カサーレの古代ローマの別荘

4世紀頃に、大自然のなかで狩りを楽しむ別荘として建設され、入口には大浴場、右奥に食堂、中庭を中心に大小約40の部屋が連なる広大な遺跡だ。
バジリカの前に大廊下が広がり、北側には主にプライベートな居室が続く。部屋の目的により、モザイクのテーマや技法が異なり、暮らしぶりを想像しながら見るとより楽しめる。入口すぐが浴場で、冷浴室、微温浴室、高温浴室に分かれ、浴槽の底や床にはトリトンや魚の泳ぐ姿が描かれている（外から一部見られるが、入場不可）。入口の右奥、楕円形の中庭の先には、独立して食堂が置かれ床面には神話をテーマにしたモザイクがダイナミックに描かれている。

「オルフェウス」の部屋には琴を奏で、動物に歌いかけるアポロンの息子オルフェウスの神話の場面。「ビキニの少女」の部屋Sala dei Dieci Ragazze /Ragazze in Bikiniにはビキニを着て、円盤投げやボール競技に興じる10人の乙女の姿が描かれ、下段には月桂冠を頭に載せ、オリーブの枝を持つ勝者の姿がほほ笑ましい。
ひときわ大きな空間がバジリカBasilicaで、公式な儀式や謁見に用いられた場だが、モザイクは残るものの、ガランとした印象だ。左右に個室が続き、右側には海の怪物ナイアスとイルカに助けられた「アリオンの伝説」、「漁をする子供」、「エロスとパンの戦い」などが描かれている。バシリカの左には「控えの間」Vestiboloと「寝室」ubicoloが続き、「控えの間」には洞窟の中で杯を傾けるオデュッセウスとポリュペモス、「寝室」は別名エロティックの間と呼ばれ、抱き合うカップルの姿が描かれている。

これらの手前に続く「大狩猟」の廊下Corridoio della Grande Cacciaが一番の見どころで、約65mもの長い廊下に、
大絵巻が広がる。ジャングルでの狩猟の様子からガレー船への積み込み、盾を持つ剣闘士と猛獣との戦いの円形闘技場の場面まで描かれている。ライオン、トラ、ラクダ、象、牛車まで躍動感とリアリティのある場面は当時の様子を見ているようだ。この別荘の主は、ローマ帝政時代にイタリア各地で行われていた円形闘技場での猛獣狩りに使われた動物をアフリカから輸入して財を築いた人物とされており、この詳細な描写も納得だ。
「小さな狩り」の部屋Stanza della Piccola Cacciaは狩りに興じる人々が描かれ、中央には鳥を焼くシーンがあるのがおもしろい。

広大な敷地やシステマティックな浴場設備、さまざまなモザイクなど、遠い時代の暮らしが目の前によみがえるようだ。また、幾何学模様や結び目などのシンプルなモチーフ、陰影をつけたものなど、モザイクの構図や表現の違いも興味深い。