないモンゴルではなかなか補いきれません。

結果として、近代的な生活を志向する人々は生活基盤の揃ったウランバートルに身を寄せることとなり、仕事や市場などの経済活動の拠点もそこに集まるので、都市間の経済やインフラ整備の格差はさらに広がっていく……という悪循環に陥っています。

首都郊外にはほとんど何もない広大な草原が
首都郊外にはほとんど何もない広大な草原が

他方でウランバートルにも限界はあり、急激に進む一極集中に都市の整備が追いついていないので、交通渋滞や大気汚染といった都市の課題が深刻化していきます。そんな状況に危機感を覚えたモンゴル政府は、「人々の集まるウランバートルの周辺に人々や建物を分散させるために、衛星都市となる新都市を作ろう!」と計画し、長い期間をかけて調査を実施。ウランバートルの南に位置するトゥブ県のゾーンモド市という地域の近くに「新ゾーンモド市(New Zuunmod City)」という大規模な新都市を建設する構想が立てられ、2022年4月にはモンゴル国家大会議(国会)が「新ゾーンモド開発マスタープラン」を承認しました。

つくば市の町並み
画像素材:PIXTA つくば市の町並み

このマスタープランでは、新ゾーンモド地域への大学や行政関連施設の移転、物流拠点、商業・産業関連施設、自由経済地域(経済特区)、居住地区の整備などが計画されており、その面積はなんと3万ヘクタール以上! 東京23区の約半分にも及ぶ広大さを誇ります。

2023年には開発計画を進める国家委員会の設立も決定されましたが、いざ開発計画に着手しようとしても、あまりに大きな都市開発のため、どの省庁・機関が何をすればいいのか(できるのか)、といった役割分担や法制度はまだまだ曖昧で、計画を実行に移そうにも移せない状態。

また、モンゴルではこれまでウランバートルを中心とした開発をしてきたので、同国の行政職員にウランバートル以外の場所に新都市を大規模に開発する経験がこれまでなく、「夢の計画を描いたけれど、どうやって進めればいいんだろう……」と、実行段階で問題が認識され始めています。

過去に提案された新ゾーンモド市での土地利用計画イメージ
JICA報告書より引用:モンゴル国 新ウランバートル国際空港周辺都市開発にかかる情報収集・確認調査ファイナルレポート. - (jica.go.jp) 過去に提案された新ゾーンモド市での土地利用計画イメージ

未来の大都市「新ゾーンモド市」が参考にしたい日本の街とは?

日本のODAで建設されたことを示す、チンギス・ハーン国際空港入口の看板
日本のODAで建設されたことを示す、チンギス・ハーン国際空港入口の看板

そんな状況を受け、立ち上がるのが私たちJICAです。

これまでも首都ウランバートル近郊に新たに建設されたチンギス・ハーン国際空港(2021年開業)への円借款(開発途上国に対して低利で長期の緩やかな条件で開発資金を貸し付ける制度)や技術的な支援、日本と一緒に取り組んでいくモンゴル人のビジネスを支援するモンゴル日本センターの設立といった取り組みを行ってきましたが、そんな支援の実績にモンゴル政府が着目し、「空港と一体になった周辺都市の開発を、ぜひ日本と一緒にやりたい!」とラブコール。

ウランバートルや国家全体の規模から見た都市計画を一緒に考えつつ、この地域でのインフラ整備計画について調査・提言を行おうとしているアジア開発銀行(ADB)と役割分担をしながら、ついに今年の秋からこの新ゾーンモド市の開発を2人3脚で支援するJICAの技術協力プロジェクトが立ち上がろうとしています。

合意文書締結の様子
JICAのプレスリリースより引用 合意文書締結の様子

新ゾーンモド市における大学の移転や行政機関の建設を中心とした多目的な大都市開発は、日本でも茨城県つくば市の「筑波研究学園都市」などで実績があります。いわば、つくば市など日本の研究拠点と一体で都市開発を行った事例をモデルにした法律・ルールの整備や国・自治体などの役割分担、そしてビジネスや経済活動を呼び込む魅力づくりなどのノウハウを、日本の豊富な経験から技術移転することが期待されているのです。

開発にはまだまだ時間がかかりますが、将来的には大学や行政機関の移転のほか、国際会議やイベントが開ける大規模施設や空港・鉄道などを活用した物流拠点などの整備も計画されており、2035年の実現を目標に、この何もない草原に大規模な新都市が誕生する予定となっています。

最後に

距離は飛行機で5時間半と意外と近いものの、気候や社会、文化など、さまざまなものが日本と異なるモンゴル。その豊かな土地や歴史に思いをはせつつ、堺雅人さんや阿部寛さんが『VIVANT』で熱演を繰り広げたドラマの聖地巡りも楽しめるいま、ぜひ皆さんもウランバートルや空港周辺を歩いてみることで、現地の歴史と未来を体感してみてください!

監修:地球の歩き方

筆者

国際協力機構

JICA都市・地域開発グループ

独立行政法人 国際協力機構(JICA:ジャイカ)社会基盤部都市・地域開発グループです

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。