130. ウズベキスタンで一番ド派手!?サマルカンドの結婚式潜入記(中編)

公開日 : 2023年12月13日
最終更新 :

(前回のあらすじ)
サマルカンドの結婚式(ウズベク語で「To'y トイ」)はとにかくゴージャスにやるから!期待しておいて!といううたい文句で、同僚の友人の式に誘われた私。新郎の実家に到着し、親戚や友人たちが踊り狂う中花婿が送り出されるのを見学。そのまま彼らと共に花嫁宅へと向かいます。車列からクラクションが鳴らされ、ついに花嫁宅へ...。

花嫁宅は、入り組んだ住宅街のまっただ中にありました。すでに花嫁側の親戚たちが待ち構えており、家の外では立派なドッピ(四角い形をしたウズベク人の民族帽子)を被ったおじいさんたちが椅子に座っていました。ここではすでに朝から花嫁のお父さんがプロフを作って親戚や近所の人々に振る舞う、ナホール・オシュという儀式が行われたはずです。私は一応花婿側の友人と言うことになっているので(実際はこの日初めて花婿と会いましたが...)、このナホール・オシュには参加できませんでした。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

私たち花婿側の友人・親戚側は、花婿が車から出てくるまで家に入らず待機。そうこうすると、花婿が車から登場ししてきました。途端に始まる、スタンバイしていた楽団の大演奏!そしてまたしても花婿の友人が狂ったように踊りまくり、花婿と共に家に入っていきます。血湧き肉躍る、花嫁宅での結婚儀式の始まりです!

花婿を囲み、陽気に踊りまくる友人たちはどんどん家の中庭に入っていきます。途中でいきなり誰かがお札を撒き、紙吹雪のように舞い上がりました。とにかく見栄っ張りというサマルカンド人ならではの羽振りの良さです。といってもさすがに高額紙幣は使えないようで、撒かれたお札は全て1000スム(約12円)紙幣でしたが...。
床に落ちたお札を、子供のゲストが夢中で拾いまくります。狂ったように踊る集団と狂ったようにお金を拾う子供たち、なかなかシュールな光景です。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

中庭ではすでに花婿側のゲストのために昼食が準備されており、私もありがたいことにその恩恵にあずかることになりました。この時点で14時前。両手で水を汲むような仕草をするお祈りを皆でしてから食べ始めます。なおこの時点では花嫁は姿を見せず、花嫁の家族や親戚たちも調理や給仕に徹していました。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

テーブルには結婚式ならではの食べ物が次々と運ばれてきて、興味深いことこの上ありません。まずナンはかわいい花形で、儀式の時以外では見られないもの。といっても大きいバザールなどで簡単に見つかるので、新婚旅行などでウズベキスタンを訪れた際はお土産に買ってみてはいかがでしょう。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

小麦のプロフを意味するウンオシも、結婚式独特の料理。あっさりとした味付けのスープにコシのない麺が入ったものです。香草やサワークリームを載せていただきます。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

もちろんハレの日の食事に欠かせないプロフも。このプロフもまたトイオシという、結婚式用に作ったプロフ。もともとプロフはかなり脂ギッシュな食べ物ですが、この結婚式プロフはより一層脂マシマシなお味です。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

花婿の前には、骨付き羊肉の塊が運ばれてきました。私は花婿の隣のテーブルにいたのですが、ありがたいことに撮れ!撮れ!と見せてくれます。大切な結婚式にいきなり乱入してきた変な日本人に気を遣ってくださり申し訳ない...。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

皆が食べ終えようとするころ、花婿の「お色直し」が始まります。ここでのお色直しは、タキシード姿からウズベク人伝統衣装の上着チャポンに着替え、やはり彼らの伝統帽子であるドッピを被るというもの。着せるのは花嫁のお父さん。
失礼ながらどこにでもいるあんちゃんという雰囲気だった花婿ですが、これで一気に新郎としての風格が出てきました。和気あいあいとしていたこの場の空気も、急に引き締まったように感じます。そしてここからこの国の結婚式ならではの伝統儀式が、怒涛の勢いで繰り広げられることになるのです。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

