ブータンってどんな国?南アジア神秘の国×日本の九州地方で生まれた「地域おこし」のアイデアとは

公開日 : 2024年02月16日
最終更新 :

執筆者:独立行政法人 国際協力機構(JICA)
社会基盤部都市・地域開発グループ第二チーム 水上 貴裕

「地球の歩き方Web」愛読者の皆様、こんにちは! モンゴル、タイ、パナマとお送りしてきた本連載ですが、第4回は南アジアの山間に生きる神秘の国、ブータンでの取り組みをご紹介したいと思います!

そもそもブータンって、どんな国?

皆さんは、そもそもブータンという国をご存じでしょうか? チベット仏教やロイヤルファミリーの交流など、時折ニュースで見かけることはあっても、そもそもこの国が世界地図のどこにあるのかも知らない方が多いのではないかと思います。

ブータン王国はインド北東部と中国の南西部に国境を接する小さな国で、近くにはネパールやバングラデシュといった国もある、南アジア地域の1ヵ国です。

豊かな山々や水源といった地形を持つ約3.84万㎢(日本の九州と沖縄を足した面積とほぼ同じ)の中に、およそ77万人(日本の練馬区や浜松市の人口とほぼ同じ)の人々が暮らしており、一国家としてはかなり小さい規模に見えるかもしれません。

ブータン・パロ県で、標高3120mの高地に建つチベット仏教の聖地「タクツァン僧院」(筆者撮影)
ブータン・パロ県で、標高3120mの高地に建つチベット仏教の聖地「タクツァン僧院」(筆者撮影)

山に囲まれた地域ということもあって、多数の少数民族が独自の文化や宗教のもとで伝統的な暮らしを紡いできたこの国では、自然環境との調和をとても大切に考えており、国民総幸福量(GNH)という国民の幸せを測る指標を重視して、世界で最も幸福な国になることを目指した国家開発を進めようとしています。

ティンプー市街地の様子(筆者撮影)
ティンプー市街地の様子(筆者撮影)

そんなブータンですが、日本ではほとんど知られていない、ユニークな教養環境があることをご存じでしょうか? 国語はゾンカ語ですが、先代国王以降の教育政策で教育システムごと欧米から輸入したこともあって、小学校以降で授業に使われているのはほぼ全て英語。なんと国民のほぼ100%が英語を話すことができるのです!

独自の観光客受入れルールがあり入国までのハードルは高く感じがちですが、一度訪れてしまえば、そのおおらかな国民性と高いホスピタリティにとてもいい意味で驚かされます。ちなみに、インターネットの普及率も2023年時点で97%以上と、秘境のイメージとは裏腹に、先進的な取り組みにもチャレンジしている国なのです。

山間では日本のODAで建設された橋が地元の生活を支えている(筆者撮影)
山間では日本のODAで建設された橋が地元の生活を支えている(筆者撮影)

首都ティンプーから中南部地域へ。どんな景色が広がっている?

ダンフー市街地の様子(筆者撮影)
ダンフー市街地の様子(筆者撮影)

ブータン観光といえば国際空港のあるパロと首都ティンプーを中心とした訪問計画になりがちですが、少し離れた地域には全く違った文化が根付いています。首都から車で4~8時間かけて山道を通った先にあるブータン中南部地域(チラン県、サルパン県、シェムガン県)は、海抜2500m以上で冷涼な気候のティンプーから、1500m~0mにまで高度が下がり、気候や植生が大きく異なります。

なかにはティンプーでは育ちにくい豊富な野菜や草花を栽培・出荷できる緑豊かな街ダンフーや、インド国境近くに野生のインド象も生息する広大な平地のジャングルを持ち、ブータン初の鉄道がインドから乗り入れてくる計画の進む熱帯気候の街ゲレフなど、さまざまな魅力のある都市が点在しています。

ゲレフ市街地の様子(筆者撮影)
ゲレフ市街地の様子(筆者撮影)

日本はこれまで、ブータンの山々に囲まれた地域同士のアクセスを、劇的に改善する橋の建設などをODAで支援してきていますが、今度はつながった町同士をどのように連携させ、魅力的にするかが課題になっているといえます。

ブータン中南部が九州をヒントに発想した未来のビジョンとは

阿蘇ジオパークでの取り組みについて説明を受けるブータンの人々(筆者撮影)
阿蘇ジオパークでの取り組みについて説明を受けるブータンの人々(筆者撮影)

そんな地域をどのようにこれから開発していくかを、私たちJICAがいま、一緒に考えています。潜在的な魅力があるとはいえ、人口の少なさや首都との距離などもあってまだまだ未開発なこの地域。

「ブータン国中南部地域計画策定プロジェクト」では、地域の住民や行政、NPOなどさまざまな人々が集まって開発ビジョンを決める「地域開発プラットフォーム(RDP)」の立ち上げを行う等して将来計画の策定を支援しており、同時に空間計画(中南部地域の土地に交通網や防災施設、地域センターなどの設備をどのように配置していくか)を提案する取り組みも行う両輪の活動をしています。

熊本市役所で熊本の魅力を活かしたまちづくりを学ぶ(筆者撮影)
熊本市役所で熊本の魅力を活かしたまちづくりを学ぶ(筆者撮影)

このプロジェクトでは2023年春、ブータン中央政府や対象地域の県庁、市役所などのメンバーを日本の九州に招き研修を実施しました。

山々の恵みが豊かな土地でどのように地域の魅力を活かしたまちづくりが行われているかを学ぶため、福岡や熊本などで自治体や地元企業により行われている観光資源や農産品、伝統文化などを活用したユニークなチャレンジを見学したブータンの皆さん。人口やインフラ整備が限られた山間地区でどのように地域の魅力を全国に打ち出していくかを九州の人々から学び、自分たちの地元でどんな地域おこしを行っていくかを検討することができました。

これらのプログラムを通してブータンの将来を担う人々に発想の機会を提供し、これから定められる中南部地域の開発ビジョンに有効で実現可能なアイデアとして取り入れていってもらうように伴走していくことが、私たちJICAが担おうとしているミッションのひとつです。

夜はさっそくその日の見学から気づいたことを発表し合うブータンの人々(筆者撮影)
夜はさっそくその日の見学から気づいたことを発表し合うブータンの人々(筆者撮影)

まとめ

多くの方々にとって未知の開発途上国は、実は身近な日本のふるさとでのチャレンジとさまざまなシンパシーを感じることのできる場所なんです。私も学生時代から海外旅行が大好きでしたが、こうした日本での取り組みから海外の人たちがヒントを得る取り組みを知ることで、ますます日本と世界のつながりに興味を持つことができました。

国内旅行のご予定がある方々は、ぜひその地域と世界の国々との繋がりにもアンテナを立てて、観光を楽しんでみてください!

筆者

国際協力機構

JICA都市・地域開発グループ

独立行政法人 国際協力機構(JICA:ジャイカ)社会基盤部都市・地域開発グループです

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