全員がご飯を食べ終えると、皆一旦撤退して玄関まで戻ります。...と思いきや、またしても新郎友人たちのダンスが始まり、再度家の中に入ろうとするではありませんか。何だこの謎のUターンは...。
そして皆がはやし立てる中、花婿が変わった動きを見せます。何やらカラフルな布をジャンプするように跨いで越え、その後友人たちが引き裂いたのです。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅
サマルカンドの結婚式 花嫁宅

この布はポヤンドスと呼ばれ、花嫁自身の手で縫われたものだそう。ありがたいことに、引き裂かれた布は私と共に参加していた日本人ゲストたちに手渡されました。この引き裂かれた布、未婚のゲストが手に入れると直に結婚相手が見つかるというおまじないがあるそう。って、ブーケトスとまるで同じですね。やはり新郎新婦の幸せをおすそ分けするようなこの儀式は、どの国や民族の結婚式でも見られるものなのでしょうか。

ご飯を食べる前の流れと同じく、花婿を中心にした一団は再度家の中に入っていきます。途中で紙吹雪のごとくお札が撒かれるのも同様。
しかし今回は中庭で終わるのではなく、中庭に面した部屋の中に入っていきます。この部屋で、ようやく新郎新婦が対面するのです。この瞬間、ゲスト全員が何度も何度もハゾーラレイキ(タジク語で「千回の挨拶」の意味)と唱えます。何とも神々しい瞬間で、この国やこの町の結婚式が神聖な儀式であることを実感します。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

色鮮やかな布で仕切られた部屋の隅のスペースに花婿と花嫁が隣り合って立ち、仕切り役のおばあさんが儀式を進めていきます。まずは2人で小さい鏡を見つめる儀式。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

そして甘い人生を...という意味を込めて、花婿が花嫁にはちみつを舐めさせます。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

本来は新郎新婦の顔の周りをろうそくの火で囲うようなしぐさをする、、という儀式もこの際行いますが、この儀式担当のおばあさんが体調不良のためお流れになったとのこと。重要な儀式であるはずなのに、代役を立てずに終えてしまうのが、いかにもおおらかなウズベキク人らしいというか何というか...。
基本的にイスラム教のしきたりに基づいているこの国の結婚式ですが、特にサマルカンドの式でよく行われるこの一連の儀式はイスラム教が伝わる前にこの地で信仰されていた宗教、つまりゾロアスター教の影響が残ったものだそう。サマルカンドの結婚式は、民俗学的に見ても非常に興味深いものなのです。

そしてまず花嫁の家族からのナンやお菓子の贈り物(これには家がいつもナンで満たされますようにという意味があるそう)を渡された花婿が5歩大股で歩き、そのまま退出。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅
サマルカンドの結婚式 花嫁宅
この部屋にあった色とりどりの花嫁衣装。花嫁はこれから毎日この衣装を1着ずつ着て過ごすのだとか...。

その後花嫁が中庭に立ち、家族との最後のお別れが始まります。花嫁はこれからしばらく(あるいは永久に)新郎の実家で暮らして家事や育児に勤しむこととなり、頻繁に自分の実家に帰ってこれるわけではありません。この国で女性が結婚すると言うことは、文字通り家を出ると言うことなのです。その証拠に、ウズベク語では「結婚する」という動詞は主語が男性か女性かによって違い、それぞれの言葉を直訳すると男性ならば「家を持つ」(uylanish)というような意味、女性ならば「(新たな)生活へ出る」(turmushga chiqish)というような意味になります。
そんなわけで、花嫁にとっては長く暮らした実家を出る、そして両親にとっては手塩にかけた娘が家を出てしまうこのときが、この一日の中で誰にとっても最も悲しい瞬間になります。新郎と家族は言葉を交わしたり、あるいは口づけしたりして最後の別れを惜しみます。

サマルカンドの結婚式 花嫁宅

そしてゲスト全員に見送られながら、外で待っていた花婿とともに同じ車に乗り込み、式は続きます。この時点で時刻は15時過ぎ。花嫁宅に1時間半近く滞在したことになります。
「とにかくド派手にやる」というサマルカンドの結婚式を、これでもかと実感することになった夜の部。その続きはまた次回の記事でお送りしましょう。

筆者

ウズベキスタン特派員

伊藤 卓巳

根っからのスタン系大好き人間です。まだまだ知られていないウズベキスタンの魅力や情報を、サマルカンドより愛をこめてお伝えします!

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。